<夢もみたくない>
自由気ままな守護者の身としても、多少の雑務は課せられている。
誰にも縛られぬ事を常としている雲雀にも書類仕事は回ってくるが、選り分けは草壁にやらせているしほとんど目を通してそのまま裁可を下すだけだから、労力はそれほどでもない。
風紀委員時代から書類仕事をしていた分手馴れている雲雀は、本来の気質からか手を抜く事もないし、締切も守る。
どこかの雨やら晴やらの守護者のように締切ギリギリまで溜め込んで出したりしない分、綱吉にも重宝されていた。
ここ一週間ほど外で仕事があったため、戻ってくると小さな山が机の上に築かれていた。
溜め込むのは性に合わないと、きちんと分類が行われたそれを片付けて、草壁が用意した緑茶に口をつけたところで雲雀はいつも近くにいる黄色い塊の姿が見えない事に気づいた。
普段机の上を歩き回ったり中学の校歌を歌ってみたり雲雀の頭までよじのぼってみたり書類の山の上にちょごんでみたりしているはずなのだが。
また屋敷の中をうろうろして、綱吉あたりに餌付けされているのだろうか。
その時ぴょこ、と机の端から丸い顔をのぞかせて、ヒバードがぴる、と鳴いた。
「ああ、いたの。どこにいたの?」
「クフフフフ」
愛らしい声で紡いだ声に、雲雀は片眉をあげた。
こんな風に相手の神経を逆撫でするような笑い声をする人物は一人しかいない。
雲雀自身とはヘビとマングース以上の険悪さを誇るが、あれもヒバードには情があるらしく、何かにつけてかまっている。
それでこんな笑い声を覚えさせられるのはいただけないが。
「またあの植物のとこ? 悪い影響うけるからやめなよね」
「ヒバーリ♪」
了承したのかしないのか、一声鳴いたヒバードに雲雀は気分よく手を差し伸べた。
ひょんと手乗りしたヒバードを抱き上げてもう片方の手でもこもことした羽毛の感触を楽しむ。
日向を飛んできたのか、近づけた羽からは特有の匂いに混じって日向のにおいがした。
「時間もあるし、外にでようか」
「ミードリータナビクー♪」
「そうそう」
今では口癖になった校歌に雲雀は気分よく頷く。
「クフフフフ」
「だからそれはもういいって」
「ホントに見事に騙されましたねぇ、アナタ」
「・・・・・・・・」
「どうしました? あまりの恥ずかしさにフリーズしましたか?」
クフフフフ、とヒバードの口から出る声は先ほどまでの高めの声ではない。
流暢過ぎる言葉と聞きなれてしまった声に、雲雀は自分の掌に乗っている見た目愛くるしい小動物の中身が何であるか知ってしまった。
つい数秒前まで気分よく撫で摩り顔を寄せすらしてしまった。
ショックと自覚すらできない衝撃の中、雲雀の視界は暗転した。
ばっと目を開け、即座に身に着けていたトンファーに手を伸ばした。
同じ部屋の中で主を起こさないよう気配を殺して仕事をしていた草壁は、起き抜けの主の行動に目を見張り、慌てて室内の気配を探った。
しかし室内はおろか周辺に、雲雀と草壁以外の気配すらない。
「どうしたんですか・・・?」
「・・・・・・・・・・僕、今寝てたかい」
「は、はい」
「どれくらい」
「1時間ほどでしょうか・・・」
「ヒバードは」
「先ほどから姿は見ておりませんが」
雲雀の問いに答えながら、草壁は内心動揺していた。
そう、と呟いて雲雀はトンファーを握ったまま部屋から出て行く。
それを見送ってから、もしかして寝ぼけていらっしゃったのだろうか、と草壁は主の先ほどの奇行を思い返し、そして即座に忘れる事にした。
そして雲雀は、中庭でヒバードと戯れる骸を発見し、雲雀を見つけて飛んできたヒバードがその愛らしさそのままに「クフフフ」と鳴いた瞬間に骸に向けて噛み殺しにかかった。
「ちょ、なんなんですかいきなり!」
「君のおかげで僕はすごく機嫌が悪い」
「僕なんの関係もないですよねそれ!?」
「おとなしく噛み殺されな」
「理不尽でしょう!?」
そして今日も中庭に、クレーターと有幻覚の炎が出現する。
***
(オマケ)
「シャマル、すっごくよく眠れる精神安定剤ちょうだい。夢も見ない奴」
「俺は男は」
「つべこべ言わずに出せ。人体への影響なんて気にしなくていい(据わった目」
「・・・・・・・・・・・」