犯行現場は密室。

部屋のテーブルの上に真っ二つになったパイナップル。

凶器はない。

犯人は誰だ。


 

 



<名探偵ヒバードの事件簿特別編〜パイナップル殺害事件>


 

 




それは異様な光景だった。
百戦錬磨のボンゴレ幹部も絶句するすさまじい光景だ。
なにせ、パイナップルが机の上で真っ二つである。
ぱっくりと割れているのである。
丸ごとである。
これを異様といわずしてなんと言おう。

「こ・・・これは・・・」
扉を開けた獄寺が絶句していた。
その後ろから入ってきた面々も何も言えなかった。
ただ一人、ひらひらと入ってきた黄色い鳥が素直に鳴いた。

「パイナップルシンダ〜」

・・・うん、間違ってはいない。
たしかに「死んで」いるだろう。
まあ実際に「死」なのかは不明だが。


そして最後に部屋の中に足を踏み入れた男は、目の前の光景に憤怒の炎を燃やしたらしい。
「クフフフフ、誰ですか・・・? この僕にケンカを売ったのは!」
いやそこで割れてるはパイナップルだから。
パイナップル科パイナップル目パイナップル、学名Ananas comosus。
ほらよく缶詰で出てくるやつだよ。
「いいえ、パイナップルは「完全無欠」! 僕の象徴、僕の分身! そのパイナップルを真っ二つにするなど、僕への冒涜であり挑戦であるとしか思えません!」

なんでそうなる。

「自首しないおつもりですね? よろしい、それじゃあ僕が真犯人を見つけ出してみせますよ!」
声たからかに宣言した骸に、一同がかわいそうな人を見る目を向けたのは言うまでもない。











結局、パイナップルの遺骸の前で会議はしたくなかったうえに、遺骸撤去を骸が断固反対したので、別室で会議は行われた。
それが終了後、骸は事件現場へとすっ飛んできた。

整理しよう。

この会議室は幹部が通常つかうもので、基本的に扉の鍵はかけられている。
窓はもちろん、全て内側から鍵。
扉の鍵は獄寺が会議前に全員の前で開けたので、もちろんちゃんと閉まっていた。

鍵を持つ人物は限られる。
まず、獄寺。彼はボンゴレの右腕なので当然だ。
次に雲雀。彼はあらゆるところに勝手に侵入するのでここの鍵も当然合鍵として持っているだろう。
この二名は自分専用の合鍵を常に携帯しているはずだ。
ただしここの鍵は借りることもできる。
ボンゴレ幹部であればほぼ顔パスに近いものがあるので、山本、了平、クロームそしておそらくXANXUSも借りることは可能なはずだ。
ヴァリアーのスクアーロ以下となると、顔パスで借りられるかは怪しいが、借りれないこともないだろう。
なお、ランボはおそらく貸してもらえない。

次に、鍵がなくとも部屋を開けられる人物を考える。
リボーンやマーモンは鍵ぐらい平気で開けそうである。

最後に綱吉。
彼は自分用の鍵を持っているはず、なのだがめんどくさがって金庫のなかにブチこんだまま出していないらしい。
だがまあ、取り出せば可能である。

・・・というわけで、犯行不可能なのはランボぐらいである。
事件現場の検証が必要だ。


「マズイネー」
唐突に鳴いた鳥は、くわえていたらしきものをテーブルに落とした。
「どうしましたかヒバード・・・おや」
そこに落ちていたのは何かのかけらだった。
ヒバードが食べなかったということは、食べ物ではないのだろう。
指先でつまんでみる、色は暗い緑だろうか。
潰してみるとかなり固いものであることがわかった。
「ヒバード、これはなんでしょう」
「ハッパ」
「葉? パイナップルの葉ですか? どこからかじったんですかもう」
そう呟きながら葉の断面をよく見ると、ヒバードがかじったにしては妙に綺麗な切り口である。
「ふむ・・・パイナップル自体を切断した時に葉も・・・?」
そうとも思えないのだが。
大体ど真ん中を真っ二つなのだ。
・・・どれだけバカ力だ?

「他になにかありませんか。犯人の遺留品とか」
鳥に話しかけながら果物のパイナップルを切った犯人を捜す二十代男性。
とてもイタイ存在ではあるが、本人が気がつかないからいいのだろう。
「カミノ ケー」
ヒバードがつまんで持ってきたのは髪の毛だった。
色は黒。
「しかし、これがパイナップルを殺した犯人のものだとは・・・掃除してないだけかもしれないですし」
「ソウジマイニチ スルノー」
そうだった。
ここはボンゴレ本部。
掃除を毎日する専門の人間がいるはずだ。

てことはこれで犯人はぐっと絞られる。
黒髪なのは。
山本。
雲雀。
クローム。
XANXUS。
レヴィ。
以上の五名である。

「ふむ・・・他にありませんかね。なければ推理していくしかないわけですけど・・・」
ヒバードはぱたぱたとテーブルまで飛び上がり、ぼてっと着地する。
うんとこしょと立ち上がって、ぺたぺたぺたと二つに割れたパイナップルの間を通過していく。
こうしてみると、黄色と黄色でとっても可愛らしく目にも優しくキュートなコラボレーションで・・・


「あっ! そうですよヒバード! パイナップルの隙間が開きすぎです!」
凄惨な事件現場に気をとられていたが、二つに割れたパイナップルは、そこで切られたにしてはやや離れすぎている。
少なくともヒバードが間を歩けるほどの幅はあるのだ。
「と、言うことは・・・犯人はここで切ったわけではない・・・どこかから持ってきた?」
しかし廊下を、真っ二つにしたパイナップルを持って歩く人間がいたら、誰か気がつくだろう。(聞き込み済)
それにこのパイナップルの切り口はさほど古くはない、だが廊下にはパイナップルの香りはなかった。
「うーん・・・」

現場はここなのだろうか。
いや、一人条件を軽く満たす人物がいる。

クロームだ。
彼女なら幻術をかけてなんとでもできる。
ただ、クロームには動機がまったくない。
むしろ二つになったパイナップルにショックを受けていた骸にショックを受けていたようだったから、彼女が犯人なら即効で自首しているはずである。


「マップタツーマップタツー カミコロスー♪」
楽しそうに歌ったヒバードは、パイナップルの葉の部分に止まると歌(?)を続ける。
「カミコロスー モヤスー ヤクー マップタツー!」
「クフフフ、なるほど、そういうことですねヒバード」
「マップタツー」












「どうしたんだ骸」
「クフフフフ、とぼけるなんていい度胸です山本武。犯人はあなたですね!」
ビシッと指差し、叫ぶ。
指差された山本は、あははと笑いながら頭をかいた。
「ははは、やっぱわかっちまったか」
「ヒバードが教えてくれました。遺留品は黒髪。雲雀恭弥ならもっとぐちょぐちょでしょうし、XANXUSなら真っ二つより燃やしそうですし、レヴィは雷で焼いてます。斬るという動作は貴方の特徴です」
「マップタツ!」
「凶器がないのもあたりまえ、貴方の持っている時雨金時によるものだからです! それに、貴方は一度パイナップルを空に投げてから斬りましたね。だから二つが離れて落ちていた」
「そうなのか?」

感心しきりの様子の山本に、ヒバードが飛んでいく。
ちょこんと肩の上に乗って、首をかしげた。
「シュギョー」
「そうそう、実はかくし芸の練習でさ。パイナップルの感触がちょっとやりにくいって一発目で気がついたから、別のを探しに行こうと思ったらツナに捕まってな。いやあ、ここ会議で使うってすっかり忘れてて」
あはははは、と爽やかに笑う山本の顔に嘘はない。
嘘はないからこそ、骸の空しさは増す。


「貴方を真っ二つにしてさしあげます・・・!」
「え? おいおい、冗談だろ骸」
「いいえ冗談ではありません。第一の道、地獄道」

足元が地割れを起こす中、ヒバードはいち早くたった今開いた扉へと滑り込むことに成功した。
さらにそこに立っていた最強の人物の頭にちゃっかり着地した。
「スッキリカイケツー!」
「そう、ご苦労様ヒバード。お疲れ様、俺」
茶色のもふもふほわほわした座り心地のいい髪の持ち主は。
そう呟いて部屋に一歩踏み出した。











犯行現場は密室。

部屋のテーブルの上に氷付けのパイナップル。

犯人は誰だ。




またかよ。
そう物語る幹部達は、今度は犯人なんて考えなくともわかっていた。
彼らは察する必要すらなかった。
その氷付けのパイナップルの、ほんのわずかに空気に触れている髪の部分に鎮座しているヒバードが声たからかに犯人を暴いてくれたのだ。


「ツナヨシー ツナヨシー!」

全員、中心に立つドン・ボンゴレ十代目から反射的に視線をそらした。


「スッキリカイケツー!」
ただ、ヒバードだけはつぶらなお目目で真犯人を見据え、高らかに鳴いた。

 

 



***
すごいよヒバード!