「すっこんでろ」
オレがそういうと、山本はみるみるうちに表情を変えた。
いつもはアホみたいな面しかしていないくせに、険を帯びたその表情には殺気すらあった。
「そーかよ!!」
理由を話そうとは思わない。
オレは真実、お前が気にくわねぇ。
<ヤクソク>
それは、この世界に来る前。
ヴァリアーをぶっ飛ばした後、オレのところへ十代目自らがいらっしゃった。
その首にはボンゴレリングが下げられていて、もちろんオレの指にもそれはあった。
「獄寺君」
お願いがあるんだ、と十代目はおっしゃった。
十代目のご命令ならオレは何でも聞くから、といったらさびしそうな顔をされた。
「・・・じゃあ、命令」
だから絶対守ってね、といわれた。
オレは身を正して、十代目のお言葉を待った。
その言葉は、予想外のものだった。
「少し、覚悟をしなくちゃいけないかなって・・・その、獄寺君には悪いけど。オレはマフィアとかになる気はなくって・・・でも」
目を伏せた十代目はすこし躊躇われて、それから顔を上げた。
「考えて、みようかなって。逃げてばっかりじゃ、ずっとダメツナだし」
「十代目・・・」
迷っていらっしゃるのはわかっていた。
オレみたいに最初からマフィアの世界にいたわけじゃない。
十代目には優しい母君もいて、普通の平和な生活があった。
この国は、銃声も聞こえない。
「いまさらこんなこと、言ってごめん」
「と、とんでもありません、十代目!」
「・・・それで、お願い・・・ううん、「命令」なんだ」
重い口で十代目がされた「命令」。
必ず守ります、十代目。
あなたがオレに下した初めての「命令」。
「オレはいい、だけど・・・山本をこれ以上、戦わせないでほしいんだ」
山本武。
十代目のクラスメイト。
雨の守護者。
「山本は並盛で、野球でも寿司屋でも、とにかく普通の暮らしをしてほしいんだ」
それは十代目の優しさ。
「もう、嫌なんだ。関係のない人を傷つけたくない」
「十代目、しかしあいつは一応雨の――」
「・・・だから、嫌なんだ。山本をこれ以上巻き込みたくない」
あいつは、ボンゴレリングを指にはめて嬉しそうに笑っていた。
皆で勝ち抜いた証だと、まるで優勝トロフィーを見るような目で。
「「命令」だよ獄寺君。これ以上山本を・・・戦わせないで」
オレは、と呟かれた十代目は拳を握って唇を噛み締める。
少しだけ肩が震えて、小さな声で呟かれる。
「・・・オレは、戦っている山本を見るのが、少し、怖い・・・」
「十代目?」
「ううん、気にしないで。じゃあね、獄寺君」
背中を向けた十代目をオレは追いかけるべきだったのかもしれない。
それはオレにとってもあいつにとっても、意味の無い命令だというべきだったのかもしれない。
山本は――あの野球バカは、きっと十代目になにかあったら割って入るだろう。
その立ち居地を譲るつもりはねーけど、俺がいなかった場合に次にそうしてくれるのはあいつしかいない。
アホ牛は論外、雲雀も問題外、骸にいたっては関わらせたくもない。
残るは笹川了平だが、あれはなにもわかっちゃいない。
そうなるとあとは、山本しかいねぇ。
それに十代目、オレも守護者だから、わかるんです。
あいつも十代目を守りたがっていることぐらい。
そのためならマフィアでもなんでもやれることぐらい。
オレには、わかるんです、十代目。
もしオレが十代目の命令であったとしても、そのように遠ざけられたら。
オレは絶対に反発します、もしかするとその命令に背きます。
オレはあなたを守りたい、その気持ちはアイツも同じです。
だから十代目。
その「命令」は、オレには重い。
――「命令」だよ獄寺君
「わかりました、十代目」
あなたが望むことならば。
オレはそれを守りましょう。
それが守れる限り。
あいつがそれをぶち破ろうとしない限り。
オレがあなたを守れている限り。
「命令」を、守ります。
***
勝手に獄寺がかたくなな理由を妄想。
山獄とか獄山とか獄ツナとかでも美味しいネタだったかもしれない。
だけどそれをこう料理するそれがマイウェイ。