<rely on me>

 


「……ぅっ、つ、ひゃ、あっ」
殺そうとしても殺しきれない声を必死に堪えて、つなは相手にしがみつく。
奥をえげつなく突かれて、喉をそらして悲鳴を上げた。
大きな波が飲み込む、攫われないように爪を立てた。

男はその目を欲情に輝かせて、一心につなを犯す。
「……っ」
「あ、あぁっ」
ぎゅうと目を閉じる、大きくうねって崩壊する。
最後に大きく声を上げて、つなは大きく息をついてから濡れた目を開けた。


見上げる先の男は、先ほどとは打って変わって曇っていた。
微笑んで手を伸ばしかけると、その手を握られて、それで彼の手が震えていることがわかった。

「……どうしたの?」
問いかけると、彼は無言でつなの上に覆いかぶさり、額に優しく口付けをする。
「――すまん」
「謝ること、ないよ」
「すまん、つな……すまん、本当に」

謝罪を繰り返すばかりの男の頬につなは手を伸ばす。
ざらっとした髭から濡れている髪に指先を移した。
「冷たいよ、シャワー浴びよう」
「……」
呟いた彼の頭を自分のほうに引き寄せる。
わずかな光源がその表情を浮かび上がらせる。

「いいんだよ?」
動かない彼に苦笑して、肘を自分の下に滑り込ませるとなんとか上半身を持ち上げる。
横に跳ね除けられていた毛布を引っ張って、それを相手の肩にかけようとしたけれど、手が伸び切れなくて届かない。
同じく脇に投げられていた自分のガウンをとって、自身の肩にかけた。
「なにがあったか言いたくないなら言わなくていいよ」
「……つな」
名前を呼ばれて、つなは相手を見上げる。

その顔は後悔に覆われていて、いつもは鋭い眼光もまったくなくて。
つなは少し体をずらして、相手の胸に手を当てる。
「後悔とか、悪かったとか……そんなこと、思わないで」
「……」
腕が肩に回ったけれど、手の平は驚くほど冷たかった。
軽く引き寄せられて、沿うように体を倒して胸に顔をつける。
体はちゃんと温かくて、安堵で溜息が出た。

「いいんだよ。大丈夫」
手を背中に回して優しくなでる。
つなの肩を引き寄せていた腕に力がこもった。
「俺は妻なんだから、色々ぶつけても良いんだよ」
ね、と言って顔を擦りつけた。
汗の匂いがする。心臓の音もする。
軽く唇を動かして、胸板に口付ける。

「いつも泣かないね、愚痴も言わない、だけど辛いよね、わかってあげられなくてごめん」
きっと彼はつなに色々隠してる。
それをさせているのはつな自身だ、自分の至らなさだ。
だけどすべてを見せろとは言わない。
隠されているところできっとつなが嫌がることをしているのだけれど、それがファミリーに必要だと判断されているなら見て見ぬフリをしよう。

それはそれでいい、最近漸く割り切れた。
だから。
「泣いていいよ、辛いなら辛いって言って。嫌なら嫌って教えて」
俺はバカだから。
一番大切な人が辛いことだって気がつけない。
「いつも助けてくれてありがとう。俺はなんにもできないけれど、受け止めるぐらいならできるよ」

本当は怖かった、痛かった。
知らない男のようだった。乱暴で容赦なくて。
やめてと泣きたくなってから気がついた、今までどれだけ優しくされていたかなんて当たり前のことに。
今までどれだけ守られていたかってことに。

もう守られているだけでは嫌なのだ、今までのように庇護されているばかりでは。
怖くとも痛くともそんなものは些細なのだ、今まで彼がどれだけ堪えてくれていたかを思えば。

「泣いていいよ」
そう言ってもきっと泣いてなんてくれないだろう。
彼が涙を流す瞬間なんてつなにはまったく想像できない。
「俺のことなら、本当に大丈夫。……うん、ちょっと怖かったけど……でも、嬉しかった」

ほんとだよ、と繰り返して首に腕を回して抱きつく。
抱擁を解いて間近に迫った顔に笑いかけた。
これだけ近ければ彼にはきっと見えているだろうから。

「もっと俺に教えて。辛かったことや悲しかったこと」
腰に添えられた手が、ぐいと強く抱きしめてきた。
肺から空気をたたき出される苦しさに、つなは小さく咳き込む。
それでもほとんど緩まない抱擁に、苦しいながらも笑った。

「愛してるよ、ザンザス」
「……俺も、愛している」
やっと聞こえた返事につなは満面の笑みになる。
見下ろしてくる目にはいつもの輝きが戻っていて、それが何より嬉しかった。

頑張って背を伸ばして口付ける。
軽い音を立てて唇が離れようとすると、ザンザスの大きな手がつなの頭を支える。

少しだけ延長されたキスが終わると、つなはもう一度彼を見上げた。
「だから、ね。また何かあったら俺を頼ってね」
「……つな」
「俺、もう大人だよ。ザンザスを支えられるぐらい、大人になったつもりだよ」
「ああ……ああ、そうだな」
肩口に顔が押し付けられて、つなは優しく男の背中を撫でた。




この人は本当はたぶん。
誰が思っているよりずっと繊細で感情豊かな人なのだ。








***
しかしザンザスの繊細さ&感情=絶対零度+1度 程度なので
ずっと豊かだろうがマイナスの値なのには変わりはなかろう。

ところで何があるとこの人がこうなってくれるのかわかりません。残念。