<死からの帰還>



ぼうっと白い光が差して、綱吉はゆるゆると瞼を押し上げる。
にじんだ視界に映るのは白い光と、黒い闇。
「……?」
しばらく目をぼうっと開いたままで光と闇を眺めていると、ふいに視界が焦点を結ぶ。

白い光は天井で。
黒い闇は男だった。

「あれ、何でいるんだ」
正直な第一感想に、男は険悪な顔になる。
眉間によった皺にけらけら笑いながら体を起こそうとしたが、これがなんとも上手くいかない。
「いててて、鈍ってるなあ」
「ほかに言うことはねぇのか」
低い声がなんだかすねているような気がして、綱吉はくすくす笑う。

起き上がれなかったので、両腕を伸ばして男の頬に触れる。
しっかりと暖かくて、それがうれしかったのでにこりと笑った。
「ただいま、XANXUS」
「……たく。勝手に死にやがってカスが」
カサカサした唇が重ねられる。それほど深く絡まってこない舌に綱吉は眉を寄せた。

「どうしたんだ、お前らしくない」
寝ている場所がベッドというのもあり、綱吉はとっくにひん剥かれていてもおかしくない。
それなのに奇妙に控えめな相手に違和感を覚えた。もちろん怒ってもいる。
「いろいろあったんだ。テメェも聞きゃあ驚く」
「十年前の俺に手を出したってホザいたら消すぞ」
すいと目を細めて見上げてみれば、ガキに勃ちゃぁしねぇと溜息をつかれる。
もちろん信憑性はあまりない。

手を伸ばして男のネクタイを引っつかんで引っ張った。
僅かに顔がしかめられる。けれど振りほどかれはしなくて、それも違和感ではある。
だが今は気分が浮上したので正解だということにしておいた。
「お前は俺のだ」
宣言してやると、舌打ちが振ってくる。
それから噛み付くようなキスも。
「んっ……ぅ」
「がっつくじゃねぇか」
からかわれて、綱吉は小さく頷いた。

「お前も久しぶりだろ?」
「モテねぇテメェと一緒にするな」
「今決めた、お前を十年後に飛ばしてやる」
「余計タチ悪くなったテメェの扱いを学ぶだけで終わるだろうよ」
言い合う間に何回か唇を重ねて、互いの唾液で濡れた唇が気持ちいい。
XANXUSの首に腕を回していた綱吉は、ふと首をかしげた。

「で、面の皮の厚さならボンゴレ随一のお前が何に驚いたんだ? 十年前の俺のかわいさとか?」
「マジ性格悪くなったなテメェ。継承の悪影響じゃねぇのか」
しかめっ面をしたXANXUSに、嫌いじゃないくせにとささやくとにやりと笑われた。
笑うところかそこ。
「十四のテメェのかわいさはあいにく堪能してねぇよ……来てねぇからな」
「へ?」
まん丸に目を見開いてさぞかしアホ面をさらしたのだろうが、XANXUSはそれになにか言うこともなくするりと上半身を起こす。
「あ、おい、XANXUS」
「ちっとはおとなしくしてろカスボス。このまま抱いてもらえるとでも思ったか?」
「だってお前、俺のこと、好きだろ?」
ご無沙汰で、さらに死んだと思ったら戻ってきたのだ。
感動して泣いてくれるとはさらさら思っていなかったが、このままお叱り半分で強引に抱かれるのだと思っていた。
っつーかそこは空気呼んで抱けや。

内心ぐちぐち言っていると、背中にXANXUSの手が添えられる。
何するんだと思っている間にさっさと上半身を起こされてしまった。
「寝てた方が楽なのに」
身体を積み上げたクッションにもたらせかけてそう言うと、いい加減にしろという視線が返されてきた。
「誰がヤるつった」
「俺はシたいけど」
さらりと言ってやると、XANXUSの顔が見事に凍りつく。
ざまぁみやがれと舌を出すと、なんだか奇妙に疲れた顔で失礼なことをつぶやいた。
「そんな気分にならねぇ」
「……珍しい俺の誘いを断るってことは、ヴァリアー解散の危機に瀕したいのか?」
「真顔で素っ頓狂なこと言ってんじゃねぇ。仮死状態のときに頭のねじが数本吹っ飛んだんじゃねぇのか」
どっちが素っ頓狂だと真剣に抗議すると、こりゃあダメだなといわんばかりに肩を竦められた。腹が立つ。

こうなりゃあどんなに優しくされてもこの怒り忘れてやらん、と決めた綱吉の目の前に、すいと一枚の写真が差し出された。
「ボンゴレの大空のリングを持ってきたのは十年前のテメェじゃねえ、こいつだ」
写真に写っていたのは、黒髪の少年だった。
厳ついというかあきらかにカタギではない印象を与える顔だったが、目元が少し温和なおかげで「精悍」レベルでとどまっている。
振り返ったところを撮られたのか、きょとんとしているような表情が彼のあどけなさを目立たせている。

写真を食い入るように見つめてから、綱吉はふいと視線をそらした。
「XANXUS」
綱吉も自覚するほどに異様に冷えた声だった。
喉も頭も腹の奥も冷えている。
「隠し子の類じゃねぇよ」
写真を引っ込めながら、XANXUSは目を細める。苦笑なのか嘲笑なのかほかの感情なのかわからない。

「こいつはボンゴレ十一代目で、十代目の息子だ」
「へ?」
俺? と指差すと、ほかに誰がいるんだと返される。それもそうだ。いやしかし。
「俺の成分欠片もないだろ! この顔はお前そっくりじゃねーか!」
「ああ、俺の息子でもある」
なんだそれは。
いつも出るはずの突っ込みも遅れて発動した始末で、綱吉ははくはくと口を動かしたが言葉にはならない。
しばらくそれを繰り返してから、ようやく現実逃避な一言をつぶやいた。
「…………目覚めたばっかりで俺の脳が上手く機能してないみたいだ」
「安心しろ、俺も大差ねぇ反応をした」
「お前が安心させてくれるとか珍しすぎる。てか、どういう意味だ」

写真をサイドテーブルにおいたXANXUSは、いつになく楽しそうな顔で綱吉のあごを持ち上げると、喉をくすぐる。
猫に対するような態度に不満もなくはなかったが、おとなしくされるがままになっていると、近づいてきた男にするりと喉を舐められる。
「〜っ」
「テメェがな」
「ふ、普通に言え普通に」
「シたいんだろ?」
「結局するのか」
「ああ。その面見てたら考えが変わった」

適当過ぎるとぼやいて、綱吉はXANXUSの髪の中に指を突っ込む。
引っ掻き回しながら引き寄せると、くつくつと笑われる。
「なんだ」
「ああ、その十一代目いわくテメェがな」
「俺が何だ」
「母親らしいぜ」

「……比喩か?」
「いや、生物学的に」
「俺が女ってことか」
「もともと女役だしな」
問題ねぇだろと笑われて、それもそうだなと綱吉も笑う。
「……怒らねーのか」
「別に。十一代目するならお前の顔の方が便利だろうし、パラレル世界の俺はなんて賢明な遺伝子選択をしたんだろう」

えらいな俺、と自画自賛をした綱吉の顔をとっくり見て、XANXUSは噴き出した。
「笑うところか」
「ぶあっはっは、違いねぇな」
「嵐や雨も違ったのか?」
「ああ」
「写真は撮ってあるだろうな」
「カス鮫がばっちりな」
「見せろ」

もちろん見せてやる、と言ってXANXUSは綱吉の喉に噛み付いた。
「んう」
「だが、先にマグロを喰ってからだ」
「骨までしゃぶってもいいぜ」
XANXUSを引き寄せていない方の手でゆるりと男の腰をなでると、赤い目は細まる。それで赤い色が消えるほどではないが。
「どこでこうなったんだテメェは」
「変えた張本人が言うな」
「違いねぇ」
くつくつと笑ったXANXUSが唇を無骨な指でなでてきたので、綱吉はぱくりと噛み付いた。

 




***

えーっと……



ここのザンツナはこんなんだったよ!みたいなね!!


原作を素直に解釈するとこんなツナ様になりました。
プリーモと化しています。
突っ込み気質は健在。