<責任の所在>

 



ふらりと部屋に来た骸は書類を捌いている綱吉に捕まった。
仕事を手伝おうとはミリとも思わないので、そのままソファーに座って紅茶とか勝手に淹れて飲んでいると、さすがに腹が立ったのか話しかけられる。
「骸さあ」
「何です?」
「いや、今でも隼人やビアンキに憑けるのかなあって思って」
くるくると万年筆を回しながら綱吉は尋ねる。
もちろん視線は書類だ。
こんな話に全神経使ってられるか。

「もともとアレは精神的な隙につけ入るものですから。体力気力が充実していると難しいでしょうね」
「やっぱり直接骸に書類押し付けた方が早いよね」
「…………」
なんともいえない気分で骸は紅茶を飲む。
「ということで骸は骸としてしっかり働いてもらおう」
うんそうしよう、と頷いた綱吉を見て骸は両目を細めた。
「……なんか思うんですけど、僕は君に関わったことで人生を誤りましたよね?」
本心から出たおそらく言ってはいけない言葉だったのだが、綱吉は普通に頷いた。
「俺もお前と会ったおかげで人生変わったよ」

骸と対峙して、綱吉は初めて力を願った。勝つために。
故に小言弾が出てきて、故にハイパーモードとなった。
あれがなければ綱吉が十代目に確定したりXANXUSに襲われたり十年後に飛ばされたり……ということもなかったはず。

「あれ? 今までXANXUSのせいだと思っていたけど骸のせい?」
そもそも骸と関わらなければ霧の守護者が揃わなかったはず。
いたとしてもコレより数段マシだったと思う。
少なくとも哺乳類だったはずだ。植物じゃなくて。
とりあえず復讐者のところに殴りこみに行かなくては済んだ。
「ふむ、やっぱりお前のせいらしい。責任を取って労働しろ。タダで」


さらりと爆弾発言をされて骸は目をむいた。
「横暴ですよ!!」
「じゃあ今日までの俺の仕事全部任せた。八時に隼人が取りに来るからソレまでに終わらせておくこと。じゃないとヒバリさんを怒らせる」
一息で言ってのけた綱吉はとっとと万年筆を机の上に投げ出すと椅子を降り、笑顔で骸のところへを近づく。
そしてもう一つ言い放つ。
「それじゃ俺はXANXUSとディナーに行くから」
「ちょ!? あなた昔と性格変わりましたよね!?」
思わず突っ込むと、平気な顔で肩をすくめる。
「ソレがお前のせいだという結論が今出た」

綱吉の手が伸びて骸の紅茶のカップを掴む。
くんくんと匂いをかいでから少し傾けて口に運んでいるのを骸は大人しく見ているわけにもいかず、反論した。
「そんなことはありません! あの後だって……XANXUSとドンパチやってた頃だってあなた甘ちゃんだったじゃないですか! 十年後に飛んだ時だってまだまだダメツナって感じだったじゃないですか!?」
そうでしょう! と叫んだ骸にカップを下ろした綱吉はゆっくりと伏せていた瞼を押し上げる。
額に灯る炎、琥珀の目。
「何か言ったか六道骸」
「な、なんでそこでハイパー化するんですか……」
思わず立ち上がって後ずさった。
「俺を呼び覚ましたのはお前だ。他に言いたいことがあるか?」
言ったら確実に殺られそうだったが、叫ぶしかない。
「その後の綱吉君の黒化諸々は僕のせいじゃないです!」
ちゃっかり主張すると鼻で笑われた。
「はあ……わかってないなあ、骸。俺がそうなったのは主にお前らの勝手すぎる行動の所為だろう?」
額の炎は引っ込んだがひどいことを言っているのは変わらない。
「だったらそれは僕だけのせいじゃありません! 他の守護者もそうでしょう!?」
問題児満載のほかの面子をあげてみると、綱吉はさらりと笑顔で言った。

「しかしお前のせいでもある」
ぐぅの根も出ない。というか出したら殴られそうだ。
「そして今、ここにいる暇人なのはお前だけだ。これ以上説明要る?」
可愛らしく首を傾げて見せたボスに骸は最後に足掻いてみる。
いや……無駄な気が薄々してはいる。
「僕だって暇じゃありません」
本日二度目に鼻で笑われる。
気のせいじゃない、確実にこの十代目は性格が悪くなっている。
それが骸の所為なのか守護者の所為なのかはわからないが。
「俺は忙しい。なぜならあと五分でヴァリアー本邸前に行かないとXANXUSとの約束がパァだ」
腕時計を見ながら堂々と仕事を抜け出すことを宣言した綱吉のスーツの端を、骸は焦って掴んだ。
「あなた自分の守護者とあのエクステ男とどっちが大事なんですか!」

わかりきっていた疑問だった。
人はそれを愚問を言う。

案の定、綱吉はにっこりと笑うと骸の手を叩き落とした。
「どっちも。ただし取り扱い方は個人差があります」
「……個人差ですか」
骸の扱いが相当悪いのは明白だ。


「そう。よってXANXUSは俺にすっごく美味い料理をご馳走することになり骸は俺の仕事を引き受ける、と」
「……役目をかわりなさいあのエクステ!!」
絶叫した骸の脳天に綱吉から鮮やかな拳骨がプレゼントされた。
ひりひり痛む拳を突きつけたまま綱吉は笑顔で言う。
「エクステ言うな」
「じゃあハゲが怖くて前髪おろし」
今度は容赦なく蹴りを身体に叩き込む。
常日頃、綱吉は小さいだの足が短いだの言われているが、座っている相手を蹴るのは真にラクチンだ。
「骸、俺の愛人筆頭に何言っちゃってるの?」

確かにXANXUSはそろそろ厳しい年かもしれないけど!
でも生え際はぜんぜん危なくないしあのエクステは似合っててかっこいい!

そんなことを思っているのは綱吉だけなのだが、彼はそんな事気にしない。
代わりに笑顔で床に倒れた骸を見下ろして言い放った。
「なるほど、半年減俸してほしいと。了解した」
「あの頃の綱吉君が懐かしい……」
「ホザいてる間に仕事しろ」
蹲って呟いたナッポーにはそう告げて、綱吉は踵を返す。
あの頃に戻りたいとは思わない。戻ったって同じ事をやり直すだけだから。

「じゃあ頼んだよ、骸」
部屋を出る前に振り返るとそのままの姿勢でえぐえぐ泣いていたが、綱吉は気に留めずひらりと一度手を振って執務室を後にした。


 

 

 

***
結局、綱吉がデレてるだけなザンツナでした。
メッセ会話より。地文入れただけだぜベイベー。