<冗談のような本気のような>

 


「やめろよ、っつーかそれ以上すんな! おいこのド変態!!」
綱吉が絶叫しても、日常的な嫌がらせの一環は続いていた。
後ろから彼の腰に両腕を回しているザンザスは、先ほどまでねちっこく耳の裏を舐めていた。
それに飽きたのか、耳たぶを甘噛みに走っていて、我慢し切れなくなった綱吉が大声を上げたのだ。
確かにこいつは何を思ったのか、あの戦い以降こうやってちょくちょく綱吉にセクハラと犯罪の境界線みたいなことを仕掛けるようになった。

けして恋愛感情などというステキなものがあるわけではない。
その証拠に綱吉が嫌そうな顔をしてげんなりすればだいたい満足するのか離れていく。
まあそのせいで神経性胃炎になりかけたこともあるが。
あの時は胃薬を飲む姿をそりゃもう楽しそうに見ていたっけ、どんだけサドなんだ。

「おいXANXUS! ウザいんだっていい加減離れ――」
テレビから視線をそらして、後ろに寝転がっている男を引き離そうとする。
しかしハイパーモードになっていない綱吉の腕力では到底この男に敵わなかった。
いや、なってもタメ張れる程度なんだけど。
「……おいって、放せよ。っつーかなんでお前人の休暇に乗り込んでくるわけ」
「オフだったのか」
「……うっそもうヤだ」
思わず綱吉は呻いた。
休暇じゃなきゃ私室でソファーにひっくり返ってテレビなんぞ見とらんわ。
つい数時間前までは惰眠をむさぼっていたのだ。

「オフなら問題ねぇな」
「俺は平穏にオフを過ごしたいんだよ! 何のためにリボーンが絶対こない日に設定したと思ってるんだ!?」
「ついでにテメェの金魚の糞とバカカスもいねーじゃねーか」
「……隼人は出張で山本は日本」
「霧と雲もいねぇ」
「お前、個人名覚えろよ? 骸はアラスカでヒバリさんはカリブ海で休暇中」
故意ではない、だがそういえば守護者の多くは今日、ここから出払っている。
いるのは了平とランボとクローム、まあヴァリアーがほとんどいてかつ守護者がそれだけいれば十分だ。
人員の動きを把握している隼人が何も言わなかったのだから、戦力配置は問題ないだろう、でなくば彼が綱吉を防護の薄い屋敷に残して出張するわけがない。

くつくつと耳元で笑い声がして、綱吉は眉を潜めた。
XANXUSがこういう笑い方をする時はだいたいセクハラされる時だが、すでにソファーに横になって後ろからがっつりホールドというだいぶアレなセクハラをされている。
これ以上なんかする気なのか、こいつは。

「……綱吉」
「な、なんだよ」
名前を呼ばれるのはとても珍しい。
しかも声色が真剣だったので余計に緊張する。
「俺はな、ボンゴレがほしい」
「……初耳だ」
きっぱり言った綱吉にXANXUSはまた静かに笑う。
後ろからがっちり抱かれているので表情が見えない。
「最強のボンゴレだ」
「俺を殺して取るつもりか?」
「テメェを殺したら最強でなくなる」
「……何がしたいんだお前」

呆れ果てて突っ込んだ綱吉に、XANXUSはまた笑う。
嘲りというわけではなく、それが楽しそうだったのでいったいこの会話のどこがお気に召したのか。
「わからんのか……本当にオソマツな頭だな」
「なにをぅ……っ!?」
振り返りかけた綱吉の体はソファーに押し付けられていた。
あれ? なにがおきた? と思わず頭の中が真っ白になる程度には唐突だった。
「な、なに? なにこれ? え?」
「殺さなくても手に入れる方法はあるんでな」
「はい? どういうい……」

血の気が引く音がした。
絶対にした。
ぞざざざと引いた。
「ちょ、ちょっと待て落ち着け! 俺は男だ! 別に女顔でもない!」
「そんだけ童顔じゃ男も女もねぇよ」
「ちっげーよ!! 俺は男だっての!」
「女には見えねぇな」
「ってシャツのボタンすでにはずしてんじゃねーっ!!!!」

絶叫した綱吉の鎖骨に、XANXUSは食いつく。
ひぃ、と悲鳴を上げるしかない彼を見下ろして、それはもう楽しそうにお笑いになった。

「安心しろ。男を抱くのは初めてだがやり方は知ってる」
「ちっとも欠片も安心できねぇえええええええ!!!」
オフだからってグローブ机の上にほっちゃってた俺のばかぁああ!
内心絶叫しながら、こうなったらXANXUSは絶対引かないと直感してしまった自分を殺したくなった。

もっと別のこと直感してくれよ。




 

 


***
本誌に萌えてこれ。