<コラボレーション〜沢田綱吉の場合〜>
 




うん、わかった。
さすがにこれはないだろうと油断していたオレが悪かった。

考えてみればマフィアというとても現実的な大枠の中では好き放題だった。
かく言う自身だって、手のひらから炎を出して飛び回るじゃないか。

「オッケー、オレが悪かったごめんなさい許してください戻してください」
口の中で早口に呟いて、布団の中にもぐりこむ。
もっともそれで事態が好転するはずもなく、仕掛け人が姿を現すこともなかった。
「チクショウ」
毒づいて両足をベッドから下ろす。
床についた足がいつもより小さくなっていることにため息を禁じえない。

立ち上がると視界の高さは――・・・幸いなことに変わっていない。
これなら服はとりあえず着れるだろうと現実逃避気味に順応性の高さをフルに生かすことにして、沢田綱吉は部屋の扉を開けた。





「かあさーん」
高い声で呼ばれて、奈々は頭をめぐらせる。
イーピンはもう少し違った声だし、ランボは奈々をそう呼ばない。
ふぅ太はそろそろ変声期だ。
「あら・・・? つっ君?」
休日のわりに早く起きた子供に破顔して、奈々はキッチンから歩いてくる。
「どうしたの? あらまあ、髪がぼさぼさよ」
「いや・・・なんていうかうん、その・・・オレさ」
「女の子なんだからちゃんとしてないとダメじゃない」
「そう、オレ女の子になっ・・・はいぃ!?」

笑顔の母親に手櫛で髪を梳かれて、綱吉は絶叫した。
そう、確かに今の自分は女の子になってしまっている。
遺憾ながらそれは事実である。
てっきりあの家庭教師に一服盛られたのだと思っていた。

違うのか。

違うのかオイ。

「いや、オレはもともと男の子だよね!?」
「たしかにつっ君は男の子の名前だし、背も普通の女の子よりは高いし、こんな髪の毛も短いし、自分のこともオレって言うけれど」
れっきとした母さんのかわいい娘じゃない。
スマイル120%で言われて、綱吉はその場に膝を着いた。

何かが折れる音がした。


「あらまあ、つっ君、大丈夫?」
「・・・は・・・ハハハ」
てことはなんだ、ほかに妥当なセンはなんだ。
母親がここまでタチ悪く綱吉をからかうとは思えない。
性別転換をさせられたとばかり思っていたが、性別転換じゃなくて。

性別転換世界に投げ込まれた、のほうが正しいのだろうか。

・・・んなアホな、どこのSFだ。
即座にその想像を打ち払って、綱吉は何とか立ち上がる。
目下、母親がいつもの母親であったから、綱吉以外の人間の性別が反転している可能性は薄いだろう。
とりあえず家にいるメンバーを確認する。

「イーピンは」
「イーピンちゃんはまだ寝てるわよ」
先にランボを確かめにいこうとすると、そっちじゃないわよと奈々に止められた。
「イーピンちゃんは女の子だからあっちよ。ランボ君はふぅ太君と同じ部屋にいるでしょ?」
忘れちゃったの? と笑われて、とりあえずランボとふぅ太、イーピンは問題がないことがわかった。
その部屋割りは綱吉にも覚えがあるわけで。

「リボーン、は?」
「今日はリボーンちゃんが来る予定だったの?」
首を傾げられて、そういうことはちゃんと言ってくれないと、食事の量を増やさなきゃいけないじゃない、と言われ、綱吉は瞬きをした。
リボーンがこの家に住んでいないというのか。
あの超絶グルメの奴は、母親の料理だけは大のお気に入りだというのに。

妙に捻じ曲がっているそこが気になった。
ついでに、話しながら母親が作っているやけに大盛りの朝食も気になる。

「さて、用意ができたわ。つっ君起こしてきてね」
「・・・誰を?」
あらまあ、と笑って奈々は綱吉の手を引いて階段までつれてくる。
二階にあるのは綱吉の部屋と、奈々の寝室と。
ふぅ太とランボは一階の和室を自室にしているはずだったから、あとは客室が一つだ。
「決まってるでしょ、ザンザスさんよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・待」

たしかにあの客間に奴を泊めたことはある。
だがなんで今日、このタイミングでいるかなあ!

とりあえず八つ当たりしてやる、ついでに状況説明して一緒に困惑させてやる。
深く決意して、綱吉はどかどかと階段を上がった。
「やいザンザス!」
響いた声は高い。
・・・違和感があるが仕方ない、慣れよう。
「起きろ!」
「・・・うるっせーよ・・・」
重厚な声が唇から漏れ、疎ましげに寄せられた眉の下の目が開かれる。
赤い瞳が覗いてけだるげな色を放って。
「なんだ・・・お前か」
「お前かじゃないよ、起きろよ」

ついでに色々あたらせろ。
声には出さずに相手の顔を覗き込むと、腕を引っ張られて問答無用で体勢を崩される。
慌てたときにはすでに遅く、思いっきりベッドの中に引っ張り込まれていた。
「おいザンザス、今はお前のおふざけに付き合って」
こういう事態に割合なれてきてしまっている自分が悲しい。
だが今日はこいつの悪ふざけに付き合う気分ではなかった。
何とか押しやろうとしたが・・・男でもかなわなかったんだから女になっている今、かなうはずもないわけだ。

「ん・・・」
「だあっ、寝ぼけるな離せ!」
耳元で思い切り叫んでやると、今度こそ目が覚めたのかまっすぐに見下ろしてきた。
・・・うん、頼むからこの両腕をほどいてくれないか。
オレはいま絶好調に大変なんだ。
「うるっせーぞ、つな」
「お前が寝ぼけて冗談きっついからだよ!」
「はぁ? 何がだ」
「いや、だからこの腕・・・」


嫌な予感が背中を通り抜ける。

あの、超直感。


出るならもう少し早く発動してくれええ!!



案の定、ザンザスはにやりと唇を吊り上げた。
「そうか、じゃあ冗談でなくしてやる」
そう言うが早いか、抱きしめての格好からのしかかりな格好に移行され、綱吉は青ざめる。
「いや待て落ち着け、朝食の用意ができてるんですよ!」
「・・・チッ」

舌打ちをしてザンザスはベッドから下りた。
ほっとしたのもつかの間、ベッドから下り損ねた綱吉は彼に横抱きにされる。
いわゆらなくてもお姫様抱っこである。
・・・おい、今日は妙に続くなそのテンション。

内心突っ込んでいた綱吉を怪訝そうな顔で見下ろして、ザンザスはその目を細めた。
「どうした、つな」
「は?」
「・・・わかった、今日だけだ」
溜息と共に、するりと綱吉はザンザスから解放される。
このまま逃げてしまおうと、足が床に着いた瞬間綱吉はダッシュをかけていた。
「おい、つな!」

相手の声は聞こえないふりをして、自分の部屋に逃げこむ。
パジャマを脱ぎ捨てて(下着については意見しない方向で)適当に引っ張り出した服(京子ちゃんが着てるのみたいのばっかりで泣きたくなった)を着こんで、窓を開けた。

額に炎をともした綱吉は、ひらりとその場から逃げ出した。










息せき切って事態を説明した綱吉を見て、恭弥は困ったように眉を寄せた。
彼のその態度は大変に珍しい。
「ええと、整理すると、今の君は僕らの知る沢田つなじゃないんだね?」
「ないです!」
断言した綱吉を見下ろして、恭弥は視線をさまよわせた。

朝っぱらから風紀委員室に押しかけてきて、なんだと思ったら彼女だった。
事態の説明を聞いて、なんで自分のところにきたかは納得いった。
こっちの世界の事情を何も知らないいしても、すばらしい超直感だ。
「・・・てかヒバリさんも女の人なんですね・・・」
「何、僕も君の世界じゃ男なの」
「ほかに誰と誰が反転してるんですか!?」
スカートから伸びる足を組んで、恭弥はそんなことわからないよと冷たく答える。
「君の世界じゃなにがどうなってるのか、僕はわからない」
「とりあえず、守護者は全員男です・・・あとヴァリアーも」
「じゃあおかしいのは僕と君とあと一人だね。後は全員男だ」
「うう」

情けなさMAXの顔で項垂れた綱吉に身を乗り出して、頬に指を滑らせた。
「つっ!?」
「そんな顔して、僕以外の守護者のところにいかなくてよかったね」
「・・・どういう意味でしょう」
「僕は女だからいいけど、他なら確実に押し倒さ「いいです!」
絶叫した綱吉は、いっそ涙目の勢いで頭をかきむしった。
「じゃあ朝のXANXUSのあれもそれ!?」
「・・・ああ、アレね」

まだ説明しなくちゃいけないことがあったのだった。
めんどくさくなって投げ捨てようかと思ったが、この状態の綱吉を放置しておくのはまずそうだ。
・・・というか、恭弥の考えが正しければ学校が壊される。
アレと戦うのは好きだが、学校を舞台にはしたくない。

「アレについては・・・君が悪いよ」
「なんで!?」
「なんでって、僕にそこまで言わせる気?」
柳眉をあげた恭弥の顔を見て、綱吉はこんなときまったく働かない超直感をせかす。
ピンピンと糸がつながって、ようやく推理できたそれに愕然とした。

「まさか」
「たぶんそのまさか」
「お・・・オレとXANXUSって・・・」
「ボンゴレの未来は安泰だって喜んでたけどね」
九代目の実子として育てられたヴァリアーボスのザンザス、初代の直系で十代目が内定しているつな。
その二人の間に子供が生まれれば、誰も文句がつけられない十一代目になるだろう。
「わかったらとっとと戻って。アレがくると学校が壊」

言いかけた恭弥の言葉にかぶせるように、爆発音が響いた。
それは明らかに彼の攻撃の音である。

「・・・早く行け」
忌々しげに舌打ちをした恭弥は、綱吉の襟首を引っ掴むとそのまま。

窓から。

「投げるかふつうぅうううう!?」



投げ飛ばされた綱吉は、慌てて死ぬ気の炎を出そうとする。
だがそれより早く、その身体は支えられていた。
「・・・はあ、いきなり窓から飛び出してくるんじゃねぇよ・・・」
溜息と共に綱吉を無事に受け止めたのは誰かなんて考えなくてもわかっているわけで。
無事に地上に降り立ったが、やっぱり肝が冷えた、いろいろな意味で。

「・・・ザ・・・」
「俺はなにかしたか、つな」
静かな声で尋ねられて、綱吉は言葉に詰まった。
「いや・・・その」
「言ってくれ、なおすから」
「そういう・・・ことでは」
「・・・つな」

熱っぽい声でささやかれる。
なんていうかもう、冗談ならいい加減にしやがれと言いたい、が。
雲雀までグルで綱吉をからかっているんじゃないかというかすかな疑念は、自分の顔を覗き込んできたザンザスの目を見て吹っ飛んだ。

「・・・悪かった、綱吉」
「だから、その」
悪かったのはこっちだろう。
けれどそれをどう伝えればいいかわからない。



多分これはあれだ、こっちの世界の綱吉がすることをすればいいわけだ。
多分それが何かはわかっているのだ。
わかっているのだが。




できるか!!!!





「おい、つな」
殊勝な色すらはらんでいた声に、微妙に怒気が混ざりだす。
・・・そうだった、この人は短気だった。
これ以上待たせると都合が悪い、のはわかっている、だけど!
「ざ・・・XANXUS」
「なんだ」
「その・・・ええと、うん」






結局全部白状った。







覚悟を決めて話して見ると、お互い話の通じない部分が異様に多かった。
まず、リング争奪戦というのにザンザスは首を傾げてきやがったのである。
「はあ? 確かに俺はあのオイボレの実子じゃねぇよ。んなこたぁ知ってる」
「なんとも思わなかったの?」
チッと顔をゆがめて、ザンザスは綱吉の頤に手を当ててぐいと上を向かせる。
瞬きをした綱吉にまた舌打ちをして、顔を背けた。

「わかった、ほんっとーに俺のつなじゃねぇなお前」
「・・・」

なんかその言い草きもちわるい。

そう思ったけれど、綱吉はそれ以上突っ込まなかった。




ザンザスの説明は整理されていたのでわかりやすかった。
まず、そもそも二人の出会いが十年前にさかのぼる。
現在綱吉は17歳でXANXUSが27歳だから、十年前となれば綱吉7歳のXANXUS17歳である。
「テメェの親父に言われたんだよ。つなを守れってな」
「・・・護衛?」
「ボス候補は俺とお前だけ。お前は俺より狙われやすい」
「はあ・・・」
ほかの三人はどこに消えた。
パラレルという名の都合主義の彼方か、そうなのか。
まあその三人も綱吉がボンゴレを知るころには消えていたのだが。
「まあ俺がオイボレの実子じゃねぇって知ったのはその二年後ぐらいだな」
時期的には綱吉が知るXANXUSと一致する。

「まぁ、どうでもよかったけどな」
「どうでもいいんだ!?」
綱吉の知るザンザスはそのまま日本へ殴りこんできたのだ。
思えばあの間、任務とかはどうなっていたんだろう。
・・・まあ野暮な質問はやめておこう、九代目もわざわざ指令を下してなんかいないだろうし。
「どうでもいいだろう、別に。ボンゴレのドンじゃなくても俺はヴァリアーのボスだ。ヴァリアーはドンに屈する必要はねぇ」
「・・・大人だねえ、XANXUS・・・」
きっぱり言い切ったザンザスに感嘆の溜息をついた。
ソレを是非あちらの彼にも分けてもらいたいものである。
「しかし、テメェの言う俺は丸損してるな」
「まあ、オレも八年間氷づけはどうかと」
「・・・まあ、そうだが、ンな話じゃねーよ・・・」

呆れたように言われたが話がさっぱりわからない。
きょとんとしている綱吉を前に、まあでもこれなら男でもアリかとかぶつくさ言っているあたりが物騒だ。
「とにかく、早くもとに戻れ」
「オレもそう思ってるから!」
「・・まあ一回ぐら「なにがだ!」

即効で突っ込んで、頭を抱えて座り込む。
「ああもう!!」
「今日は家でおとなしくしておけ」
「そうする・・・」
呟いた綱吉の前で、ザンザスは背中を見せた。
「ほら」
「え」
「・・・疲れてんだろーが、おぶってやる」
「いや、い「おぶされ」
「はいぃ・・・」

問答無用のお言葉に、綱吉はえいよっと相手の背中におぶさった。
良く考えなくとも、男と女ならお姫様抱っこよりまずいんじゃあと思わないでもなかったが、体重を預けた途端に全身に疲労感が襲ってきた。
・・・ああ、精神的にもキてたんだな、オレ。

「XANXUS・・・優しすぎて気持ちわりー・・・」
「・・・・・・・・・喧嘩売ってんのか貴様」
「オレにももっと優しくしてくれりゃーいいのにさ」

意識が吹っ飛ぶ寸前にかわした軽口に、ザンザスの肩がわずかに揺れたのだけは気がついた。












無言で綱吉は自分の下半身を確かめた。
オッケー、戻った。

「なんだったんだあれ・・・」
そこでようやく目を開く。
目の前に広がる白一面な壁に違和感を覚える。
オレの部屋こんなに綺麗じゃない。

ええと、白い壁紙が一面に張ってあって。
これだけでかいベッドがある家って。

「・・・・・・あれ」
なんか記憶が混乱している。
でもオレは今男だ、だから多分間違いない。


「おきたか、カス」
そうそれ、その呼び方。
「勝手に人のトコおしかけてわけわかんねぇことわめきやがって。何様だテメェ」
「オレ何かしましたか」
不機嫌絶好調の顔をしたXANXUSはそこに立って、綱吉を見下ろしていた。
ぴりぴりと肌を刺すのは殺気ですか、殺気ですね?
「テメェが俺をどう思っているのかよぉーくわかった。そんなに鬱憤がたまってるんだったら拳できやがれ」
「・・・オレ、何したんだ」
「何だとぉ!? 人の家に押しかけて泣きながら抱きついてついでに押し倒してキ「もういい!」

考えが及ばなかった自分がアホだった。
綱吉がアチラの世界に行っていた間、アチラの綱吉もこちらに来ていたのだ。
入れ替わりだ。
当然の話だ。
あったりめぇじゃねーか!

絶叫した綱吉は、もともとないプライドなので、躊躇なくその場に土下座する。
「すいません、事情説明するので聞いてください」
「・・・・・・・」




事情を説明すると、ひっくり返って笑われた。

笑うところか貴様。





「あはは・・・はははははははは!」
「笑うなよ!」
「女の雲雀か、見たかったぜ」
「論点違うだろ! 大変だったんだぞ!」
たしかにあの雲雀はいろいろな意味で眼福であったけど。
上は学ランでも下はミニスカだったし。
たしかにあれは男ならだれしも――じゃないオレ、しっかりしろ。

「戻ったならいいだろ」
とっとと出て行け、と背中を蹴られて綱吉は振り返って叫んだ。

「あっちのXANXUSの方がずっとやさしかったよ!」
「ハッ、てめぇがホントに女ならやさしくしてやらぁ」
「・・・・・その心は」
「十一代目の実父のほうが予算も仕事もやり「もうお前は黙れ!!」

絶叫してマンションを出て行った綱吉を見送って、XANXUSははあと溜息をこぼして煙草に火をつける。
大きく煙を吸い込んで、紫煙を天井につかんとばかりに勢いよく吹いた。
「しばらくは控えてやるか」
あの小動物をからかうのはとても楽しい、久しぶりの娯楽だけれど、語った話が真実ならばしばらくは精神的ダメージが大きいだろう。

それに。

「・・・気持ち悪・・・」

自分も似たようなことをされて、なんとなくあの嫌がらせのキツさを実感できたXANXUSだった。










***
すんげぇ勢いの産物。

涙目で迫ったツナ(外♂中♀)にXANXUSは戸惑いながら内心「意趣返しにしちゃあ酷すぎるぞてめぇ!」と絶叫していたと思う。
そしてあっちのXANXUSはツナ(外♀中♂)に容赦なく手を出してたと思う。

ちなみにこれはパラレル部屋とのコラボ。表記がまちまちなのもそれが原因。

原作軸→綱吉、XANXUS、雲雀
パラレル→つな、ザンザス、恭弥