蹴り倒した相手の拳銃を確認する。
「おっけ、イイの発見」
「夜鷹さ……固定武器持ったら?」
呆れた家継に突っ込まれて肩をすくめた。正直メンドイ。
「いいじゃねーか。いつもは兄貴の使ってるし」
「よくないから突っ込んでるんだよな?」
自覚してくれよと溜息を吐かれたが、無視してカートリッジも軒並み掻っ攫った。
「いくか」
「……おうよ」
元気ねーな、と言われて家継は顔を引きつらせる。

「……別働隊は無事だろうな……?」
「無事なわけねーだろ、とっとと合流するぞ」
「デスヨネー」

溜息をついて、比較的良心的兼突っ込みの二名は、バケモノチームに投げ込まれた弟分を心配しつつ先ヘ進んだ。





<pistolero>






「篠突く雨」
敵を軒並みぶっ倒した悠斗が刀をしまうことなく、鋭い視線を左右に向ける。
「……こ……んの、クソ兄貴! 周囲を見てからやれ!」
怒鳴った陽一は、腕から出血している。
「どうしたんだ?」
「あんたのせいだよ!」
絶叫した陽一は立ち上がって悠斗に殴りかかった。
「あんたが! 周囲をちゃんと見ないで! 技なんて出すから!!」
「避けてくれよー」
「ムチャ言うんじゃねぇえ!!」
怒鳴りつけたが、悠斗はへらっと笑うだけだ。
陽一はそれ以上何か言うのを諦めた。
……この兄は大体において人の言うことを聞かない。

腕のかすり傷を軽く押さえる。まあまあ浅いから、出血死はないだろう。
「……で、なんで雪加兄さんはいないんだよ」
「雪加はワンマンだしなー。とっと先いっちまうんだよ」
「何でこんな……」
言い出した悠斗を恨む。
そもそもこうなったのは五人で班分けをするときに悠斗が「じゃあグッパで決めようぜー」とかホザいたのがアダになった。
最悪の班分けだ。実力的には問題ないけど。

協調性というものを持っている夜鷹と家継が一緒になって、協調性皆無な雪加と悠斗が一緒になった時点でなにかがアウトだ。
そしてそっちに突っ込まれた陽一の苦労は推して知るべし。

班が分かれて家継と夜鷹の姿が見えなくなった瞬間に雪加は身を翻し「失礼します」とホザいてとっとと消えた。
もともと雪加はフリーダムに気分屋で自由人だ。家継の言うこと以外は聞かない。
……家継の言うことも従うかどうか……。

「まあ、とりあえずこっちいくか」
「なんでそんなにアバウトなんだよ!!」
絶叫した陽一に悠斗はなんで? みたいな顔をする。
思わずぶん殴ろうと思った陽一だったが、そんな事はまったく意味がない。
避けるから。
「てか先に行くなよ!」
「早く来いよー」
「……お前絶対ろくな死に方しねぇよ!!」

罵って陽一は悠斗の後を追いかけた。





ルート的には証拠品の押収を悠斗と陽一、ボスの確保を家継と夜鷹がやることになっている。
つまり陽一たちが地下へ、家継たちが上階へと向かう。
煙となんとかは高いところだろうという大雑把な見当だ。
……とはいえ、見当つけたのは家継だ。その直感はたぶん当たっている。

「……っつーかやることねえ……」
遥か先を行く悠斗が軒並みなぎ倒していくので、陽一は何もすることがない。
軽く欝りながらうっかり残したのがないかだけ確認しつつ進んでいく……いやいないんだろうけどな!

「おお、あったぞー」
のんきな声をあげた悠斗の所へ行くと、ぽっかり開いた扉が床に……いや扉は丸くないし床に開いているわけも……
「……斬ったな?」
「さ、いくぞー」
大人しく扉を探せばいいものの、床に穴を開けらしい。
間違っていたらどうするんだ? 下に大事なものがあったらどうするんだ。

さまざまなツッコミを入れたかったが、全て無駄だとわかっていたので陽一は飲み込んだ。
「こうすれば早いのなー」
「違うわぁああああ!!」
やっぱり突っ込んだ。










配管が剥き出しに這い回っている地下一階には、ごっそりブツが置いてあった。
うち一袋を開けて、悠斗は腰に結わえてあった袋の中に粉を入れる。
「何で物証がいるのかなー。まとめてぶっ飛ばせばいいのになー」
「……」
呆れ果てた陽一は声も出ない。
今日の幹部会議に招かれて説明を受けていたはずではなかったのか? このクソ兄貴は?

日頃意気揚々と「俺はツグの右腕なのなー」とか言ってる割にやってることは雑、大抵の人のアドバイスは馬耳東風、使える言語も日本語とイタリア語だけ、ボンゴレの本拠地がある場所を詳しく理解しているとすら思えない。
ぶっちゃけ能力的には最年少の葵以下。やる気のない年長組以下だ。
……それでも人のカテゴリから大きく外れているわけだが。


物証無しにドン・ボンゴレ何者をも断罪しない。
大きな力を持っているだけに公明になるように心がける。そんなこともわかってないのか。

「よし、んじゃ持ってろ」
「俺がぁ?」
眉を寄せると、ヤか? といわれる。
不満だったが不満と言うとめんどくさそうだったのでやめた。
「さて、行くか」
「行くって……」
陽一たちの仕事は証拠品の押収だ。
コレを抑えた以上、仕事は終わっている。
早急に家継達と合流するのが最優先のはず。

笑って悠斗は抜刀する。
「俺一人で余裕だから、お前はそこにいていいからなー」
「ば、馬鹿にするな! 俺だって」
腰にさしていた鞭を手にする。
かるく手を振って鞭の先まで神経を行き渡らせた。

「ちょ、ちょっと待てって!」
とうに姿が見えない兄を慌てて追う。
もれなく暗いので足元を取られそうになって舌打ちしつつ前に進んだ。
だがしばらく走るまでもなく、ガタバシドンという音が聞こえてくる。

角を曲がった先に明かりがついている。
駆け込んだ先は――つまるところ華麗に悠斗の独壇場だった。


広間と言っていいほど広いところだったが、所詮密室。
そして障害物がない。
ついでに水道管をぶちぬいて床は水浸しだった。
……独壇場過ぎる。

「陽一!」
悠斗に名前を呼ばれて陽一は鞭を頭上へと向ける。
パイプの一つに鞭を絡めて、体を空に浮かすとそのままこちらへ向かってきた一人に飛び膝蹴りを食らわし、方向転換してもう一人を蹴りで打ち抜く。
しゅると鞭をパイプから離して水の溜まった床の上に降り立つと、そのまま鞭を振り回して三人の銃を床に落とす。
「ってか何でココにこんなに居るんだよ!!」
叫んだが答えは返ってこない。
刀を握った悠斗は基本一対なら無敵だ。
敵もそれがわかったのか一直線に陽一へ向かってくる。

「くっそ」
鞭を再びパイプに巻きつけて上空に飛び上がった。
悠斗と並んで戦うのは論外、となればここから離れる方が先決だ。
これだけの数を相手取れるほと陽一は強くはない、そんなこと承知している。
ゆえに一度離脱を図った。

ここにこれだけいるということは、上にはほとんどいないはずだ。
すぐに家継と夜鷹は駆けつけるだろう。
雪加は……知らないが。

「チッ」
銃を抜かれる。舌打ちをした。
確かに密集状態では撃てないが空に一人上がった陽一はいい的だ。
このまますぐに降りれば――ギリギリ……なんとか。
「陽一!」
下から声が聞こえる。
バァンと耳に響く銃声。



その射線には、大きな背中が挟まっていた。
赤い花が、目の前で散る。



「悠斗!!」

遠くから、声が聞こえる。
目を丸くしたまま、陽一は着水した。

一拍遅れて、悠斗の体が落ちてくる。
このまま背中から落ちたら背骨を――

目の前をオレンジの炎が掠める。
落ちてきた悠斗を抱きしめて、家継は赤の目でその場を見下ろした。
その場のすべてを制する輝きがあったけれども、そもそも人が空を飛ぶという非常事態に敵が唖然としている。
「い、家継」
立ち上がれない陽一の前に家継は悠斗を支えたまま降り立ち。
そして静かに命じた。

「夜鷹、任せた。容赦するな」
「了解ですよ、ボス」
前に出た夜鷹の手には銃はない。
そこには三叉が握られていて、長いそれを悠然と振りかざす。
「さて、楽しませていただきましょう」
ゆったりと笑ったのが背後からでもわかる。
……最初から全開だ。

微笑みながら前に進む夜鷹に全員が気圧されてじりじりと背後に逃げる。
背後は壁、正面は夜鷹。
まさに行き詰まり――と思った瞬間、その壁の一部がすうっと開いた。
隠し扉だ。
やばい、逃げられる――と思ったが、その扉から人影が出てきて、容赦のない絶望を与えた。

「皆さん、残念なお知らせがあります」
そこから現れ、二丁銃をきっちり構えて、雪加は笑った。
「敗走ルートは全て押さえさせていただきました。厳密に言うと一本も残さずツブしてきました♪」
楽しげに言うと、銃口を構える。

「つまり僕を突破しても逃げられないというコトですね」
その言葉に敵は動揺する。
だが挟み撃ちされたとはいえ、人数で圧倒的に有利。まだ士気は落ちきっていない。
そんな中、雪加がくすりと笑った。

「おやおや、状況を理解されていないようですね」
「教えてあげたらどうですか」
兄弟揃って父親そっくりの口調になるのはいささか怖いが、敵の動揺は広がっていく。
そのざわめきがピークに達する頃、おもむろに雪加が口を開いた。
「クフフ、クハハハハ。愚かな生贄たち。精々元気に咬み殺されてくださいね?」
開けた瞳は狂気が渦巻き、雪加は舌なめずりをする。
綺麗過ぎるがゆえに凶悪ともいえるその顔に、彼らはざわめく。
そしてその背中を囲んでいる夜鷹も、口を開いた。
「さて、どなたから堕ちていただけますか?」
そういうと同時に、部屋が一斉に青空と草原へと変化した。

彼らはどよめき、そして一人が震える声を絞り出す。
「ま、まさか――」
「ろ、六道兄弟――!!」
その言葉に、雪加も夜鷹もにっこりと笑う。
「正解です。では君から咬み殺してあげましょう」
そういった瞬間――雪加は超人的な速度で三発打ち込んだ。
正確無比な攻撃は、男の頭を打ち抜き脳漿をばら撒く。三回も。

「ひっ――ひゃああああああ!!」
誰かが悲鳴を上げる。
そうなればもう、早かった。
敵は散り散りになる。多くは夜鷹の幻影にからめとられ、何人もが雪加の銃弾に倒れた。
大体この密集空間で銃をぶっ放す雪加はまったくもって非常識だ。
だが跳弾すら見切って発射しているのか、一応ファミリーを傷つけたことはない。

二人はあっという間に大方を倒してしまった。
まだ立っていられるのは十名ほど。
しかし雪加と夜鷹はそれ以上包囲網意を狭めることをせず、動作をとめる。


「主犯者は貴様だな? シニョール・カルムィコフ」
家継が悠斗から手を離して前に出た。
いつもより声が低い。
「ドン・クニャジェフの側近」
残り十名ほどの中央にいた、趣味のいいスーツを着た壮年の男は苦々しい顔で近づいてくる家継を見た。
「伝統あるロシアンマフィアに泥を塗ったな。よりによってボンゴレのシマで新種の麻薬販売なんてしてくれやがって」

一歩家継が近づくたびに、彼らは怯える。
何せ彼の面構えだけはあの泣く子も黙る父親にそっくりだ。
「ドン・ボンゴレからの仰せだ」
家継は片手を上げて合図をすると、雪加が真っ直ぐに銃を構える。
「殲滅させろとな」
「く……くっくっく」
カルムィコフは小さく笑い、次の瞬間拳銃を取り出した。
彼の配下もそれに従う。
「フザけているのは貴様らだぁ、ボンゴレェえ!!」

絶叫と共に、十の拳銃が火を噴く。
そのすべては家継へと向かい――そして彼の手の中に生まれた炎の盾で阻まれた。
「貫通させたくばミサイルでももってこい」
すべての弾を消し去り、家継は不敵に笑う。
「あ……あ、あ」
カルムィコフは情けない悲鳴を上げるしかない。
なおも近づいてくる家継に、部下を含め全員が尻餅をついた。

「……情けないな」
溜息を吐いた家継は、その赤い視線を陽一へと向けた。
「陽一」
「あ、ああ……」
「ふんじばっておけ」
「お、おう」
慌てて足を動かす。
ぴちゃぴちゃと跳ねる水の中近づくと、カルムィコフのぎらぎらとする目が背を向けた家継へ向けられていて。


「いえつ」

深く考えず、陽一は前に出る。
驚いたような顔をする家継を押した。
「陽一!」
誰の声かわからない声が上がり。


二発の銃声が陽一の耳を貫いた。











顔から真っ直ぐに水に飛び込む。
全身がぐっしょりと濡れて、頬に生ぬるいものが飛び散った。
撃たれたと思ったが痛みはない。
……そんなものかもしれない。

「陽一! 大丈夫か!」
誰かにぐいっと体を抱き上げられる。意識がうっかり沈み込みそうだった。
「雪加、夜鷹、殺すな!」
耳元で大きい声がする。エコーがかかったようにぼやけていたが、これは絶対家継だ。
家継しかこんな事は言わない。
「悠斗! お前もだ! 手ぇ出すな!」

ああほら、やっぱり家継だ。
少し笑おうとした瞬間、左肩に激痛が走った。
「……っ、くぅ」
焼けるような痛みに、思わず唇を噛み切る。
「っあ……ぁ」
「陽一、陽一、しっかりしろ」
急激に体が冷えていく。寒い。
水を被ったからだろうか。

「陽一、陽一!」
違う声に名前を呼ばれる。視線を向けたけれどかすんで見えない。
「……ゆ、う?」
なんとなく兄の名前を呼んでみると、右の手を掴まれた。
「陽一!」
「ん……」

問題ないと言いたい。
大丈夫。そう言わないと。
なのに口が動かなくて。

すぐにそんな事も考えられなくなった。




















寝てたっけ? と思った次の瞬間に激痛が走って思わず呻きながら目を開ける羽目になった。
白い天井。たぶん昼。
それは何とかわかったものの、後は痛みでどうにもならない。
「陽ちゃん!?」
声が聞こえる。姉の声だ。
「陽菜」
荒れ狂う激痛をねじ伏せて、目を開けて陽菜を見上げる。
心配させるわけにはいかないから、なるべく呼吸を整えた。
「俺、どうした……?」
「陽ちゃんのバカバカバカ! 撃たれたんだからね! あとちょっとで死んでたんだからね!」
ぽかすかと感覚のない体を殴られて、陽一は少し笑う。
「大丈夫。なんともないって」
「嘘。陽ちゃん二日間寝てたんだよ」
「……うっそ」
それは思わず声が出る。出た瞬間に堪えていた痛みが襲ってきて小さく呻いた。
「陽ちゃん痛いの!?」
「いや……大丈夫」

うかつな自分を呪った。
改めて深呼吸。
「ほんと大丈夫。陽菜、あんま寝てないだろ?」
「…………」
罰が悪そうに視線を逸らした陽菜に笑いかける。
「寝てきなよ。俺はもう平気」
「でも……」
「寝てこい、陽菜」
よく知っている声が聞こえて、陽一は視線をずらした。
パンツスーツに腰を当てて、母親が溜息を吐いている。
「ほら」
「……はい」
素直にしたがって陽菜は病室を出て行く。
入れ替わりに母親が彼女の座っていたところに座った。
「頑張ったな」
「な、に」
唐突に言われて、頭を撫でられる。

なでるのをやめてから、母はなんだという顔で言った。
「家継をお守りしたんだろ?」
「いや、俺は――」
そんなつもりはなった、たぶん。
でもなんか体が出たのだ。仕方なしに。

母は小さく笑って、むちゃすんな、とだけ言った。
その横顔が疲れていて、心配をかけたのだとわかる。
「そういえばお袋……兄貴は?」
記憶をさらって尋ねた。
兄はたぶん負傷している。あの後どうなったか覚えていないけど。
「……悠斗は」

途端に顔が曇り、陽一は焦った。
「ま、まさか……」
「いや、生きてはいるが」
「……そ、そう」
遠まわしな言い方に逆に気になる。
思わず固唾を呑んで母を見ると、大丈夫だとしか言わない。

「お袋」
少し語気を強めると、溜息をつかれた。
「……ICUだ」
「え」
緊急治療室。そんなところに二日以上入らなくてはいけないほど重症だったのか。
「意識は戻ったり戻らなかったりだな。腹に喰らってたんだが、その後平然と動き回りやがってな。命が危なくなったのは感染症のせいだ」
「そ、そんなにヤバいのかよ!」
大きな声を出すな、とたしなめられる。
慌てて口をつぐむと、憔悴した顔で首を横に振った。
「母さん達も気がつかなかった。あのバカ、完全に気力と根性だけで動きやがって。お前を運ぶっていって聞かないから、夜鷹が眠らせて引っ掴んできたんだ」
「……兄貴、が」

母は溜息をついて、顔を手で覆った。
「ほんと、兄弟揃って心配させんなよ……寿命縮まったぜ」
「……」
なんて言えばいいかわからなくて、陽一は言葉を見つけようとしたけれど見つからない。
ごめんなさい、でいいのだろうか。
もうしませんとは、言えないけれど。

「兄貴……は」
思い出す。鮮明に。
「俺、かばって……撃たれて」
「らしいな。家継から聞いた」
「ごめ、んな、さ」
呟くと涙が浮かんだ。
いい年になって、泣くべきじゃないだろうに。

「お前のせいってわけじゃないさ。鉛玉喰らったのは悠斗の不注意だ」
さらりと言われて、涙が落ちる。
「かあ、さん。俺……兄貴に」
絶対ろくな死に方しないとか言ってしまった。
まさかこんな。そんなこと思ってなかったのに。
「お前のせいなわけないだろ」
よしよしと小さい頃のように頭を撫でられる。
どうせここには母しかいない。
だけど泣くわけにもいかなくて、陽一は布団を頭からかぶってそのまま耐えた。








***
まあそんな話でした。
書き足りないところもありますがまあ。

ところでタイトルは「ガンスリンガー」みたいな意味なんですが。
ドコガ。
普通にタイトル無意味やん。








結局。
山本悠斗はこんこんと眠り続け、ぱっちりと目を覚ましたのは陽一が歩けるようになりすでに腕のリハビリも始めた頃、つまり色々あってから五日後だった。
「おおーよく寝たのなー」
そう言って目を覚ました(夜鷹談)悠斗は、五日間高熱にうなされ続けたことなど綺麗さっぱり忘れていた。
その間の記憶は何もないらしい。
ついでに苦しかった記憶もないので、天を仰いだ母が何を呟いたかはなんとなくわかった。

「おー、陽一。大丈夫か?」
「だっ……」
そこで、陽一の抱えてたいろんな物が爆発した。
「大丈夫じゃないのはお前だろうが、この脳みそ筋肉剣道バカッ!!」
「……おにーちゃん、陽菜も今回は同意見だわ」
冷めた目で双子に見下ろされて、あれ? と悠斗は首をかしげる。
「ところでお袋ー」
「なんだ」
「何時に退院できる?」
はあ、と母と姉が溜息をつき、陽一はもう一度大声で突っ込んだ。

「もう一週間は絶対安静だよ!!」

ええーと不服そうな声をあげたのは悠斗だけで、残りの三人は頭痛を堪えるような顔をして一家の長男を見下ろしていた。







***
なお山本さんは。

山本「……なあ、つな、なんで俺が書類なんだ?」
つな「はやとが二人についてるから」
山本「俺も行っちゃダメ?」
つな「いくら日本に出張中で飲んでいたとはいえ、第一声が「んじゃ明日までにそっちつくのなー」とか言った奴に行く権利はない(冷めた目」
山本「だってお前、撃たれたってしか言ってねーじゃん! フツーそしたら腕とか足とか思うだろ! 何で二人揃って胴体でしかも悠斗にいたっては敗血症とかしらねーよ!」
つな「撃たれたって聞いてそっちしか連想しないお前がだめなんだよ」
山本「……まさかあの面子でんなことになるって思わねーし……」
つな「……まあ、それは俺も予想外だったけどね?」
山本「……な?」
つな「…………まあ、確かに。わかった、行ってよし」