眠いはずだったのに、そこまで眠くなくなった。
舌打ちしたくなったが、しつけが厳しかったおかげで思いとどまる。
かわりに身体を起こして……固まった。
「どこじゃここわぁああああああ!?」
<コラボレーション〜家継の場合>
天井は白。カーテンは濃赤。
シーツは白、ベッドカバーは赤。
というか天蓋付きベッド。さらさらとシルクなのかなにかが垂れ下がる。
「ななななな、なんだこの超絶いかがわしい部屋は!?」
絶叫はもっともだった。
ついでにカーペットも赤だ。やめてくれ。
「誰の趣味だよ……」
ぼやいて自分が何でここにいるかはどうでもよくなってしまったらしい。
自分の部屋にいたはずなのになぁとかぼんやり思いつつ、足をベッドから下ろした。
「……つっても、こんな趣味の人間はあまり思いつかないな……」
そもそもここ誰の家だろう? とか思いながらドアノブに手をかけた。
着てたのは普通に自分の服だったので(帰ってそのままベッドにダイブしたため)武器もちゃんと携帯していることを確かめて外に出る。
「……???」
廊下にも見覚えはない。
ドッキリか? と思ったがベッドに倒れこんでから意識を戻すまで大して時間がかかったとも思わない。
瞬間移動? とか非現実的なことを考える程度にはパニックだった。
予測不能の事態には強いはずなのだが……
ぺたぺた歩いてリビング(推定)へと向かう。
扉を開けた先にはちゃんとリビング?とダイニング?があって、ダイニング側においてあるテーブルと椅子には。
「……あれ?」
「おきた?」
ひょこっと顔を上げたのは小柄な人物だった。
ふわふわとした茶色の髪に、大きく開いた目。
華奢な白い手足に、しっとりと柔らかい声。
「……あれ?」
顔を上げてその人物も固まる。
しばらく二人でフリーズして互いを見詰め合った。
先に沈黙を破ったのは相手の方だ。
「ええと、XANXUS……じゃないんだよね」
どなた? と首をもう一度かしげるその人に違和感を感じ、こちらも眉をしかめる。
「……ええと、沢田つなさん?」
「うん」
「……綱吉ではなく?」
いつぞやの悪夢が蘇り、ためしに聞いてみる。
「うん。オレは綱吉」
肯定した後、じっとお互いを見つめあった。
綱吉は記憶にあるつなとそっくりである。瓜二つと言ってもいい。
やはりこの人は男でも女でも大差ないのだろう。さすがだ。
「ふふっ……あははははは!」
突然に笑い出した綱吉は、何が面白いのかひっくり返って腹を抱えて笑っている。
その無邪気な様子にこちらもつい頬が緩む。
「ええと、なんて呼べばいい?」
「……ツグで」
「ツグ? 変わった名前だね。ヒバリさんみたい」
ふっと口から出た言葉に、ああやっぱりいるんだとか本気で思った。
ついでに会いたくはない。
「鳥じゃないほうだけど」
「……ふふ、話してると全然XANXUSに見えないや」
ふわふわと笑って、綱吉は彼をソファーの方へと誘導する。
ちょっと待ってて、と言いつけてぱたぱたとキッチンへと走っていった。
「……さて」
ボンゴレ十一代目候補の家継・ラファエーレは天井を仰いで溜息をついた。
綱吉の胸元からはボンゴレリングが下がっていた。
それはいい。何でか入れ替わった先が父のザンザスだということには一言言いたかったが、こういうのは見た目らしい。
別に父が嫌いなわけではないが。……そうか、ドン・ボンゴレつながりじゃないんだな。
「クッキーしかないけど、ごめんね。コーヒーで大丈夫?」
「あ、はあ……」
「XANXUSの作ってくれたクッキーだから美味しいよ」
「……はあ」
父、そういえば稀に料理してたな。
遠慮するのも悪いので、クッキーをぱりと食べる。……美味い。
どんだけマルチなんだと胸中でぶつくさ言っていたら、ソファーにちょこんと座った綱吉が嬉しそうにそれを見ていた。
「何?」
気を抜くと「母さん」と言ってしまいそうなのを必死に堪える。
綱吉はたぶん断言しにくいが男性だ。
「ううん、なんか、嬉しくて」
「何で?」
「XANXUSの弟みたいで。あ、でも違うんだよね」
「説明しにくいけど、入れ替わったみたいで」
「へえ、そうなんだ」
あっさり納得されて、拍子抜けする。
けれどこの人はそういう人なのだろう。すべてを包み込む抱擁の大空。
「入れ替わっちゃったのかあ……じゃあちょっと困るかも」
「どうしたんで?」
「ジョットが来るって言ってたから。セコーンドは時間に正確だし……」
ホントのこと話すしかないよね、と一人合点した綱吉の横で家継は固まっていた。
ジョット? セコーンド?
あの、綱吉サン。それは聞き間違いですか? というかそんな恐れ多い名前つけていいんですか?
っつーかここはあの時のように「俺達が知らない別の世界」じゃないんですか!? だってあの二名はとっくに。
「やぁXANXUS、今日こそ死んでいるか!」
けたたましい笑い声と同時にそんなことを言われ、現れた小柄な金髪の人物には家継も見覚えがあった。
プリーモ。
ボンゴレの初代。
最初の大空。
リングの中で、試練の時に。
「あ、ジョット。XANXUSはいないんだ」
「そこの黒髪は誰だと言うのだ」
「ツグ」
「どうしたジョット」
乗り込んできたもう一人に卒倒しそうになった。
あああああああああ神様仏様プリーモ様は目の前だ!
しっかりしろ俺! とカツを入れて何とか表情を、取り繕えないが、幽霊を見るような目だけは自重した。
「何だ貴様、幽霊を見るような目で」
あっさり看破!
「ほう、本当にXANXUSではないらしい。じゃあ貴様はなんだ? 隠し子か?」
「……プ、プリーモ」
「俺の話をしたのかツナ。可愛いやつめ」
「え、オレなにもいってな」
にたりと笑ってプリーモは綱吉へ手を伸ばしてわしわしと髪を乱す。
そんなじゃれあい?二名の横をすり抜けて、セコーンドが歩いてきた。
……ええ、お父さん、あなたはよく似ています。
二名が結婚して子供まで生まれた今はどうでもいいだろうが、ザンザスはやはりセコーンドの子孫だろう。そうとしか思えん。
「ツグと言ったか……どうしてここに」
「……ザンザスさんと入れ替わりに」
声まで似てます。
「入れ替わり? どこのどういう奴だ」
「………………正直に話して信じていただける自信が……」
「話せ」
綱吉から手を離したプリーモがきらめく笑顔でそう言ったので、家継は両手を上げて降参することにした。
肝心の「ちなみに綱吉さんは女性です」という部分と「俺らマフィアっす」という所をごまかし(直感が言うなと叫んだ)つまるところ「俺はザンザスの親戚です」と主張し終えて顔を上げると、剣呑な顔の初代がいた。
「……貴様に問おう。今更ここに?」
「ですから入れ替わって」
「戯言を。それならば未来のXANXUSの息子とでも主張したほうが耳どおりはいいぞ?」
さすがプリーモ様、そのとおりです、ちょっと世界違うけど。
そうとは言えなかったが、プリーモの隣にいた綱吉が不安そうな顔でプリーモの服を引っ張る。
「ジョット、それは冗談だよね?」
「さあな。そこそこ真実のようだが」
「う……うそだよね、ツグ! 違うよね」
すがるような綱吉の表情は家継が知らないものだ。
童顔小柄というコンボのおかげで年はよくわからないが、イタリア基準でいえばせいぜい11,2。日本でも13,4というところだとは思う。
確実に家継よりは幼いはずだから、あの大胆不敵な母親も昔はこんなんだったのだなあと思えば納得はできた。
しかしここで嘘をつくのはいい作戦ではない。
家継の知る限りボンゴレの系列は超直感持ちなのだ。
「……その、それは」
「うそ……うそ! ざ、XANXUSに女の人なんかいないもん!」
「………………」
いやいますよあなたとか。
そんな突っ込みをかましたくなったが(母の血だ)、持ち前の自制心(は自力で積み上げた)で思いとどまる。
「お、俺にちゃんと言ってくれたもん、彼女いないって。昔はいたけど今は俺だけだって。ずっと一緒にいるって言ってくれたもん!!」
目に涙を浮かべる綱吉の表情に、ぶっちゃけこっちは息子だけど可愛いと思った。
いや、あの人はだいたい可愛いかかっこいいかするとは思う。これは客観的意見で。
それにしても、と持ち前の(母譲り)居直りの早さと適応力で家継は考え込む。
先ほどの綱吉のセリフを聞くまで気がつかなかったのだが、というか自分の知るつなと同じだったのでうっかり見逃していたのだが。
その手に光るのは結婚指輪ですね?
あれ? あなた男ですよね?
もしかしてマサカのこちらのザンザスがおん……ななわけねぇよ落ち着け俺。
「ツナ、ツナ、客が困っているぞ」
「う、うそだ、XANXUSは、XANXUSはうそなんてつかない」
「……あのー、事態がややこしくなる前に言っておきますが」
げんなりした顔で家継はフォローしてあげることにした。
ここにはいない父さんよ、目の前にいる母さんはマジで幾つですか?
「俺の父親はザンザスで、母親はあなたですよ」
「………………うそ」
うんまあ、その反応は理解できるが。
「じゃあ、俺、XANXUSとの子供持てるの?」
「…………それは、どうでしょう。俺、たぶんこの世界の人じゃないんで……」
「XANXUSとの、息子、かあ」
へなりと綱吉の顔が緩み、落ちてきた涙を自分でくしくしと拭く。
それから顔を上げて笑った。それはもう、綺麗に。
「ツグ、ツグ」
名前を呼びながら嬉しそうによってくる。
手を伸ばして座っている家継のほおに触れて、髪をくしゃくしゃ混ぜた。
「えへへ、ツグ。いいね、お父さんにそっくりだよ」
「……」
撫でてくる手のひらは実際母親と同じぐらいの大きさだ。
少しだけかさついているのは男だからだろうか。
「ねえ、ツグ。フルネームではなんていうの?」
至近距離で覗き込まれて、家継は手放しに降参する。
「家継」
「家継、ね。家継家継。うん、いい名前」
つけたのはあなたですけどね、と内心返しておく。
そこまで言われたら全部名乗っておこうと開き直った。
「サワダ=ラファエーレ=家継」
「沢田ラファエーレ家継? すごいね、カッコい名前だね」
「……あいつらしい名前だな」
ボソリ突っ込んだプリーモの声に、家継は現実へと引き戻された。
そうだった。
ここにいるのは可愛らしい若かりしころの母親(男Ver.)だけではなく、初代様と二代目様もいらっしゃるんだった。
どうしようコレ。
「……ええと、それで俺は……」
どうしましょうと言おうとしたら、笑顔のプリーモに胸倉引っ掴まれる。
「良く考えると不愉快だ」
「何がですか!?」
「俺の結論を言おう。死ね」
爽やかな笑顔で断言されて、きっとこちらのザンザスはさぞかしプリーモに嫌われていたんだろうなあとか頭の片隅で真面目に考える。
実際、これは日常茶飯時なのだが。
「考えていることがいまひとつ読めぬのもむかつく」
「なんて勝手な理屈だ!?」
思わず突っ込んでしまった。
しまった、と思うまもなくプリーモによって床にたたきつけられる。
あれ、コレヤバいんじゃね? とか思った瞬間、目の前に火花が散って。
ブラックアウト。
「……………………ブラボー」
ぱちくりと目を開けると、覗き込んでいる顔は母親のものだった。
うっすらと残っている口紅が彼女の性別を確かなものにしている。
「い、家継……だよね?」
恐る恐る尋ねられ、身体を起こして首肯した。
「どうしたの、母さん」
「家継だ……家継だ〜〜!」
思いっきり正面から抱きつかれ、もう一度床にゴーバックする。
家継ーと泣く母に事態が把握できなくて、首をかしげた。
「母さん……どうしたの」
「さ、さっきまで家継がザンザスで、ザンザスがザンザスじゃなくて……」
「……………………なるほど」
家継があちらへ行っていた間、あちらのザンザスがこちらに来ていたのだろう。
……でも何も父さんと違わない気がするのだが。何が違うんだ?
「父さんとは違ったの?」
「ざ、ザンザスはあんなこと言わないもん! それに俺を子ども扱いもしないよ!」
「…………(なに言ったんだあっちの父さん?)」
疑問を抱いたまま事件は終わった。
***
本来は同一人物というくくりだったのですが、ザンザスと家継はそっくりだからネ。
スーツ着てエクステつけて目ぇ閉じて黙っていれば見分けはなかなかつかないと思います>年齢以外