<雲と霧の襲来3>
 

 



--現代の霧--


猛ダッシュで骸は屋敷を駆け抜けていた。
もちろん逃げているのは。

「骸! まちやがれえ!」
「十年経ったって成長してませんね獄寺隼人!」
「果てろ!」
飛んできたボムをひょいっと避け。
たつもりだった。
「うわっ」
チビボムの一つが骸にあたる。
衝撃で前に飛ばされ、壁にぶち当たってようやく止まった。

「く……クフフ、や、やりますね」
「逃げるんじゃねぇ」
「嫌です、僕は今から屋敷を出て青春を謳歌します!」
「テメェの青春は10年前でやれ」
「ひ、酷い! 僕が鎖でがらんじめで身動き取れない状況なの知ってるでしょう!」
「有幻覚で生徒会までやっ……あ」
言いかけて、獄寺はばっと自分の口を押さえる。
いっけねーと言いたげな顔をして視線をそらした獄寺に、骸は真顔でずいと近づいた。
「今、なんて?」
「いや……ヒッ」

ずずずずずのずずずずい。
なんでもねぇよ、とごまかそうとした獄寺に骸はにじり寄る。
とても不気味だ。

「生徒会? 僕が?」
「いや……それは」
「この僕が? わざわざ有幻覚で学校に行ったのですか。しかも、生徒会」
聞き間違いだ! と叫んだ獄寺の前で、しゃきんと骸の瞳が六から一へと切り替わる。
その幻覚にとっさに唇を噛んで耐えた獄寺は、骸の幻覚に惑わされてはいないようだ。
「クッ……」
それでも体が揺らめいて、骸は微笑んだ。
「クフ、強くなりましたね。けれどここまでです」

ぴら。
懐から取り出したるは、一枚の写真。

「綱吉君の隠しショット99セットのうち一枚!」
「!」
顔を上げた獄寺に数秒写真を見せた後、ぺらと彼方へ向かって飛ばしておく。
慌ててそれを拾いに走る獄寺からあっさり逃げて、骸は残り98枚の使用方法について考えた。

むしろ十年後の自分がどうしてこれを持っているのだろう、と疑問に思いつつ。

「とりあえず好きに暴れまくってみましょうか、マフィアのアジトとかで」
十年前の六道骸は軽くテロリストだった。




















--現代の雲--


獲物がいなくなって機嫌を急降下させた雲雀は、いらいらとした様子で綱吉に向き直る。
「じゃあ、君だね」
「いや、俺は仕事とか忙しっ」
「僕より優先させる用事なんてないよね」
「なんかその言い方誤解招きません!?」
しっかり突っ込んだことは突っ込んだが、やっぱりひぃと悲鳴を上げた綱吉にトンファーが忍び寄る。

「ふうん、腕上げたんだ」
トンファーが耳元をかすって、ようやく綱吉は炎を灯す。
今も昔もこの人相手で通常モードは自殺行為だ、ハイパーモードで逃げ切りを狙うしかなかった。
けれど十年後の彼を知っているから、さほど速い一撃には感じない。
「今見ると、ヒバリさんはそんなに速くないですね」
「当然だよ、十年後の僕の方が強いに決まってるからね」
愉悦の表情で言われてしまい、綱吉は頭を抱えたくなった。
自身とはいえ比べられたら怒るかなーと思ったのだが、ノーカンらしい、なんでだ。

ひょいと後ろに跳び退る。
ガッと真横からのトンファー……いつも思っていたがなんだってそんな不安定な位置から一撃を繰り出せるのか。
トンファーをはじくと当然雲雀の姿勢は崩れるが、普通ならそこを守ってこらえるところなのに雲雀は反対側から一撃をいれようとすることでバランスを回復させる。
どこにどう撃ってもカウンターが来る相手は大嫌いだ。
内心呟きつつ、綱吉はもう二撃を避け、限界点突破初代版をだそうか迷ったが、いちおうここにいるのは十年前の雲雀、まだ十代半ば、さすがにそれは二十代半ばとしてどうだろうと思ったので辞めておく。
よく考えれば相手は雲雀なのだから、出そうと思った瞬間に殴られるのがオチだった。
Xバーナー……はさすがにね、人としてね、人としなくても。

結局攻撃に踏み切れず追撃をかわしながら、綱吉は窓との距離を測った。
手持ちの技のほとんどは雲雀の速度を考えると危険だし、距離をとってXバーナーは内装(むしろ建物)のことを考えると避けたい。
ということは避け続けるしかないわけで、彼の攻撃を避けるには窓から飛び降りるのが一番だ。
(よし、いける!)
一度二度フェイントをかわし、ダッシュをかましてそのまま窓を破って外へ飛ぶ。
重力に囚われる感覚、しかし次の瞬間グローブから噴出した炎で空へ浮かんだ。
「やった!」
さすがに空を飛ぶ手段を持たない雲雀は、それを見送るしかない。
だが窓から見える彼の表情がけして不機嫌ではないことに綱吉は気がつく。

そして笑顔の彼が踵を返した瞬間、うかつな自分を呪って絶叫した。
「やめてヒバリさん、一般構成員を咬み殺すなんてことしないでぇー!!!」




















--10年後の雲と霧--


「もう、二人ともやめてよ!」
叫んだ綱吉を無視し、リボーンと雲雀の激闘は続いている。
繰り返すがここは並盛中学、そして校庭、そして体育の授業中。
「十代目、これはもうほっとくしかないんじゃ」
「ツナー、ムリはすることねーとおもうのなー」
「わかってるけどぉ!」

周囲の視線がいたい。
分かってる、この二人がその気になってしまったが最後、割って入ることができるのはラル・ミルチとかそれぐらいだ。
コロネロとマーモンは相性的に怪しい、スカルは純戦闘力面で論外。
あとのメンバーはどっちかの不況を買うなんて馬鹿なまねはしないだろう。

「ツナ、どーしてもとめたいなら二人まとめて凍らすとかどうだ?」
「バカヤロー、リボーンさんを十代目がそんな目にあわすわけな」
「ナイスアイディア、山本」
据わった目で綱吉は呟くと、ミトンをはめて炎を灯す。
思わず一歩引いた両名には目もくれず、ハイパー綱吉はその口元を吊り上げた。


「好き勝手してるんじゃない、二人とも下がれ」
「いつからオレに指図できるほどえらくなったんだツナ」
「元から僕は君の言うことなんて聞かないね」
「…………」

ハイパーツナすら瞬殺し、二人は人知を超えた戦いを繰り広げる。
というかもう校庭から生徒の避難は終わっているから好きにやらせていい……わけがない、ここは公共物だ、破壊させてなるものか。
よく考えたらついこの間ヴァリアーとの戦いで破損したばかりだ、雲雀さん、学校傷つけていいんですか。

「そーだぞ、学校を傷つけていいのか雲雀」
「どうせまだ直りきってないんでしょ」
リング争奪戦の修復が終わっていないのは事実だったのでリボーンが黙り込む。
だめだ、リボーンでも腕に物言わせずに雲雀を引き下がらすことはできない。
まあリボーンはいついかなる時でも腕にもの言わせて引き下がらせるんだけどな!

「十代目、生徒避難完了しました」
「壊れちゃまずいものも保護できたぜー」
「……じゃあもう、放置でいいかな」
疲れた綱吉がハイパーモードを解除し、その場にへたり込む。
一般生徒のみなさんごめんなさい。
これはもう俺のせいではありません。

遠い目でへたり込んだ綱吉は、青い空を見上げる。
なんて綺麗なんだろう。
秋晴れってこんな感じなんだろうな。
雲ひとつない空、なのに目の前で戦うのは雲の守護者と晴のアルコバレーノ。
ああ北風と太陽?
この二人の場合は旅人をノしてしまいそうだけどな。

ああ、そうこういっていると旅人が空から降ってきた。
マントをなびかせてるよ……あれを取らないといけないんじゃなかったっけ。
ああ、コートだったっけ?

「って、なんだあれ!?」
普通空から人は降ってこない。
そこに気がついた綱吉が突っ込みを入れて目をむいた。
点だったその「人」は見る見るうちに大きくなり、しゅたっと綱吉の前に着地した。


長い黒髪をなびかせて。
全身青タイツのその不審人物は。

爽やかな笑顔でこう言った。


「こんにちは、ボク、ムクえもん!」
「帰れ死ね消えろ」
 

 

 






***
迷った挙句こういう仕打ちだよ。