<次世代の悩み>
「悠斗君や」
げんなりした顔で、幼馴染を呼び出した家継は座るように自分の前の椅子を指す。
へいへーいと軽いノリで座った悠斗に、苦い顔で言った。
「お前、今何股かけてるよ?」
「へ? 俺浮気とかしてねーよ」
そうじゃない、と家継ががっくと頭を落とす。
「付き合っている人何人!?」
「たくさん」
悠斗、と家継が顔を少しだけ険しくする。
基本的に父親似の顔の家継だけれど、中身は90%ぐらい母親なのでいつも表情はどことなく気が抜けているようなほんわかとした表情をしている。
さらに父親の場合は吊り上っている眼尻が母親の影響を受けて少し下がっているので、整った顔した好青年とでも言おうか。
背は同い年の悠斗より低くて、まあ両親を見やるにこれから伸びて追い越されそうな気配もするけれど。
とりあえず悠斗からしてみれば家継は険しい顔よりいつもの顔の方がよかった。
「そんな顔するなよなー、いーえつっぐ」
「させてるのはお前だ。たまにはまじめに俺の説教をきけ」
「俺は家継の笑った顔のほーがすきなのなー」
「ゆ、う、とッ!!」
キッと眦を釣り上げた家継はそりゃあもう乱暴に悠斗の襟首をつかんで持ち上げる。
ついでに揺さぶった。
マフィア界広しといえども悠斗相手にこれができる人間は数少ないだろう。
「お前が! 泣かせた女たちの直訴が! 俺に来てるんだよ!」
「はぁ?」
悠斗がすうと目を細める。
「誰それ」
「や、だからたくさ「覚えてるだけ言えよ」
言葉を遮って、悠斗は逆に家継の襟首に手をかける。
「なんだよそれ。女どもが言ったのかよ、お前に」
「ま、まあそうなる・・・かな」
「誰だよ。ウルスラか? ダニエラか? デリア?」
「ん、んなことわかるか。そ、それに女だけじゃないぞ、お前下級生の男子にも手ぇ出しただろ!」
「・・・・・・ベニート? それともピエトロ?」
だんだん険しくなっていく悠斗に、家継は続けた。
「あと、上級生」
「・・・・・・グレゴリオにリッカルドだろうな。自分たちで誘っといてなんだよ」
呟いた悠斗に、家継はキれた。
それはもうぷっちーんといってしまった。
これは母方でも父方でもあると思う、こうなると開き直ってしまうのも特徴だ、ていうかつまり妙なところで似た者夫婦なんですねあの二人。
「俺は火遊びが悪いとは言っていない。節度を守って健全にやれ。まだお前は12だ。なぜそんなに激しい」
じっと家継の目をのぞきこんだ悠斗は、へらと笑って手を放すと数歩下がって椅子に座り込む。
見上げた家継はぷっちんと切れた時の顔をしていた。
無表情なので整った顔がなおさら整って見える。
こういう時の家継の顔も嫌いじゃない、むしろぞくぞくする。
もっと見ていたい、自分へ向けられるこの冷徹さを秘めた幼いボスの表情。
きっと大半の人は、自分の母親だって知らない、こんな彼の表情。
「大事にしなきゃいけねーのはわかってんだけどなー」
でもさーと足を組んで笑った。
「俺は恋人とかより大事なやつがいるのなー。そいつに全部俺の「大事」使ってるわけなのな。だから無理」
「・・・・・・そんなこと、言い訳になるか」
呟いた彼の顔はもう無表情ではなかった。
少し困った子供みたいな顔だった。
「家継がすんなってゆーなら、病気には気をつけるな」
「ち、違うつってんだろ! だから――俺は」
「守るモンの順番間違えんなって、母さんがゆーからな。俺の一番はそいつ。そう決めた、一生変わらない」
「悠斗、俺は」
「俺が決めた」
笑顔で朗らかに、けれどぴしゃりと言われた。
家継は唇を噛んで、それからハッと顔をあげた。
「じゃねぇ、遊びまわる件は少し控えろ! 俺にばっかクレームがきて迷惑だ」
「あー・・・ま、考えとくわ」
「おいこら悠斗!」
立ち上がって笑いながら逃げだした悠斗を追いかけて、家継も教室を飛び出した。
***
よくわからない話だけど悠斗のダメっぷりを書きたかった。