<デート疑惑>




つなは機嫌が悪かった。
ここ最近、ザンザスとまともに会えていない。
仕事だから仕方がないのだけれど、寂しいものは寂しいのだ。
目の前で惚気を聞かせてくるパイナップルは、その辺りの事が分かっているのだろうか。

苛々が表に漏れ出しているのか、はやとが口元を引き攣らせて内線で誰かを呼んだようだ。
しばらくして現れたのは、恭弥だった。
……ナイス、はやと。


「恭弥!」
「……まったく。くだらない事で呼び出さないでよね」
骸の隣に立ってつなを見下ろす恭弥は少し不機嫌そうだ。
おそらくはやとから、骸を引き取りに来いとでも言われたのだろう。
「雲雀さん群れるの嫌いですよね」
「? 大嫌いだね」
呼び出されていきなりのつなの問いかけに、恭弥は首を傾げながら肯定する。
つなはにこにこと笑いながら更に言葉を重ねた。
「デートなんて異例中の異例ですよねー」
にこにこにこ。
笑いながら尋ねたつなに、恭弥も何が言いたいのか察したようで、にやりと笑って、言った。
「まあ、あるけどね」
「え、ちょっと!? 誰とですか!?」
「いろんな人とですよねー!」
「そ、そんな……」
しおしおと頭のヘタが萎れていくように見えて、つなは内心笑い転げた。
恭弥もどことなく楽しそうだ。

わざわざ指折り数えつつ、例を挙げてくれる。
「超高級ホテルのディナーとか」
「し、仕事の話ですよね!?」
「公園もね、紅葉が見事な日とかに連れて行ってくれるわけ」
「…………」
「体が鈍らないように運動にも付き合ってくれたり。買い物にも行くね」
「……誰とですか?」
「いろいろ」
「……仕事ではなく、ですか」
「オフでね」
「……っうわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

バタンッ ドタバタ ズシャ

大泣きしながら扉を開けて廊下を突っ走っていった(そしてたぶん一度こけた)骸の反応を見た三人は。

「あっははははははははは!」
「見事なまでに、反応、しましたね……」
「…………」
罪悪感のカケラもなく笑っていた。

「あー……ありがとうございました、雲雀さん」
「まさかあそこまで信じるとは思ってなかった」
口元を笑みで彩りながら言う恭弥に、それもそうですねとつなは頷く。
というか、恭弥の話を鵜呑みにする骸が悪いのだ。
結婚して子供が二人いても、相変わらず霧の守護者は恭弥関連に関してだけはヘタレであり続ける。
「ディナーも公園も、アレが自分で連れてったって事忘れてるんじゃないだろうね」
「……雲雀、目が笑ってねぇぞ」
「ちなみに運動と買い物は誰とですか? それも骸と?」
「それは雪加と夜鷹。最近雪加も腕をあげてるからいい運動になるよ」
「ああ、なるほど」
「てことは、あいつ、自分と息子に嫉妬して泣いて出てったって事か……?」
「……っぷ」

けたけたけたと、その日ボンゴレ十代目の執務室で、二度目の笑いが起こった。



 

 

 


***
なんて酷い鬱憤晴らし。
この後恭弥は骸に「僕ばっかり覚えてるとかむかつくね」と噛み殺されます。