<主観的結論>
 


「……うざい」
「その後に死ねぐらいいって見せろボス」
「うるさい、黙れ死ね地獄に落ちろ」
「……俺に言うんじゃねぇよ」

不機嫌絶頂の綱吉は両手を机の上にたたきつけた。
「何だよこれ!!」
「抗議書だ」
「しっとらぁ!!」

フシャー、と怒るさまはまるで猫が敵を威嚇しているような。
ほわほわした髪が逆立ってるんじゃないだろうか。
今触れたら静電気でも飛びそうだ。

そんなことを考えつつ、XANXUSは肩をすくめた。
頭に血が上った綱吉は扱いにくい。
「俺はボンゴレのドンなんじゃなかったのかよ!」
「そうらしいな」
「ならなんで俺の命令には服従しないんだよ!」
それは年齢とか。
外見とか。
実績とか。
他にもいろいろあるだろうが、彼の性格が大いに関わっているのは間違いがないだろう。

砂糖菓子
チリエージャ
それがこの若きドンのあだ名だった。
末尾にラガッゾとつけられなかった分マシというべきか。
くっつけたら チェリーボーイ だ。
しかもそれを言ってるのが身内だったりするから始末が悪い。
いくら綱吉でも烈火のごとく怒るか……むしろ氷河のように冷たくなるか。
そっちのほうが人的被害は増すのだが。


「ああむかつくっ! XANXUS、この書類全部燃やしてくれ」
「言っとくが、テメェの命令にもムチャがあったんだからな」
呆れ果ててはいたが、とりあえず突っ込んではおいた。
何に呆れているかって? そんなもん双方に決まってる。
「実力を評価してほしいなら自分でファミリーつくればいいじゃないか」
「……まっこと、テメェはボンゴレだよ」

しれっとむちゃを仰せになったデチーモにXANXUSはニヤリと笑った。
まあ自分に問題が怒ることはないわけだから、悠々と構えていられるわけである。





綱吉の机の上に積みあがった抗議書。
それは先日、綱吉がクビにしたり僻地にぶっ飛ばしたりつまるところ降格させた幹部やらその部下やらからのものだった。
場合によってはずっしりと、大判封筒の中身をみっちりと紙で詰めて送ってくれた奴もいる。
それを全部読めというのか、ふざけるな。

「査定基準がムチャなんだよ、実力者まで切ってどーすんだバカツナ」
「さりげなく銃を突きつけるなー!!」
日常会話の中での流れのようにリボーンに銃をつきつけられた綱吉は悲鳴を上げるが、家庭教師さんは動かそうともしてくれない。
「理由は何だバカツナ」
「……かった、から」
「あぁ?」
聞こえねーよ、とぐりと銃口をめり込まされて、綱吉は脂汗を浮かべる。

もしかして理由を言ったらそのままズガンとされるんじゃ……いや、この家庭教師はやりかねない。
「努力してなかったからっ」
「アホかお前、んな主観的なもんで使える人材切ったのか。努力しなくたってできるやつぁデキんだよ」
「知ってるよ」
知ってるよ、と呟いた綱吉の横顔にリボーンは銃口をそらした。

「知ってるよ、結果が全てだってことぐらい。だけど、努力している人を蔑ろにして報わないなんておかしいよ」
「……バカツナ、マフィアの世界ってのは」
「知ってるよ、だけど報われるってことを知ったらみんなもっと頑張るだろ!?」
降格させた者たちの代わりに昇格させられたのは、穏便に町を守ろうとしてきたマフィアたちだった。
彼らだって手を汚すことはある、これからもそうだ。
けれど彼らは警察を軽んじない、市民を軽んじない、自分たちの責任を軽んじない。
そうやってもう長く、永く、ボンゴレの名を磨いてきたのだ。

そんな彼らがただ「結果を残していないから」非道に非情に、己の欲に忠実に暴利をむさぼる幹部の下で飼い殺しにされていた。
それに綱吉は憤り、あらゆるデーターを洗いなおさせて、これはという人物を見つけ出したらしい。
……よくやる。

「実力に劣るのは事実だ。コケるかもしれねーんだぞ」
「きっと彼らを助けてくれる仲間がたくさんいるよ」
上に立つ人ってそんなに凄い人じゃなくてもいいと思うんだよ。
このボンゴレファミリーの、そしてイタリアの実質上の長は幼い顔で笑った。
「凄い人じゃないほうが、いろいろな人に助けてもらって皆で頑張っていけるわけだし」
そっちの方が皆が幸せになりやすいと思うんだよね。
そういって、だめかな、と眉を下げる。

相変わらずこの教え子は。
もう出会ってから八年近いのに相変わらずこんなことばっかりで。
「テメーがそうだもんなぁ、バカツナ」
揶揄する表情で言ってやれば、ふわりと溶けるように笑った。
「うん、いつもありがとな、先生」
「俺はボンゴレじゃねーからな」
「でも俺の先生だし」
ね? と言われてリボーンは舌打ちをすると銃をスーツの中に納めた。

昨日今日で来たドン・ボンゴレ暗殺依頼者の名前のリストを、かわりに引っ張り出すために。



 

 

 

 



***
唐突に。
ネタになった部員にはわるいけど、私は君の後ろに構成員αの影を見た。



リボーン「で、実際に不正とかそのへんを捜査したのは誰なんだ?」
綱吉「骸」
リボーン「……一人で? 全部か?」
綱吉「一人で。全部。1月でやらせた」
リボーン(……同情するしかねーな)