呼びかけられて、目線を上げた。
男は、少しだけ息を乱している。
「十代目っ、やられました」
「・・・そうか。わかった隼人。ありがと」
一息だけ溜めて、ツナは立ち上がる。
「十代目・・・」
「俺が行く。「示しをつける」って言うしね」
「しかし――十代目のことは九代目も門外顧問も承認し、後押ししています。このまま」
「ダメだよ。相手が調子に乗って、ファミリーを傷つけたら嫌だもの」
そう言って、足早に部屋を出て行く。
獄寺隼人はただそれを追いかけることしかできなかった。





<少年時代との決別>





ボンゴレの十代目は、日本人だった。
マフィアとは関係のない幼少時代を送っていた彼の襲名には、反対する者も多かった。
しかし跡継ぎ候補者としては最有力候補であったザンザスがその権利を有しない今、彼しか残っていなかったこともまた事実であった。
沢田綱吉――それが彼の名。
「まだ、荷が重いだろうか」
呟いた九代目に、十代目は微笑んで答えたといわれる。
――俺、がんばりますよ。だって、ファミリーを守りたいから。

公式に十代目が披露されたのが、一週間前のこと。
ボンゴレ内では大方十代目に関しての意見はまとまっていたが、傘下のファミリーとなると話が違っていた。
特に血気盛んな連中が、日本人でしかも平和ボケした世界に育ったボスの下になどつかないと、そう唱えて決起したのである。

「しかし、奴らは理解しちゃいねぇ。ツナは強い」
「山本」
現場に駆けつけた時にはもう、こうだった。
呟いて山元は足で瓦礫をどける。
「さすが十代目。お見事です」
獄寺の言葉が聞こえたわけではないだろうが、炎をともして中央に立っていたツナがゆっくりと振り向いた。
「・・・っ」
息を呑む。
隣の山本も同じような表情を浮かべていた。
「・・・・・・こいつ、こんなに」
戦うのを見るのは確かに久しぶりだった。
しかし、これほどに。
これほどに彼は鋭い気迫を持っていただろうか。
確かに殺意の混じる、そのオーラを。
「じゅうだい・・・め」
二人にすたすたと歩いてきて、その炎をともしたままツナは口を開いた。
「山本。リボーンに連絡を。張っている幹部三名、始末しろ、と」
「・・・・・・・・・ツナ」
「隼人、帰ろう」
微笑んだその顔は、見慣れているものだったけれど。

その瞬間、三人の背後から土煙が上がった。
「ひゃはあ! 死ねぇ!!」
「十代目っ」
「ツナっ!」

攻撃を防ごうとした二人の間を縫って、ツナは炎を飛ばしていた。
それに包まれた敵は、全身に火がつく。
「ひぎゃあああっ」
「・・・condoglianza」
呟いて、ツナは取り出した拳銃の引き金を。
引いた。


「じゅう・・・だいめ」
「二人とも、無事だね」
「「・・・・・・」」
黙り込んでしまった二人に、ツナは微笑んだ。
「人が傷つくのは嫌だ。誰かを殺すのは怖い。だけど俺は、それでもファミリーを守りたい。そういう覚悟が、できたんだ」
上げられた手が、獄寺と山本の肩に置かれる。
「今まで、俺の代わりをありがとう。今日からはちゃんと、俺の業にするよ」

弱者に手を上げる。
はむかう危険分子は消す。
策だってつかって暗殺だってしてやる。
この手で武器を持って人を殺しても良い。

――だってそれは、俺が目を背けていたって無くならないから。
獄寺や山本が肩代わりをしてくれていただけだから。

「十代目」
「ツナ」
「――俺ももう、決めたんだ。こっち側の人間になるって」
大切な人たちがたくさんいるから。
必要としてくれているから。


 

 

 



***
説明臭い襲名直後の十代目。
それまでは暗殺とか殺人とか生臭い話は獄寺と山本が率先してこなしてくれていたと思う。
だけどボスがやらなきゃいけない仕事だったから、ツナが自分でやることにしたのです。

育ったツナはハイパー時の顔がいいな。