<Go to Vongola 3>
不本意ながら、過去の自分のしでかしたことが見事に役に立っている。
敷地外の警備を突破しながら、XANXUSは溜息をついた。
その横でグローブに炎をともさず拳銃を握っているのは綱吉だ。
今年で十八になった彼は、日本という平和ボケの極地な国でのほほんと十四まで生きていた。
彼がマフィアとして生きる覚悟をして、まだ四年。
たった四年だ。
「XANXUS]
「なんだ」
「ちゃんと弾幕を張れ」
「・・・」
無表情のまま綱吉は銃を撃つ。
反動をものともせず、その射撃は確実だ。
使用拳銃は世に名高いワルサーPPK。
最初に拳銃を打ち出したとき、一番無難だとリボーンが投げてよこしたのがこれらしい。
それ以来綱吉はずっと同じ拳銃を使っている。
「XANXUS!」
叱咤する声に慌てて自分の銃をぶっ放す。
使用拳銃はH&K Mk23、ドイツ製の優秀な拳銃だ。
問題はでかいこと、よって綱吉の手には余る。
角から向こうを覗く。
そろそろ突入できそうだ。
「ちょっと待て、そこは罠がある」
「もう表から殴りこんだほうが早そうだな」
「そんなことしたら逃がすぞ」
「ちっ」
舌打ちをした綱吉をXANXUSは信じたくない気持ちで見下ろした。
四年前、自分の目の前で怯えていたあの可愛らしい少年はどこに行ってしまったのだろう?
今居るのは、マフィアのど真ん中で拳銃をぶっ放して舌打ちをする青年だ。
「XANXUS、考え事してるなら特攻させてやる」
「いや・・・一度カス鮫と合流したほうが」
「そうか」
拳銃をしまい、綱吉は上を見上げる。
「・・・綱吉」
まさか。
「XANXUS、飛ぶぞ」
「・・・・・・」
ああやっぱり。
天を仰ぎたくなったXANXUSだったが、そんなことをしている間に見失いかねない。
死ぬ気の炎を両手に灯した綱吉は、XANXUSの腕を掴む。
本来ならばXANXUSも自分で飛べばいいのだが、これで火力が足りるという判断なのだろう・・・が。
(痛い)
肩が抜けそうだ。
眉をしかめつつ腰をさすったスクアーロに、了平が笑顔を、ランボが苦笑を見せた。
「どうした! 俺は今、極限に燃えているぞ!」
「う゛ぁ゛あ゛! うっるせぇ!!」
「まあ、災難ですねぇ。ボンゴレはそんなことないけど」
「・・・う゛るっせぇ」
XANXUS&雲雀という怖いタッグと車という密室にいたくなかったので、綱吉のほうを迎えにいったのだが、それがXANXUSの怒りに触れたらしい。
まあ雲雀と骸の激突という事態に遭遇したのだから、理由はわかる、わかるが。
別にスクアーロにその後あたらなくとも・・・とは思う。
「行くぞ、遅れたら置いてくぞ!」
「俺だって雷の守護者ですからね、やる時はやりま」
言いかけたランボが正面からずっこける。
震えつつ立ち上がった彼は何か呟いていたが、スクアーロは無視して先に行くことにした。
「しかし、極限に燃える話だな! いきなり悪の討伐か!」
「が・ま・ん・・・うええええぇぇぇぇんん!!!!」
「・・・・・・・」
もしかして俺は。
厄介者を押し付けられたのでは?
そんなことをスクアーロが思い当たるのに、それほど時間は要らなかった。
「隠密行動は我らの得意とするところ、早々に終えてしまいましょう」
「君と行動するのは不本意なんだよ。ここから先は別行動だからね」
すっと姿を消してしまったマーモンに肩をすくめ、骸は前を見据えた。
「クフフ、こちらも望むところです。さあ、行きますよクローム」
骸の目が光る。
第四の道、修羅道。
「いたぞ! 殺せ!」
「クフフフフ、マフィア、しかもボンゴレファミリーをこの手で殺せるとは――・・・ああ、そうでしたねクローム、完全に息の根を止めると、罰ゲームをしなくてはいけないんでした」
しかもそれは、さしもの骸でも遠慮したい内容だった。
それを堂々と提案した綱吉の精神を疑いたい内容である。
「ああ、面倒ですね」
そういいながらも楽しげに微笑み、骸は男達の中へ突っ込んでいく。
「――ええ。もちろんですよクローム。さすがに僕も、ミニスカメイドを着た雲雀をパイナップルで再現という意味不明なことはしたくないですからね」
クフフフフ、と笑いながら骸は視野に捕らえうる範囲の敵を軒並み殴り倒し終えた。
向こうが重火器を持ち出してきたので、仕方なく山本は前線を獄寺に譲った。
「好きにしていいぜ」
「あったりめーだ!」
ドカンドコンドッカーン。
「よし、開いたぞ!」
「まあ、開いたな」
アジトの奥へとつながる階段か扉を探していたのだが、爆撃されて壁がなくなればもうそんなことはどうでもいい。
大きく開いた穴に足を踏み入れようとすると、どこからともなくあの歌が聞こえてきた。
「ミードリタナビク〜」
「ヒバードじゃねーか、どうした」
「カミコロス」
「それじゃあ、よくわかんねーな?」
首をかしげた山本にヒバードも同じく首をかしげる。
もふっとまふっとしたその鳥は、山本の手から飛び立った。
「あ、おい、ヒバード!」
慌てて山本の手が追いかけると、己の重要性を承知しているのかいないのか、その鳥はまだ残っていた窓枠に着地する。
「ヒバリさん、なんだって?」
「おいっ山本! そんな鳥なんざほっといて――・・・」
「ウラギリモノ ウラギリモノ ウラギリモノ」
けたたましく鳴きだしたヒバードは、ばさばさと己の羽を広げて続ける。
「ウラギリモノウラギリモノ カミコロス!」
「なるほど」
「わかったのかよ!」
「いや? わからん」
山本のあっけからんとした返答に獄寺がずっこける。
「ま、ツナならわかるだろ。ヒバード、ヒバリさんのところに戻ってろよ」
な、と山本に微笑まれたヒバードは、かぱとその嘴を開いて訴えた。
「イナイ」
「え?」
「ヒバリ イナイー」
「いないのか? 置いていかれたのか、お前」
「?」
山本の言葉を理解しなかったのか、鳴くのをやめてヒバードは首をかしげる。
とりあえず人と鳥との意思疎通に問題があるのがよくわかったので(ないのは愛がある飼い主の雲雀と超直感を持つ綱吉ぐらいだ)とりあえず綱吉に合流したときのために、山本はヒバードをその手で捕まえた。
「わりーなヒバード。ちょっと懐に入っててくれ」
「連れて行くのかよ!」
「仕方ないだろ、このままほおって置いたら迷子になっちまうし」
鳥が迷子になるのだろうか。
獄寺の純粋な疑問は、つぶらな瞳で山本の懐から顔をのぞかせるヒバードの姿で、砂のように崩れ落ちた。
まあなんでもいい、可愛ければ、うん。
***
前作にうっかりヒバードを出し損ねた大失態。