<飼い主の心飼い鳥知らず>



ぴん、と足のすそを引っ張られる。
綱吉が目線を下ろすと、床の上に黄色い塊があった。
黙ってみている雲雀の視線の先で、それは高級スーツのズボンに皺を寄せながらもじもじと少しずつ上へと移動し、やがて膝のところに乗ってぽすんと座り込む。
「ヒバードどうした? 雲雀さんは?」
「ヒーバリー、カミ、コロースッ」
「……そう」
囀る内容から察するに、おそらくまた骸とかち合って戦闘になったのだろう。
この鳥はいつも雲雀にくっついているが、そういう時の回避行動はとてつもなくうまいから。
ふわふわの毛並みを撫でながら、もうすぐ誰かしらが被害状況を教えにやってくるんだろうなぁと綱吉は溜息を吐いた。
「ツナヨシー、オナカ、スイタ」
「ああ、はいはい」
引き出しの中から常備してあるヒバードのご飯を取り出す。
雲雀の傍にいられない時はこうやってやってくるヒバードのために、こっそりしまってあるのだ。
それを与えると、ひらべったいクチバシで器用に啄ばんでみせる。
「おいし?」
「オイシー!」
ぴるる、と一際高く鳴いてエサを啄ばむ姿に和みつつ、せめてもうすこしだけこの穏やかな一時を楽しんでいたいなぁ、と綱吉は思うのだった。





どこからか飛んできて肩にとまった毛玉に、ハルは顔を笑み崩す。
「ヒバードちゃん、どうしたんですかー?」
「ヒバリ、イナイ! イナイ!」
「今日はお仕事でしたっけ?」
実力行使のともなう仕事の時は雲雀はヒバードを連れて行かない。
こうやって屋敷中を好き勝手に飛び回っているヒバードは屋敷にいる誰もが雲雀のペット(?)と認識しているから捕まったりする心配もない。
「あ、そうだー」
にっこりとハルは笑って、今食べていたケーキを小さくちぎってヒバードの前に差し出した。
「これ、とってもおいしいって評判なんですよー? ヒバードちゃんも食べますか?」
「ピルルッ♪」
平べったいクチバシでひとむしりしたヒバードは、お気に召したのかはぐはぐとケーキを啄ばんでいく。
あっという間に一口分ほどあったケーキはなくなってしまった。
満腹になったのか、そのままハルの肩にとまったままうつらうつらし始めたヒバードを微笑ましそうに見ながら、ハルは残りのケーキにフォークを刺した。





「おや、これは雲雀君の鳥じゃあありませんか」
「クフフフフフ!」
「おやおやこれはこれは」
結構なご挨拶ですね、と骸は武器を磨く手を休めた。
この鳥が近くにいるということは、その辺りに飼い主もいるんでしょうかねぇ、と気配を探ってみてもそれらしい人物は見当たらなかった。
別にこの鳥が縦横無尽に屋敷を飛んでいるのはいつもの事だから、今頃どこかで探しているのかもしれないが。
「それはなんとなく面白い光景ですねぇ…クフフフ」
「カミコースッ♪」
「クフフフフフフ」
傍目から見ると鳥相手に意味不明な笑みを向けている変人パイナポー。
しかし本人は至って気にしていないようだ。
「ああそうだ、先刻クロームからクッキーをもらったんですよ」
ごそごそとポケットから小さな袋を取り出す。
ごつごつとした表面に、刻んだナッツが沢山ついている。
そのうちの何粒かを取り外して、骸は指の上にそれを乗せてヒバードに差し出した。
「食べますか?」
返事の変わりにヒバードは骸の手に乗っかって、ぱくぱくとナッツを口に頬張りはじめた。
「おいしいですか、よかったですねぇクフフフフ」
和やかなのかよく分からない光景は、飼い主がトンファーを持って現れるまで続いたとか。










ヒバードを手に乗せたまま、雲雀は固まっていた。
「……なんで」
おかしい。
おかしすぎる。
「なんで君そんなに太ってるの……?」
もともと丸っこくてこんなんで飛べるわけ、と疑いたくなるような姿だけれど。
ぽてぽてと歩いたり人によじ登ったりする子だったけれど。
毎日手に乗せたり肩に乗っけてたりすると、違和感を覚えてくるわけで。
試しに体重計に乗せてみたら案の定。
「規定の量しか食事は与えてないはずなのに……」
これはこれでまるっところっとしてて可愛いけど。
だけど。
「ハーヨッコイショ」
「…………」
もぞ、と雲雀の頭の上に止まってヒバードが鳴く。
その瞬間に雲雀は決意した。

ヒバードダイエット、開始。










「やぁヒバード、また新しいご飯手に入ったんだよー」
「ピルル♪」
そんな飼い主の心、飼い鳥知らず。