<宿題の代価>





とりあえず全部積み上げて、綱吉は天を仰いだ。
素敵だ。
この量を40日間でやれというのか、なんてすばらしい教育。

「ぼぉっとすんな。とっととやらねーと終わらねーぞ、バカツナ」
「・・・・・・お前、よく見ろ。こっちが学校の宿題。こっちがお前の出した宿題だよ! リボーン!」

バン、と高く積みあがった本の山をたたいて、綱吉は叫んだ。
そこには学校に宿題の十倍は優に積まれたものがある。
「無理だろ」
「やれ」
「いやいやいや、真面目に無理だって。だいたいお前・・・オレ、イタリア語なんか・・・」
「やれ」
「・・・・・・リボーン、あの、すこしでいいからまけ」
「やれ」
「・・・・・・・・・」

項垂れた綱吉に、リボーンは背を向ける。
「じゃあ、オレはちょっとイタリアにいってくるぜ」
「はあ!?」
「チャオ」
「っておい、オレ一人じゃこんなのできるわけな・・・」
呼び止めた綱吉の声は空しく響く。
すでにそこにリボーンはおらず、ただ残ったのは莫大な量の宿題と。

『サボったら殺すぞ』

という素敵な手紙だった。











「お願いします!」
頭を下げた綱吉を上から下まで睨んで、XANXUSは足を組み替えた。
「めんどくせぇこと持ってきてやがんじゃねーよ。カスザメにでも頼んどけ」
「スクアーロは山本の修行だし。ルッスリーアとマーモンは別件で仕事があるらしくて。ベルはイタリアだし・・・」
「・・・・・・・・・あの爆弾坊主は」
「獄寺君はイタリアに一度帰るんだよ、間が開くじゃない」
「・・・・・・で、俺か」
「お願い! 他にイタリア語のできる人身の回りにいないんだ!」

六道骸ことクローム髑髏はどうだと小声で突っ込んでみると、クロームは京子ちゃんやハルといっしょに遊ぶからダメ、と言われてしまう。
そんなもんだろうかと遠い目になりつつ、XANXUSは両手を合わせて頭を下げている綱吉を見る。

「おいカス」
「なに?」
「土下座しろ」
日本人としては屈辱MAXの土下座。
男の土下座は妻をもらいにいった時と、やくざの借金返済を遅らせてもらう時のみだそうだ(どこの情報だ)。
しかしXANXUSはやっぱり見誤っていた。
「お願いします!」

綱吉はダメツナである。
土下座ごときで何を躊躇おうか。
・・・そういえば以前にもうだめだったような気がする。

「テメェ・・・プライドは」
「ないです! お願いします!」
「・・・・・・・・・・・・」
頭痛を堪えるような表情になって、XANXUSは米神を押さえた。
だいたいこれが十代目だと思うといっそ目も遠くなる。
ちょっとはプライドというかなんというか、なにかを持っていてほしい。
「じゃあ」
「なんですか!?」

綱吉にプライドはない。
ならばむしろダメツナとしてだめそうなことを、あるいは男としてできなさそうな・・・

「・・・なら」
「何でもするから!」
言ったな、とXANXUSはにやりと笑った。
「こっちにこい」
「うん」
指で招かれて、綱吉は何も言わずとたとたとXANXUSの前にまでやってくる。
「座れ」
「?」
「床じゃなくて、ここに」
XANXUSが指差した先は彼の膝の上。
さすがに綱吉の拳が震えた。
「・・・・・・・・・死ね」
真顔で吐き捨てても、生憎年の割りに幼い外見のおかげで、まったくちっとも怖くない。

あのハイパーモードだったなら多少は怖いんだがな、と思いながらXANXUSは無言で綱吉を見やる。
別段彼が嫌がっても。XANXUSが教えなければ済むだけの話。

「どうする」
「・・・・・・わかったよ! 座るから! くそう、覚えてろ・・・」
ぶつぶつ言いながら綱吉はどかっとXANXUSの膝の上に乗った。
重いだろと負け惜しみめいたことを言いながら、むっすりとした顔で横目で睨む。
「そんな顔しても」
「な、なに」
綱吉の顎をもって自分のほうへとXANXUSは引き寄せる。
超直感でいろいろ予感できているのだろうが、ココに座った時点で綱吉には選択肢など、ない。


「んぐ〜っ!?」

じたばたと足をばたつかせる綱吉を押さえ込んで、XANXUSはキスというよりは唇を合わせるとしかいえないことをして、顔を離す。
「・・・お前、暴れるんじゃねぇよ」
「・・・・・・決めた」
うつむいた綱吉の額に焔が燃え上がった。
「まずは体力をつけさせてもらうぞ、家庭教師さん」
「ったく、キれてんじゃねーよ、カスが」
「覚悟しろ、バカボス」

いつのまにかボンゴレグローブを装着した綱吉が据わった目で呟いて、XANXUSはにやりと笑って自分の武器を引き出すと、彼に動く間を与える前に窓を開け放った。
「当然、外へ出ろよ」
「その前に燃やし尽くしてやる」
「・・・階下に一般人が入ってるからな」
「チッ」

舌打ちした綱吉が先に窓から外へ出る。
XANXUSも楽しげな笑みを浮かべて、空へと身を躍らせた。










机の上に突っ伏した綱吉の肩をペン先でつつく。
「いたっ」
「とっととやれ」
この俺様のスケジュールを無駄にするんじゃねぇ、と言われて綱吉は壁に貼られている密なスケジュール帳を見上げて溜息をついた。
「感謝してるよ! でもちょっとぐらい休ませてくれても」
「テメーがトロいんだ。とっととやりやがれ」
「XANXUSの鬼・・・」
ぼやいた綱吉の肩に、XANXUSは今度はつつくのではなく手をいいた。

「おい、カス」
「な、なに」
「遅れやがったらさっきと同じ目にあわせてやらぁ」
「必死にやりますごめんなさい!」
絶叫した綱吉はしゃきりきと身体を起こして、かりかりかりと問題を解き続けた。



一週間後に帰国したリボーンがかっちり予定通りに進んでいる綱吉の勉強具合を見て、楽しげな笑みを浮かべたのは当然のことであったろう。
 

 



 


***
そろそろなれた綱吉君15歳。
XANXUSはツナが嫌な顔をするのが好きで好きでたまらないらしいです。