<部活への意気込み>

 


皆さん四月です。
春です。
新学期です。

入部の季節です。



「え、野球部に入らないの?」
「どーしよっかなーってな。ツナは?」
自分の顔を覗き込んできた山本に、綱吉は眉を寄せる。
「オレはいいよ、山本はどうしたいの」
「オレか? オレは・・・ん〜・・・まあ、他にすることがあるしさ」
言葉尻を濁した山本に、綱吉は首を横に振った。
「山本、オレのこととか、将来のこととか。そんなことは気にしないで」
「ツナ・・・」
「今しか出来ないことをしてよ。山本も、獄寺も。オレは本当は」
「言うなよツナ」
言うなよ、と言って山本はへらと笑った。
「オレは「高校生」をやるからな」
「うん」
「じゃ、見てくるな」
「うん、行ってらっしゃい」

頷いた綱吉に送り出されて、山本は野球部の見学に行った。

「クフフ、行ったんですか」
「・・・昨日に続いて、骸、暇だなお前・・・」
思わず突っ込むと、クフ、と更にうれしそうに微笑まれた。
なんていうかその笑い声は高校生としても何人としても不気味だよ。

「クフ、クフフ」
「何その笑い。野球部になにかあるのかよ」
クフフ、と笑って骸は壁に背を預ける。
「並盛高野球部は浪人部として有名です」
「それだけ練習してるんだろ」
「違います。弱いんですよ」
「え」

そういえば地区大会突破とかいう話は聞かない。
進学校だし、そんなに強くないだけかと思っていた。
「弱いというか臆病というか。二言目には「俺たち進学校だから文句あるか」ですよ。練習もしない、勉強もしない。並盛高野球部はただの不良の集まりですよ」
「・・・・・・え」

目を丸くした綱吉に、楽しみですねえと骸は笑った。

あの山本武が、不良のたまり場の弱小野球部に唯々諾々と流されるとは思えない。
彼がどう変えるのかが楽しみだ。










その後骸に捕まって勝手に彼の部活めぐりに付き合わされた綱吉は、(獄寺は本日ビアンキの呼び出しを喰らって早退)最後にめぐった演劇部でノリノリになった骸を放置して、野球部が練習・・・しているはずのグラウンドは無人だったので、しかたなくクラブ棟へと顔を出すことにした。

「山本ー」
名前を呼びながら部室(らしき)を回っていくと、ドゴッと音がして一人誰かが目の前に転がってきた。
「あ・・・や、山本!?」
転がり出てきた山本は、口元をぬぐって立ち上がる。
「ツナ、なんでここに」
「や、山本どうしたの!?」
へらと笑った山本の顔にはあざができていて、綱吉は思わず駆け寄った。
「どうし、たの」
「なんでもねーよ」
脇に落ちていた自分のバッグを持ち上げて、ぱんぱんと泥を払う。

「とっとと帰りやがれよ、一年坊主!」
「なにが野球だぁ! ンなダサいもんは一人でやりやがれ!」
部室の中から野次が飛んできて、綱吉は目を見張った。
どかどかと中から出てきたのは、明らかに不良。
どう見ても不良。
ザ・不良。
(ああ、でもリーゼントじゃない・・・)
時代を読んだらしい。

残念ながら綱吉も山本もこんな普通の不良相手でおびえたりとか怖がったりとか、むしろ何か感想を抱くこともない。
だって身内の方が怖いんだ。

けれど山本が殴られっぱなしであるらしいことを疑問に思って、綱吉は山本を窺った。
「山本、殴られたんだ」
「ははは、たいしたことねーからな」
「でもっ・・・」
「・・・部員同士で暴力沙汰があったら、大会参加は中止になっちまう」
それは、と綱吉が言いかけて口を閉じた。
山本が殴られるだけなら彼が口をつぐめば暴力沙汰はなかったことになる、と。
でも。

「ごめんね、山本。別の高校なら・・・」
「いいんだ。これぐらいがやりがいがあるってもんだぜ」
「なにごちゃごちゃ話してんだぁてめーら!」
会話に水を差した上級生をちらっと見て、山本は綱吉の背中を押した。
「帰ってろ、ツナ」
「でも!」
「もんだいねーって。大丈夫」
「・・・うん」

むちゃしないでくれよ、と綱吉が念を押して走り去っていくと、山本は背中に携帯しているものを抜く。
今日はついでに両方持ってきた。

「ああ、バットぉ? それならこっちももってるぜえ!」
手になじむバットを構えて、山本は腰を落とす。
彼の切れ長の目が細められて、その唇が吊り上げられた。











「おいっちにー! さんっしー! おいっちにー! さんっしー!」
「なーみもり ファイッ オー! ファイッ オー!」
窓の外から響く大音量の掛け声に、外を見ていた綱吉(以外のクラスメイトも同じだ)に、横からこそりと声がかかった。
「ボス・・・」
「クローム、学校では名前でっていってるのに」
ごめんなさい、とはにかんだクロームは、不思議そうな顔で窓の外を指差した。

「あれは、なに?」
「・・・野球部だね」
真っ白ユニフォームではなく、よれよれジャージに身を包んだ生徒達がグラウンドでやけくそぎみな叫び声をあげつつ走っていた。
そして全員頭が丸刈りになっている。
昨日までは確かに茶髪や金髪やカラフルだったのに。
「十代目! ただいま戻りました!」
「日直の仕事お疲れ様」

十代目にねぎらっていただけるなんて感激です! と言った獄寺も窓の外の異様な光景に思わず目をこする。
「・・・なんスかあれ」
「野球部」
「あの野球バカですか」
「なのかなあ?」
さしもの不良たちも、山本のあの爽やかな笑顔と説得には折れて更正してくれたのだろうと、綱吉は始めて自分がこの高校に入ってよかったと思った。




 

 

 


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説得方法はご想像に任せます。