<雲時々霧のち大空>
 



10代目ボンゴレの守護者のうち、雲と霧の相性は最悪に悪い、というのはファミリー内での暗黙の了解だった。
仲が悪いという次元ではない。
顔をつき合わせれば必ず嫌味の応酬が始まり、高確率でそれは実力行使へと発展する。
お互いそれを余りある力の発散に利用しているきらいもあり、終わった後は平然とお互いの持ち場へと戻っていく。

問題はその衝突によって起こる損害と二次災害の大きさだった。
守護者の中でも桁外れの実力を持つ雲雀と、傍迷惑な幻術を駄々漏れにする骸の攻防戦というのは、周りに甚大な被害を及ぼす。
その後始末の書類は当然綱吉に回ってくるわけで、綱吉としても日和見ボスとしての威厳をかけて二人の衝突は避けたかった。
避けたいからできる限り二人が鉢合わないようにしていた。
けれどそれでも示し合わせたように二人は出会うのだ。

なんでだ。





「・・・・・・・山本」
「1階はもう立ち入り禁止にしてあるぜー」
「そう・・・ありがとう」
手際のいい雨の守護者に感謝しつつ、綱吉は眼下に広がる戦場から目を逸らした。
つい十数分前までそこはボンゴレの館の玄関広間、だった。
今は床石は割れ置いてあった花瓶は粉々になり壁もいたるところに皹が入っている。
戦場の中心にあるのは黒いスーツに身を包んだ痩躯の男性二人。
元並盛風紀委員長とパイナップル頭。

どがん、という音と共にぱらぱらと細かな破片が壁から剥がれ落ちた。
その度に綱吉の頭の中には被害報告書と銘打たれた書類が一枚ずつ加算されていくのだ。
「ふざけるな・・・誰が後始末すると思ってるのさぁ・・・・・・・」
手すりにしがみ付いて綱吉は搾り出すように呟く。
もちろんあなたですボンゴレ十代目、と言える勇気のある人はどこにもいない。
山本は苦笑しながら、景気よく屋敷を破壊していく二人を眺めていた。
「十代目! さっきから何か屋敷がゆれ・・・」
ばたばたとやってきた獄寺が、テラス下の惨状を見て言葉を切った。
今の騒ぎが何なのか瞬時で理解できたのだろう。
「またですか・・・今月何度目ですかあいつら」
「何度目だろうねー」
「四回目だな」
笑顔で教えてくれた山本に綱吉はぐったりと肩を落とす。

まだ月前半なんですけどね、週二ペースですか。
どうして会わないようにしているにも関わらず頻繁に諍いが起きるのかさっぱり理解できない、と頭を抱えていたツナの上に、ぽふりと着地した黄色い塊があった。
「ミードリ〜タナービークー♪」
「ヒバード・・・・・・・」
「ヒ、ヒ、ヒバーリー、カミコーロス〜♪」
黄色い嘴から器用な囀りを走らせるヒバードは、自身の飼い主の歌を声高らかに歌いだす。
「カミッカミ〜、クフ、クフフフ♪」
「ヒバード混ざってるよ・・・」
何かもう色々なものが。
可愛いのだけれど余計に脱力感を煽るヒバードの歌に、よろりらと綱吉は手すりに上半身を委ねた。
「もういっそ二人して凍らせてグリーンランドの永久凍土に埋めちゃおっかなー・・・」
遠い目をして綱吉は呟く。
眼下では二人を中心とした空間がぐにゃりとゆがんでいる。
おそらく骸が何か新しい幻術を繰り出したのだろう。

「ツナ、目が据わってるぞー」
「十代目、とりあえずお茶でも飲んで落ち着きましょう」
「この間並盛から饅頭取り寄せたんだ」
「どうせだから玉露にしましょうか」
「二人とも・・・そうだね、お茶の用意お願いしようかな」
その間に下を片付けてくるから。
にこりと目の据わった笑みを浮かべてツナはミトンの手袋をきっちりとはめ込む。
そしてそのまま下へと続く半崩壊状態の階段を悠々と下り、その数秒後にとんでもない轟音が辺りに轟いた。



「・・・俺饅頭取ってくら」
「湯を沸かさねーとな」
とっとと綱吉の頭から離れていたヒバードが、獄寺と会話をしていた山本の肩に器用にしがみ付いて、声高らかに一声鳴いた。

「ツナ、サイ、キョ〜♪」





ボンゴレは今日も平和である。