<喧嘩のお咎め>
かつかつかつ、と指先が机を叩く。
その速度が幾分速いのは、叩いている人物・・・綱吉の心理状態を反映しているからか。
全身から滲み出るオーラはいつもの陽だまりのほうなほのぼのとしたものではなく、ランボあたりが見たら回れ右して半泣きで逃げるような感じだ。
今机の前に立たされている雲雀と骸にはまったく通用しないが。
かつ、と指の動きが止まって、眇められた瞳が二人を射抜く。
「・・・これで何度ボンゴレの屋敷破壊しましたか」
「そんなの僕の知ったことじゃないね」
すっぱりざっくり切り捨てられて、精一杯の凄みを見せていた綱吉の目尻がへにょんと下がった。
この二人の前でボスっぽい顔をしてみせたところで何の凄み効果もない事に気付いて普段の状態に戻ったらしい。
気力が尽きたともいえる。
「知った事です・・・お願いですから自覚をしてください・・・」
「はいはーい、僕は自覚してまーす」
にこにこと笑って宣言する骸をぎろりと睨むと、怖いですねぇとわざとらしい返事が戻ってくる。
「自覚しててやめないなら一緒だ」
「僕は悪いんじゃないです、鳥頭がつっかかってくるのが悪いんです」
えへん、と胸を張っていうことかそれが。
小学生の喧嘩の言い訳にもならないぞそれは。
「売られたものは何でも買うのか!」
ばしん、と机を叩きつけて立ち上がって、綱吉は叫んだ。
その衝撃に机の上に積まれていた書類が少々雪崩れたが気にしない。
あとで骸に片付けさせよう、そもそもここに積まれているのは二人によって築き上げられた建物の損害報告書と補修嘆願書だ。
二人での共同作業、とかいったらあの傍迷惑などつきあいも治まるだろうか。
逆に言った途端に始まりそうだ。
超直感がそう告げていたから、その一言は心の中に留めておくことにした。
綱吉の叫びに、そんなことないですよ、と骸は心外だと言わんばかりの表情をした。
「鳥からのは全部買いますけど」
「買うな! 流せよ! なんでいちいち雲雀さんのだけ買うんだよ!!」
「じゃあ今度からはマーモンとかベルフェゴールとか獄寺君とかのも買いますね」
「・・・・・・・・・・・・・流せって言っただろうが」
「嫌です」
ぷっちん、と頭の中で何かが切れる音がする。
この音も随分と馴染みのあるものになったが、こうしょっちゅう切れていて大丈夫なんだろうか。
何度も結び直しているから大丈夫?
・・・などとつらつら考えながら、つなはいそいそとポケットにしまっていた手袋をつけ始めた。
「よし、その喧嘩買った」
意識を集中させると、額に淡いオレンジ色の炎が点る。
つけていたミトンの手袋も黒光りする手甲へと変化した。
そこで、いままで綱吉と骸の会話を黙って聞いていた雲雀が組んでいた腕を崩して口を挟んできた。
「ちょっと、僕を差し置いてなにしてるの」
「今からこの南国果実の躾をしようかと」
「僕もする」
にやり、と見る者を震えさせる笑みを浮かべて雲雀がどこからか仕込みトンファーを出現させる。
「まぁ、徹底した方がいいでしょうから」
タッグ完成。
二人で構えをとったところで、骸が顔を引き攣らせて叫んだ。
叫びながらもちゃっかり三叉を出現させている。
「ちょっと待ってください、買う僕は悪いかもしれないですけど、売る鳥も悪いです!」
「仕方がない、雲雀さんだから」
「理不尽! 借りにもボスがそんな態度でいいと思っているんですか!? 不平等は不満を招きそれがやがて内紛へ裏切りへと・・・」
「「雲雀さんだから」の一言で、隼人も山本も諦めてる。大丈夫」
「何が大丈夫ですか! 僕が納得してないです!!!」
「それを納得させるんだろう? 今から」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なるほど」
思わず納得してしまった骸がはっと気付いた時には、綱吉の最初の一撃が思いっきり容赦の欠片もなく迫ってきていて、すんでのところで骸は後ろに下がって回避した。
鈍い音がして床がめりこむ。
窪んだ床に舌打ちして、綱吉は冷や汗を流している骸を見やった。
へこんだ床の修繕費も二人の損害金額に計上しておこうと思う。
「ほ、本気で殺しにくる人がありますか・・・!」
「それくらいやらないと意味がない」
「・・・そうは行かないです。こんなこともあろうかと」
慌てていた骸が不適な笑みを漏らした。
その手が懐に伸びて、警戒した綱吉と雲雀の視界に現れた骸の手の先には。
ぽんやりぽやぽやっとした、黄色い丸い物体があった。
「こういう時のためにヒバードを捕獲済みです!」
「なぁっ!?」
「・・・この、トゲ頭が」
「くふふふふふくふふっふふふふふふふっふふふふ!!!」
「・・・・・・噛み殺す」
ゆらり、と雲雀から殺気が色濃く滲み出る。
あ、本気で怒ったよと綱吉は三歩ほど距離をおいた。
けれどヒバードを鳥質に取られていると、雲雀さんは動けない。
守護者最強と謳われている雲雀さんの分かりやすい弱点といえば弱点だ。
でもこれやると、後が本当に怖いんだけど。
雲雀が動けず綱吉が躊躇しているのを見て、骸は得意げに笑い声をあげた。
「クフフフフ、じゃあ綱吉君、僕と彼の不平等性を取っ払ってください!」
「・・・・・ヒバードを鳥質に取られた以上仕方ありません。雲雀さん、これから少し自重をお願いします」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった」
「すみません・・・・・・・・・というわけで話がついたから、次は骸、お前の番だ。あとヒバード返せ」
「僕はもう理解しました。雲雀が売らなくなったらその分は買いませんよ」
「お前からも売るなよ・・・?」
はーい、と良い子の返事をした骸の手からヒバードを受け取って、そのまま綱吉はグローブから炎を吹き上げた。
そしてそのまま窓からヒバードと共に離脱。
残されたのは骸と、鳥質がなくなった不機嫌MAXな雲雀様。
背後であがった盛大な音と窓からの煙に、あの部屋の内装結構気に入ってたんだけどなぁと思いつつ、しばらくの間ヒバードとの空の散歩を楽しんで現実逃避を決め込むことにした。