<発覚>





すみませんごめんなさい、と菓子折りを持ってきたつなは開口一番謝り倒した。
骸と恭弥はその見事なまでの土下座っぷりに半ば感心半ば呆れる。
これって確かマフィア界で誰もが恐れる(?)ボンゴレ十代目だったと思うのだが。
こういうところは中学校時代から変わらないらしい。
「……とりあえず、顔あげなよ」
「はい、すみません」
更に謝罪を口にしながら顔をあげたつなは、きっちりと正座をして居住まいを正した。

ここは骸と恭弥に与えられた屋敷だ。
和洋が見事に折衷された間取りをしているのだが、今回つなが通されたのは和室だった。
いるのは骸と恭弥とつなだけ。
雪加と夜鷹はつなの護衛としてついてきたはずのスクアーロが別室で面倒をみている。
ぶっちゃけスクアーロを連れてきたのはそのためだ。

このままでは話が進まないと思ったのか、骸が口を開いた。
「それで、どうしたんですか」
「また面倒な任務でも持ってきたの」
「……ええと、面倒っていいますか、厄介といいますか」
多少の厄介なものであっても、普段なら執務室に骸を呼びつけて「今度の仕事ちょっと大変かもだけどよろしく」的なことを言って終わるだろうに、今回に限って菓子折りを持って二人揃えて謝り倒すなんて余程危険なものなのか。
いやどうもそういう感じでもなさそうだ。

つなの様子からそう判断して、恭弥は少し身構えた。
時々とんでもないことを言い出すからだ、この元草食動物は。
「ええと……以前、俺に赤ちゃんができたとお話したと思うんですが」
「うん」
「ええ、聞きました」
つなの懐妊の知らせはその日のうちにボンゴレ内部に響き渡ったものだ。
早いといえば早いが、今現在つな以外にボンゴレの血を引く者がいないために、後継者の誕生はおおもと喜ばれた。
守護者としては正直今更、というか、やっとか、という感じが強いのだが。
妊娠期間中は無理な運動はできないし、ましてや命の危険にさらされる(胎教によろしくないことこの上ない)外での仕事ができなくなるからその分守護者に負担がかかって申し訳ないと言われたのも覚えている。
別にそれくらいは仕方がないと頷いたのも記憶している。
「もしかして双子だったんですか?」
「そしたら別に謝りにくるものじゃないだろう」
一人だろうが二人だろうが動けないことに変わりはないのだから。

それもそうですね、と骸は納得して、じゃあなんなんですか、とつなに尋ねた。
「……はやと、がね」
「彼女がどうかしたんですか?」
「心労で倒れたとか言うんじゃないだろうね、まだ君四ヶ月だろう。それじゃあ出産までもたないよ」
「いえ、そうではなく……できちゃったんです」
「「はぁ?」」
二人揃って間の抜けた声を出してしまった。

できたってなにが。
まさか。

「……つ、つな君、できたって、まさか」
「二ヶ月だそうです」
先日体調不良で倒れた時の検査で発覚しました。
視線を泳がせて言ったつなに、恭弥と骸は眩暈がした。

つなの右腕としてその才覚を発揮しているはやとは、つなの妊娠中にその代理として奔走していた。
というか主に事務的な面では彼女がボンゴレをまわしている。
その彼女までが妊娠。
つまるところ、ボンゴレ十代目とその右腕が両方身動きとれなくなるというわけだ。
そのうえつなの護衛の名目でくっついているザンザス同様、山本もはやとの護衛とかなんとかごねて動かなくなるのは明白。
そしたらその負担はどこへ行く。
……残りの守護者に行くに決まってるじゃないか。

ぐらぐらしてきた頭を押さえて、恭弥は押し殺した息を漏らす。
隣では骸が呻くように頭を抱えていた。
「ちょっと、どうしてこう立て続けに……!」
「気をつけていたつもりだったんですけど」
できちゃったものはできちゃったんです、と泣きそうになりながらつなは弁解する。
「で、本人は」
「ベッドに拘束中です」
軽い貧血だけど、無理に動こうとしてるのでとっ捕まえて病院送りにしてきました。
そう言って、つなは溜息を吐く。
「喜ばしいことなんですけど」
「とんでもなくこっちに負担がくるじゃないですか」
「うん、皆が大変になるのは分かってるんだけど、俺は犠牲にしたくない」
何をとは、せっかく授かった命をだ。
この場合どちらをといえば、後継者を望まれているつなが堕ろすわけにはいかない。
だけどつなは、そんな天秤にかけるようなことはしたくない。

「……仕方ないね」
息を吐いて、恭弥は珍しくその口元に笑みを浮かべた。
「恭弥?」
「はやとの病院は? 他の奴らには言ってないのかい」
「あ、はい、最初に二人に……」
「じゃあとっとと公表するんだね、そうしたら産むしかないだろ」
僕は見舞いにでも行ってくるよと腰を浮かした恭弥に、ぽかんとしていたつなは、言われた言葉を咀嚼して飲み込んで理解したところで顔を輝かせた。
「雲雀さん!!」
「喜ぶことだろう」
仕事はそこのヘタ頭に任せておけばいいのだ。
とりあえず見舞いの口実の下、今頃不必要なことを考えているあれの頭をはたきに行こうと恭弥は子ども二人のいる部屋に向かった。


 


 

 


***
私はどうしてもスクアーロをベビーシッターにしたいようです。
油断するとはやと大好きがだだ漏れになるのでこれでも自重しました。