<Go to Vongola 4>
最後の扉を、綱吉はグローブに灯した炎でぶち破った。
常人離れしたことをしたのだが、なんでもなかったことのようにすたすたと中へ入って、冷えた目で目の前の敵を見つめる。
ボンゴレファミリー。
同じファミリーの一員。
「・・・なぜ、逃げなかった」
悲しみすらただようその声色のまま、綱吉は銃を手にする。
「どうして俺を狙う」
気迫に押されて応えられない若手をかばうように、一人の老人が前に出た。
「我々は貴方がボンゴレ十代目にふさわしくないと思い、暗殺をもくろみました」
「俺はふさわしくないのか」
「ご自分ではいかがお思いですか」
綱吉は無言で老人を睨んだ。
その横に立つXANXUSは拳銃を手にしてすらいない。
いざとなれば憤怒の炎を持つ彼は、造作なく彼らをあしらえるが、綱吉が手におえぬ事態にならない限り手を出すつもりはない。
「――俺はマフィアのボスなんてガラじゃない」
「・・・綱吉」
「だが、やりたいかどうかは別だ」
マフィアは嫌だった。
血と硝煙と酒と。
抗争、権力、金。
そんなものとは無縁に生きたかった、人並みの生活でよかった。
デパートのセールスに喜んで、福引で当たった温泉旅行に喜んで。
ガソリンの値上げに悩んで、ボーナスが少ないと嘆いて。
そんな生活がよかった。
「ガラではないのなら、ふさわしくはないのでは」
「ボスとしてふさわしく在る、在り続ける、その努力をする。それが俺の答えだ」
守りたいものがあった。
それは、綱吉の望む生活の中では守りきれないものだった。
力を欲した。
それと同時に咎と業も手に入れた。
「貴方は優しいでしょうね。だからこそ我々のボスにふさわしくない」
「それがお前の答えか」
「さようです」
「俺は約束した」
業を受け継ぐ。
力を受け継ぐ。
それらはすべて、ファミリーを守るために。
ファミリーのために、ボスで在ることを。
誓ったんだ、ボスになると決めた時に。
「俺は、ボンゴレの十代目だ」
「・・・我々はそれを認めません。貴方よりその場にふさわしい人間は多い」
「なら、奪い取る」
綱吉の銃が火を噴いた。
命を一つ、ボンゴレに忠誠を捧げた男の命を奪うにはあまりに軽い音だった。
綱吉の右手がゆっくりと下りる。
「綱吉」
「・・・行くぞ」
ややうつむいている彼の表情は見えない。
「・・・ツナ」
「なあ、XANXUS」
ワルサーを投げて、綱吉は口元だけ笑みを浮かべる。
「もう少し火力があるやつ、手に入れてくれないか」
殺りそこねた、と呟いて背を向ける。
立ち去る彼と倒れた男を見比べて、XANXUSはその男の胸がまだわずかに上下しているのを認めてから、綱吉の後を追った。
憮然とした顔で綱吉は九代目の前に居た。
その隣には門外顧問である父親の姿もある。
「・・・綱吉君、派手に動いたね」
「俺と、俺の仲間が狙われて・・・本部にはどう考えてもスパイがいましたから」
早急に動きすぎた自覚はあったけれど、降りかかる火の粉は自分で払うのがモットーだ。
「そのことなんだけどね」
九代目に促された門外顧問が苦い顔で続けてくる。
「派手に動いたんでな、もともと敵対ファミリーがこっちの同盟ファミリーまで巻き込んで、抗争を引き起こしやがったんだ」
「・・・スパイはあれだけじゃなかった?」
「その通り」
唇を噛み締めた息子の心境を察し、なるべく柔らかな言葉をかける。
「ツナ、お前のせいじゃない」
「わかってるよ」
「そもそも、今回の滞在で正式にボンゴレリングを渡すと披露目する予定だったんだが・・・」
「九代目」
父親の言葉を断ち切って、綱吉は九代目を見つめる。
「――俺は自分でケリをつけたいと思います。幹部にも一切、このことは言わないでもらえますか」
「綱吉君・・・」
「おいツナ! お前だけじゃムチャだ、スパイされるのを覚悟でボンゴレ全体に」
「嫌だよ」
きっぱりと言い切って、綱吉は膝の上の拳を振るわせた。
「・・・嫌だよ。それでまた誰かが傷つくかもしれない。漏らされた情報によっては、致命的になりうる。守護者の顔が流れるだけでどれだけ痛手になるか」
「だが」
「大丈夫。俺は俺の仲間を信じてる」
大丈夫、と繰り返した綱吉に、九代目はゆっくりと頷いた。
獄寺が押さえたマンションの一方で、守護者による作戦会議が始まっていた。
「という訳で、僕がわかるのはこんなところでしょうか」
「今更潜入もなにもないしな。後はどうする、ツナ」
「リボーンからの連絡はまだなんだよね。ヴァリアーたちはどうなったの?」
ソファーの上にどっかり座って、会議を静観していたXANXUSが鼻で笑う。
「あの老いぼれ、無期限有給休暇をよこしやがった」
「・・・あ、そう」
ありがとう九代目。
おかげでこいつらでこき使えます。
ただで!
「ならルッスーリアも呼んで」
「人使い荒れーなお前・・・」
今更のことを呟いて、XANXUSはスクアーロを顎で促す。
そういう用事は全部彼にさせるらしい。
「沢田、極限疑問なのだが」
「はい?」
「中まで攻め込む必要があるのか? アジトを外から俺や獄寺がなんとかすればいいのでは?」
にっこりと笑顔になった山本が、それに説明をする。
「そりゃあ、徹底的にぶちのめして壊滅させたほうが牽制になるからな」
「なるほど! 極限に思い知らせるわけだな!」
天然二名のほのぼの会話い、どうしたって突っ込み気質のスクアーロは突っ込む。
一番の突っ込みの綱吉が突っ込んでいないのだから、そこは突っ込まなくてもいいのに。
「・・・それでいのかおまえら・・・」
「とにかく、敵のアジトをまずやっつけるんだが、三点同時攻略となると戦力をわけなきゃいけませんね、十代目!」
「そうだね。どうやって決めようかな」
ルッスリーアは数に入っているのだが、問題は雲雀である。
現在、別室でヒバードと遊んでいる雲雀がはたして加わってくれるのかちょっとぎもんだ。
あとリボーンやコロネロは間に合うのかも疑問。
「くじ引きでいいんじゃねー? 俺王子だしー」
「極限アミダだな!」
「あはは、俺はじゃんけんかな」
「マトモに考えろてめーら!」
獄寺がぶちきれるのもよくわかっていたのだが、綱吉としてもあんまりいいアイディアはない。
実力は肉薄しているだろうし、そもそも武器の相性がさまざまだ。
さらに個人での相性もあったりするので、考え出すとキリがない。
「・・・まあ、俺が超直感的に決めてもいいけど」
「十代目にお任せします!」
「ツナが決めるなら間違いないな」
「極限任せる!」
「お任せしますよ」
「クフフ、依存はありません」
「面倒だ、やれ」
「う゛ぉ゛い! 上等だ!」
「ししし、俺王子だからかまわないよ」
「妥当だね」
「・・・全員一致かよ」
班分けを押し付けられた綱吉は、口の中でそうぼやいてからため息をついた。