<ミスターS>




「ねえ、沢田綱吉」
「なにかな、骸」
山本父のおごりで寿司を食べていると、カウンターに座っていた骸がテーブル席の綱吉のほうへ身体をねじって話しかけてきた。
実はそこにいる六道骸のせいで山本も獄寺も綱吉自身も半死の目にあったりしたのだが、そのあたりを山本は山本父にさらっと話して「でも今はダチだから」とステキな言葉で結んだらしい。
それで了解してしまう山本父もあまりにステキ過ぎる、とはリボーン大先生のお言葉だ。
「ちょっと思ったのですが」

特上寿司のイクラを口に運びつつ、骸はその指をつついとカウンター内で働く銀髪の男へと向けた。
「カス鮫がどうした」
同じく特上寿司を食べている(自腹)XANXUSがうざったそうに言う。
その斜め前に座って、隣の綱吉と同じくつつしまやかに並寿司を食べていた獄寺も、骸の指差す先へと視線を向けた。

「君は沢田綱吉、ですよね」
「そうだけど」
「スモーキン・ボムは獄寺隼人」
「あぁ? それがなんだってんだよ」
「君は山本武」
「あ、名前知っててくれたのか、あんがとなー」
「で、XANUSはまあボンゴレ九代目と同じ苗字でしょうから誰しも知ってるとして」
それがなんなんだ、と言いたげな全員の視線を一点に集めたまま、骸はこういってくれた。


「スクアーロってなんて苗字なんですか?」


その瞬間、何かが割れる音がした。

「ちょっと待ててめぇ゛え゛え!」
ゆらり振り返ったのは捻り鉢巻スクアーロ。
「あれ、聞いた覚えねーな」
「・・・そういやオレも知らねーな」
「オレも知らないかも。なんなの? XANUXS」
「・・・・・・・・・カス鮫に苗字なんていらん」
「ちょっとまてボスぅ゛う゛!!」

カウンターの奥から突込みが飛んできた。
怒りに銀髪を揺らしている。
もしかすると絶望なのかもしれない。

「な、何年の付き合いだと思ってるんだ!」
「カス鮫としか呼んでないからな」
清々しい答えをボスにもらって、スクアーロはその場所に膝をつく。
骸は首をかしげた。
「直属の上司にすら名前を知られてないんですか? すごいですねえ」
「・・・・・・・・・んなわけ、ねーだろうがぁ゛あ゛・・・」
かろうじて言葉を返すも、いつもの半分以下の声量だ。
「で、答えは?」

あっさりと傷心のスクアーロに鞭打った骸に、彼は諦めのため息と共に返す。
「・・・だよ」
「聞こえません」
「・・・スクアーロが苗字だよ!!」

「「えっ」」

思いっきり素で、そこにいた五人の言葉が重なった。

「そ、そうなのか!? スクアーロスクアーロ呼んでたし、てっきり・・・」
「そ、そうだよな。てっきり名前だって」
「イタリアでも苗字で呼ぶのが普通なのか?」
「へえ、初耳です。僕にも知らないことがあるんですね」
「・・・・・・・・・そういえばそうだったか」
「ボス!!!」

ぼそっと最後に呟いたXANXUSに、さすがに突っ込みを入れた。
確かに人の名前を覚えるのは嫌がるタイプだとは思っていたが、十うん年も下についていた第一の部下の名前ぐらい覚えておいてもいいだろう!

「じゃあ、名前はなんていうの?」
せっかくだからそっちで呼んだほうがいい? と綱吉に聞かれて、スクアーロはたまっていた涙をぬぐう。
あのボスに比べてこっちのボスのなんと人間味のあることか。
ていうか自分のボスが人としてだめなだけか。
「・・・スペルビ」
「・・・・・・・・・・・・今後ともスクアーロでよろしく」
顔を引きつらせて即答した綱吉に、なんでだあ゛あ゛ぁ゛! とスクアーロは絶叫したが、ソレは即効で骸が頭をはたきつつ教えてくれた。


「だってヘンですよね」



なお翌日、ヴァリアー及び守護者一同にスクアーロがアンケートを実施したところ、ルッスリーアとマーモンは本名をきちんと回答してくれ、スクアーロは嬉し涙を流したという。



 



***
でもヘンだよねスペルビって名前。