<Last time>
 



腹の中に広がった熱い感覚に息を詰める。
気持ち悪くて、だけどどことなく充足感を覚えて、綱吉は体から力を抜いた。

時間はあと三十秒足らず。
とりあえず最後まではできたらしい。
もうこのままつながって散れたらいいんじゃないかと熱に浮かされた頭で思いながら、至近距離にある男の頭を抱き寄せる。

少し濡れた唇を啄ばむように触れた。
隙間から覗く赤い舌がうまそうかもと、引き寄せるように舌を伸ばし。




『ご無事ですか十代目!!!!』


がきんと舌を噛んだ。
スピーカーから聞こえてきた声と痛みに一気に思考が現実に引き戻される。
コンピュータに表示されたタイマーは、あとヒトケタのところで停止していた。
残り時間をカウントする電子音の代わりに、ハウリング気味に部屋に響いたのは紛れもなく綱吉の右腕の声だ。
『遅くなってしまい申しわけありませんでした! タイマーはもう止めましたのでご安心ください!!』
「隼人……」
『こちらからそちらの様子は分からないんですが……ちくしょう集音マイクまで死んでやがる』
ぶつぶつと独り言を呟く獄寺に、綱吉は心底ほっとした。

獄寺はおそらくここのコンピュータにどこからかハッキングして止めてくれたのだろう。
マイクやらカメラやらが死んでいるのは、この部屋から脱出あるいはタイマーを止めようと綱吉とXANXUSが好き勝手暴れたからであり、それが今となっては幸いした。
獄寺には悪いがこの状態を見られるのは非常に勘弁願いたい。
ちょっと人様に見せるほど命捨ててない。さっきまで捨ててたけど。


……とりあえず、どうやら助かったらしい。
ほうと安堵の息を吐いて、まだ自分の上に乗っかっているXANXUSの腹を足で押した。
「XANXUS、どけ」
「……さっきまで縋りついてた奴に対してその言い草はねえだろ」
「あれはたぶん気の迷いだ」
足を動かすと腰の辺りに鈍い痛みが走るが、まぁ動けないほどではない。
獄寺は安全を確認できていない綱吉達を助けに、すぐにやってくるに違いない。
それまでにせめて服を。
ついでに証拠隠滅を。
さらにできる事なら生き証人も潰したい。
「お前今さらっとえげつねえ事考えなかったか」
「いや、いたって普通の事しか。てかほんとどけよ、隼人達が来る前に服くらいは――」

『十代目、申しわけないんですが、俺はまだ後始末が残っているのでそちらに直々にお迎えに行くことができません。そのかわり――』

「ツナー助けにきたのなー! ついでにXANXUSも……」

スピーカーからの音が途切れる。
そして、獄寺が電子ロックを解除したのだろう、つい十分ほど前までどんなに頑張っても開かなかった扉が開いて、時雨金時を肩に担いだ山本が、笑顔で立っていた。

「…………」
「…………」
「…………」
『――不本意ですが山本のヤツが行きましたので』

スピーカーから、こちらの状況を理解できない獄寺の声が流れていた。
しかし綱吉はもうその声は耳に入ってはいなかった。

山本は笑顔のまま表情を固まらせて、きょろきょろと左右に首をめぐらせる。
それから綱吉とXANXUSを見て……何をしていたのかは体勢と綱吉の恰好で九分九厘推測されただろう……親友を気遣う笑みを見せて、言った。
「あと何分後に改めて助けにこればいい? あんま長いと獄寺が心配すっからダメだけど」
「十五分でいい」
「了解なのなー」
「いやいやいやいや今すぐ助けろよ山本ー!?」

助けてよ! 寧ろ今この上に乗っかってるのから俺を救い出して!!

絶叫して、今度こそ綱吉は容赦なくXANXUSの腹に蹴りをぶちかまして下から這い出た。
しかしすでに山本の姿は扉で見えなくなっており、その場に崩れ落ちる。

だめだ、もうだめだ、こんな姿を見られてしまったというかXANXUSとヤったって明らかにばれてるばれちゃってるよどうしようどうしようどうしよう。

床に突っ伏したまま動かなくなった綱吉に、XANXUSは無言で床に散らばっていた服を差し出す。
表情のない顔でそれをもそもそと身につけ、それからグローブまできっちりと嵌めたところで、綱吉は顔をあげた。

そこに宿るはファイアオレンジ。
考えてみたら、すでに戦闘が終了しているのにグローブまでつける必要などなかったのだ。
綱吉の標的はすでに敵対マフィアではなかった。

「おい」
「……お前と山本の記憶を抹消しないと死んでも死にきれねえ」


完璧に据わった目で呟いて、手を掲げた綱吉が何をしようとしているのかを悟った瞬間、XANXUSは逃げた。




 

 





***
このあとXバーナーが炸裂します。