<Go to Vongola 5>
紙の上にぐしゃぐしゃ書いて十分後。
立ち上がった綱吉に全員が注目した。
「では、班分けを発表します」
文句は聞きません。
そう警告しておきながら、綱吉は班分けを発表した。
「で、一つ目。アンフォッシファミリー。隼人、了平さん、骸、レヴィ、ランボ。
二つ目、ボナッタファミリー。山本、コロネロ、マーモン、ベル、ルッスリーア。
三つ目はボンゴレのアジト。俺、XANXUS、ヒバリさん、スクアーロ。あとリボーン」
誰かが悲鳴を上げた。
ていうか鮫が悲鳴を上げた。
「う゛お゛ぉ゛い゛! ちょっと待てぇ!」
「隼人と山本のチームは不殺だから」
それとね、と微笑んだボンゴレ十代目は作戦が書きなぐられている紙を机の上において、そりゃあもうメンバーのやる気をだす言葉を言ってくれたのだった。
「チームワークを乱した人、コロネロとリボーンの玩具になるの決定」
そりゃあもう、やる気もでるってもんである。
沢田綱吉18歳、ボンゴレ十代目候補筆頭、人をやる気にさせるのは上手い。
〜アンフォッシファミリー〜
びりびりと電気ケーブルが軒並みショートする中。
クフフフフ。
笑い声がフロア全体に響き渡っていた。
生き生きとした笑顔の骸は、有幻覚の状態でそりゃあもう見事にやりたい放題をしていた。
隠密にとか穏便にとか・・・まあチーム的に無意味だが。
「極限太陽ー!!」
叫んだ了平が壁をぶち破った。
確かソレは鋼鉄板が間に入った特別製。
「四倍ボム!」
獄寺の手から放たれた爆弾がフロアの床をぶち抜いて破壊する。
たしかソコも鋼鉄板が入った特別製。
「沢田を殺そうとするなど極限ゆるせーん!」
「てめーら、十代目に喧嘩を売ったこと後悔させてやる。果てろ」
「クフフフフ、マフィアの分際でずいぶんなことをしてくれましたね」
「ボスに銃を突きつけるなど、許せん!」
「ボンゴレを暗殺しようだなんて、愚かだ」
好き勝手に各自で叫びつつ、敵を屠っていく。
たしかにレヴィはヴァリアー幹部では強いほうではないし、ランボもその年齢もあって守護者の中では最弱である。
しかしそれはあくまで、規格外な「ボンゴレ守護者」だの「ヴァリアー幹部」だので比較した場合である。
誰もが忘れ去っているが、ランボは5歳にしてファミリーの殺し屋だったのだ。
もちろん技術的には劣ってはいても、当時から十分にただの五歳児とは一線を画していた。
当然のように、そこらのファミリーの構成メンバーなどすでに敵ではない。
「おい骸、戦況はどうなっている」
「クフフ、すでに目標の三割ほど屠りました」
「チッ、まだ三割か」
「一つお願いがあるのですけど」
「何だよ」
背中合わせになって敵と向き合う。
もっとも、それは追い詰められているとか協力するとかではなく、ただこの会話をするためだ。
「地下室に、実験室があります」
「それで?」
爆弾を仕掛ける場所をちらちら観察しつつ探っている獄寺の耳にだけ聞こえるように、骸はささやいた。
「・・・孤児を実験に使っていたようなのですよ」
「・・・・・・地下の制圧は任せる」
「クフフ、ありがとうございます」
す、と骸の姿がソコから消える。
獄寺は今は遠い十代目への尊敬の念を今までよりも更に高くして、それから彼に恥じぬように爆弾を取り出した。
〜ボナッタファミリー〜
爆音が響く。
建物を軽く倒壊させかねない勢いで火を噴いた銃を背中に担ぎなおして、平然とした顔でコロネロは歩みを進める。
そのとんでもない爆発が収まるやいなや、切り込み隊長二名が颯爽と切り込んで行き、それに少し遅れてパワーファイター二名が特攻していき、最後にマーモンが幻覚を張って逃げだしてきたアホウを捕らえる、という作戦であった。
チームリーダーは山本であったが、作戦提示をしたのはコロネロだった。
もちろん山本はソレを一度聞き、ある一点のみを微妙変更してGOをだした。
戦場指揮なら十八番のコロネロにしては大雑把で雑な作戦だったのだが、これが笑えるほどうまく行き、マーモンの罠にはすでに敗北者がたわわに捕獲されている。
「さて」
山本の変更は微細。
彼は綱吉の「不殺」を、ほんのわずかに拡大解釈した。
つまり、「抵抗しないやつは不殺」と。
そんな奴らはほとんどいないわけで。
だからつまりこういうこと。
「ししし、王子にかなうわけないんだもんね〜」」
「オホホホホ、これでもくらいなさぁ〜い!」
「消えちまえ、コラ!」
「じゃあね」
「あばよ」
黒いブーツで死体の山を踏みつけて、山本は流れる水のごとき動作で敵を切り伏せ笑う。
「ねえ」
「ん? なんだ、マーモン」
「この辺の雑魚は僕に任せてよ。綱吉とボスと両方から振り込んでもらったからね、給料分の仕事はしたいんだ」
緩やかに顔を上げて、いつもはローブの下にある両目が山本を見上げる。
外見は三四歳程度の子供だったけれど、彼の態度は歴戦の猛者のものだった。
「そうか、じゃあ俺たちは先に行くな」
「うん。任せておいて」
「よし、全員奥へ突っ込むぜ! 雑魚はマーモンにまかせとけ!」
「「了解!!」」
全員の返事に山本は笑って、ぶん、と時雨金時を振って血をはらった。
〜ボンゴレアジト〜
ピーンポーンパーンポーン。
日本の校内放送めいた、けれど少し音が外れたそれがながれる。
『ボンゴレファミリーの奴ら、チャオ。オレはリボーン、最強のヒットマンだ。今日は十代目の護衛で屋敷に来てやってる。近づいたら殺すからな』
『全員聞け。こちらはヴァリアー。裏切り者の抹殺のため来た。殺されたくない奴は正面玄関一階前にいろ。倒したければ向かって来い、こちらはたった五人だ』
『皆さんこんにちは。俺は、ドン・ボンゴレ後継者です。イタリアへの歓迎どうもありがとう。今から行きます』
簡潔に言葉を述べた三人目の綱吉がマイクを床に置くと、ドゴッという音が入ってからあとは放送が途絶えた。
あとに残されたのは静寂だった。
というか、しばらく前まではどぎゃだのごしゃだのばしゅだのどっかーんだのうるさかったのだが、今では静かだった、とも言う。
「おいカスザメ、まだか」
「うるっせーよ! テメェでやりやがふぶっ!」
背後にたったリボーンに文句を言いかけたスクアーロは、当然のように蹴りを入れられる。
先ほど放送装置をいじり、現在はかちゃかちゃとパネルをいじっているスクアーロを見ながら、他のメンバーは休息中だ。
どんだけ不公平なんだ。
「こんなものとっとと壊して殴り込めばいいのに」
「ダメですよ、せっかく誘導して警告したのに」
「タイクツー タイクツー」
「ごめんねヒバード、すぐに外に出れるようにするから」
雲雀の肩の上で鳴いた鳥(ココまでついてきた)に謝って、綱吉は電気パネルに四苦八苦しているスクアーロを後ろから覗き込んだ。
「難しそう?」
「ああ゛? ・・・まあ、あともう少し・・・」
「リボーン、お前はこういうのも詳しいんじゃないのか」
「こんな旧式知らなぇ」
お前ね、と溜息をついて綱吉は先ほどから静かなもう一人を振り返る。
まあ多分ダメだろうけど。
「XANXUS、でき・・・っていねぇええ!!!!」
悲鳴を上げた綱吉は、即座に額に焔をともして、唯一開いていた窓から外を見る。
しまった、彼は綱吉と同じく空が飛べるんだった。
たいていの場合XANXUSは綱吉の言うことを聞いてくれるし、問題児オールスターの知り合いの中ではあの妙な趣味以外はまともなほうに入るし、問題児を率いる辛さとかいうものを分かり合える仲間であり同士である。
・・・のだが。
綱吉が十代目確定してしまった原因を作ったのは根本からまるっとXANXUSであったという、実は超問題児だった。
ここの入り口に殴りこんできたとき、「不殺」を唱える綱吉に唯一完全に従っていたあたりからみて、相当鬱憤たまっていたんじゃないか。
そういえばそうだった、と己の判断の甘さを悔やんでも仕方がない。
もちろん、アジト上空で爆音がした。
獄寺や了平とはまた音が違う。
「危なっ!」
超直感で危険を察知した綱吉は、とっさにその場に焔のバリアを張る。
案の定、外からこの部屋を狙撃して大穴をあけてくれたXANXUS。
他のメンバーだったらかばうなり何なりしたかもしれないが、今日ここにいる面子は全員自力でこれぐらいよけれ。
「いたたたた・・・なにすんだ!!!」
・・・あ、スクアーロ。ごめん。
しれっと内心だけでそう思いながら、綱吉はグローブを握りこむ。
ここまでド派手にやられたら、こっそり入り込んで首謀者だけ見せしめにどうたらなんて考えていられない。
そうだ、ボンゴレって名乗って道開けない時点で敵だ敵。
「ツナ」
「リボーン?」
「不殺ってお前の考えは嫌いじゃないぞ」
「・・・うん、ありがと」
「だけどオレはヒットマンだからな」
うん、と仕方なしに頷いて、綱吉は覚悟を決める。
橙の焔が鮮やかさを増した。
「全員、各個撃破で深部へ突入」
軽く息を吸う。
他の二つのファミリーに向かったチームには厳守させる命令。
それを、破る。
自分の目の前で、自分の手で、自分が。
「粛清をかねる。向かってくる者には手加減するな」
「殺れってことか」
雲雀とスクアーロが真っ先に飛び出していき、それを悠々と追いながらリボーンが出て行く。
XANXUSに問われて、綱吉は頷いた。
「そう、もう、同じことがないように」
「・・・綱吉」
「・・・はい? っていうかはあっ!? な、なに!?」
思わず声の発生源を探した綱吉だったが、XANXUSの他には誰もいない。
・・・体の毛が逆立つぐらい驚いた。
その綱吉の反応にXANXUSはいやそーに顔をゆがめる。
「一人で先に深部へ行け。親玉と話す時間ぐらい欲しいだろう」
「え」
「わかんねぇのか、お前以外は見た瞬間に殺す気満々だぞ」
粛清と綱吉は言った。
手加減するなとも。
このアジトにいるのは、戦う気がないか戦う気があるかのどちらかで、前者はXANXUSの警告どおりに正面玄関前にいるのだったら、この屋敷にいる者は全員殺していいのだ、容赦なく。
「う・・・わ、わかった」
「それでいい、とっとと行け、カス」
身を翻した綱吉が外へと通じる穴から出て行ったのを見て、XANXUSは己の銃を構えた。
***
容赦って何語ですか。