<次世代の優劣>
手首を返して鮮やかに銃を撃つ。
その姿を見ながら、家継は溜息をついた。
「反則だよなあ……」
「何が?」
「お前には分かってたまるか」
毒づいた幼馴染を不思議そうな顔でみて、悠斗は刀を納める。
父親から渡されたそれは、父が幼い頃に使っていたものらしい。
使用しないときはバットになる仕様で、どんだけ野球バカなんだあのクソオヤジ、と悠斗が呟いたのを真横で聞いたことがある。
山本は狂がつく野球好きだが、息子の悠斗はまったくこれっぽちも好きではない。
まあキャッチボールで腕の骨折+肩の脱臼を経験させられれば誰だってそうなるだろうけど。
とりあえず野球は嫌いらしいが、剣術の方は好きだった悠斗はすでに剣術においてはボンゴレ内部に敵は二人しかいない。
一人はもちろん父親、もう一人は剣帝のスクアーロ。
他は剣だったら敵にもならんという彼はまだ十四とかその辺だったはず、たしか。
家継はむろん、そんな彼を頼りにしている。
大雑把で時には大雑把すぎるほどばっさりざっくりとしたところや、天然過ぎてアホにしか思えないところも付き合っていて居心地がいいから好きだ。
だけれども、日常生活はなぁーんも考えていない彼が戦闘になると目の色を変えて。
そして家継はとても追いつけないような速度で強くなるのを見ていると、感じてしまう。
才能ってあるんだなーと。
それだからこその先ほどの台詞だ。
家継が夜鷹を見ながら感じていたのはそれなのだから。
子供たちの中で実力筆頭は文句なしに雪加だろう。
それに悠斗・家継が続き、僅差で夜鷹だろうか。
葵は未知数で陽菜は後援支持専門でみつばはあれだから置いておくにして。
位置づけでいけば家継はNo2か3だ。
けれども悠斗は気が向いた時に剣術に打ち込むだけで日ごろの訓練はろくすっぽしやがらない。
妹の陽菜の十分の一……と言うと陽菜がかわいそうだが、実際その程度だ。
ついでに成績だってまったくよろしくないが、一度はやとに叱咤されたら学年トップをとってきた、アホだろうと心底呆れた。
悠斗がNo2に甘んじているのは多分やらないからだし、家継に合わせてくれている可能性もけっこうある。
家継は残念ながら努力型で、やっただけ成果はでるがやらんとでないタチなのだ。
「夜鷹はすげーよなぁー」
「あらゆる意味で、な」
「? どうした?」
「……ほっとけい、俺ぁブルーなんだよ」
先日、家継の守護者候補のリストが渡された。
その中に悠斗も夜鷹も入っていた。
知らないところでこっそり実力査定がされていたのか、添えつけの資料には「第三者から見た戦闘力分析」なんてステキな物も乗っていた。
いつ自分たちがガチで戦闘したか曖昧だが、多分日頃の訓練とかでもチェックを受けてたんだろう。
家継からみて、自分や悠斗の評価が妥当だったので、そこそこ信用できる内容らしい。
――ただ。
夜鷹は幻術使いではなく、銃+補助道具の使い手として査定を受けていたのだ。
その結果、彼は「第三者」から「守護者に相応しい実力を持つ」と判断されていた。
夜鷹の最も得意なのは幻術だ。
もっと言えば彼の使う銃は雪加のもので、雪加専用にカスタマイズされたものだ。
雪加は夜鷹以外には銃を貸さないし、自分で掃除からなにまでしている。
つまり夜鷹は本来のフィールドで、自分の実際の力を出し切らないままでも――守護者ランクに認定される実力だと評価されているのだ。
……これを才能と言わずなんていうのか。
自分が最も向いているスタイルで日々精進している人達はどうなるのか。
努力なんて鼻で笑うような、夜鷹や悠斗ってどうなんだろう。
自身は努力の人であるだけに、家継は時たまそう思うのだ。
「家継、どーした? お前はもういいのか」
銃をしまいながらやってきた夜鷹に、家継は苦笑した。
「相変わらずすごいなーと。それ、雪加の銃だろ」
「? ああ」
「自分のは持たないのか?」
「……色々面倒だし。リボーンに訓練とかつけられるの嫌だし」
俺のはやっつけだからいいんだよという、やっつけでその実力はないと思う。
「いいよなー……夜鷹や悠斗は」
思わず呟いて、夜鷹に眉を上げさせた。
「なんでだ」
「才能あるから」
「……俺に才能はないが」
「あるだろ。なんで本来の武器で戦ってないのに俺とトントンの実力って評価なんだ」
「才能だろ」
「さっき否定しただろ!?」
そうだったっけか、と肩をすくめて夜鷹はひょいと家継の隣に腰掛けた。
「俺は自分に才能があるなんて思わねーけどな」
「なんで」
「……おい、真面目に考えろ。俺の親がああで兄がああだぞ。俺はもっとも凡庸だ、どう見ても」
「……………………ソウデスネ」
六道家は型破りな人ばっかりだった。
自分のところはどうなのかという突っ込みは涼しく無視しておく。
家族全員死ぬ気の炎が出せるというのは悲しい現実だが。
「ま、悠斗の強さはデタラメだな。武さんもそうだったらしーけどさ。あの人、剣術始めたの十四からなんだろ?」
「初めて十日でスクアーロさん倒したらしい」
「……ほんと人間じゃねーなあの人」
溜息をついてから、夜鷹は立ち上がる。
どうしたのだろうと顔を上げてみるまでもなく、超直感が教えてくれた。
「がんばれよ家継」
「ちょっ、待!」
「家継、無駄なこと考えるなんて余裕あるね、咬み殺すよ」
「ギャー!!」
トンファーを構えた恭弥が今日の指導員だったらしい。
すっかり忘れていた事実を目の当たりにした家継は、悲鳴をあげて夜鷹の後ろに隠れる。
が。
「ムリ。俺の銃兄貴にかえさねーと」
「はい!?」
ぺぺいと首根っこつかまれて前に投げ出された。
「実力なんて戦えば身につくんだよ、家継♪」
そして、いつのまにやら真後ろにいた雪加は二丁銃を構えて微笑んだ。
「イ゛ヤー!!!!」
背後から聞こえてくる家継の大悲鳴に、すでに避難を終えていた悠斗と訓練所を後にしつつ、一応黙祷を捧げるふりだけはしておいてあげた。
***
悩む暇あったら特訓して特訓して特訓して強くなれ BYつな