<未定の再会>
到着したと聞いて、綱吉の体がこわばった。
彼と思い切り戦ったのは、綱吉としてはほんの少し前の話だ。
容赦なくぶん殴って凍らせて。
だから、たとえ相手にとっては十年が経過しているとわかっていても。
少し、怖い。
「うお゛ぉ゛ぉおい! 生きてるかぁ゛あ゛!!」
聞き間違えようもない大きな声で殴りこんできたのはスクアーロ。
その後ろからひょこっと顔を出したのはベルフェゴール。
二人とも少し髪が伸びて……他はあまり変わってない。
これなら。
きっと、XANXUSも――
「相変わらずヘボいトコロだな」
スクアーロの後ろから真黒のコートを羽織った彼が。
文字通りぬっ、と現れる。
適当に緩めてはいたが案外ちゃんとネクタイを締めている。
そのことに驚いていると、やおらコートを引っ掴んで床に投げた。
「ししし、タオルくんない? 濡れちゃってさあ」
「雨だったのか?」
リボーンの質問にスクアーロが頷いた。
「夕立だが降られてなぁあ……ってボス!」
コートを投げ捨てたXANXUSは上着も床に落として、ネクタイを緩めている真っ最中だった。
何もこんなところで、という意味だろう。
まあ京子ちゃんもハルもクロームもイーピンもビアンキもこの場にはいないからいいのだが。
……ついでに獄寺君とか了平さんとかやかましそうな面子も退かしておいてよかった。
それにしても相変わらず自分勝手な男だ。
呆れていると、目深に下ろした前髪の後ろから覗く眼光が、鋭く綱吉を射抜いた。
「……」
はだけられたシャツからは広い胸板が見える。
10年前も体格は相当良かったがもしかしてさらによくなった?
男として心底うらやましい、神様はなんて理不尽だ。
「お前今エロい顔してたぞ」
「……は、はああ!? なにいっちゃってんの!?」
いきなり横から放たれた家庭教師の爆弾発言に綱吉は渾身で突っ込む。
そ、そりゃあ確かに見とれていましたけど!
「ツナ、お前マッチョが好みだったのか? じゃあ俺今度からバッチリ筋トレするからなー」
「山本までなにいっちゃってるの!?」
天然友人が真顔でそんなボケをかまし、ますます綱吉は慌てる。
もちろんガタイがいいのはうらやましいとは思うがそれだけで。
好みって、ナニソレ。
「ちちちちがうから! いやまあそりゃあガタイいいなーとは思ったけど!」
「ないものねだりということか」
「言うな空しいから!! でもそう、そうゆーこと!」
家庭教師の一言はきつかったがこの際何でもいい。
うらやましいと思ったのだそれだけ!!
必死に弁解していた綱吉の前に、いつの間にかXANXUSが立っていた。
相変わらずシャツの前をはだけただけで、濡れた前髪から水が落ちている。
「って、ちょ」
「そんなに触りてぇならかまわねぇんだぜ?」
クク、と笑う声に思わず赤面する。
「な――XANXUSまで何言って!」
「ほら、この身体はテメェのもんだからな。好きにしろ、沢田綱吉」
大きな身体が降りてきて、綱吉の顎をすくって持ち上げて。
反対側の手で腕をつかまれて、むき出しの胸に押し付けられる。
「どうだ?」
「っ――な、なに――」
どう、と言われても。
少し冷たい、雨に濡れていたからか。
思っていたより肌が滑らかで、心臓の音がー―
「!」
思わず手を引っ込めようとしたが、XANXUSはそれを許してくれなかった。
代わりにもっと引き寄せられて、すっぽりと腕の中に閉じ込められる。
「ちょ、離せよ!」
「何でだ」
「なんでって」
「ものほしそうな顔しやがって。テメェは本当に俺が好きだなぁ?」
「な……」
絶句した綱吉にXANXUSは声をあげて笑う。
あの刹那的な笑い方ではなくて、もっと楽しそうな。
本当に変わったんだなと。
そう思って思わずしんみりした。
……ってしっかりしろオレ! そんなことしてる場合か!
「風呂を貸せ」
「真っ直ぐ行って右だ」
「って何教えてんのリボーン!」
悲鳴を上げた綱吉をXANXUSは軽々と抱き上げる。
そのまま背中に担ぎ上げられて、足をばたつかせたが無駄な抵抗だった。
「綱吉」
「な、なに!」
「……テメェが悪いんだぜ」
運ばれながらそういわれて、綱吉は目を瞬かせる。
今、なんて。
「勝手に死にやがって。今晩は寝かせねぇから覚悟しておけ」
「ってオレのせい!? 寝かせないってどう言うコト!? そもそも今から風呂って一緒に!?」
「風呂じゃヤらねぇよ」
「そういう問題じゃねええええ!!!!」
渾身の突っ込みだったがしかし。
風呂に運ばれていく綱吉を助けてくれる人は誰もいなかった。
***
あれ。
なんかいつもと同じノリだ。