<ささやかなハネムーン>
ささやかな結婚式が終わって二週間。
ハネムーンは世界中を回ることで、この国は最終地点だ。
甘い生活に終止符が打たれるまであとわずか。
「……なのになんでこうなっているんだろうな」
ハネムーンで、新妻が隣に寝ないとかナイだろう、常識的に。
しかしザンザスが見下ろす先では、彼の新妻は別の人物の腕に抱かれて眠っていた。
あんまりに幸せそうに寝ているから起こすのははばかられる。
はばかられる、だが、夫としてはすごくものすごくとんでもなく面白くない。
「起きろつな」
ずかずかと部屋に入って彼女を揺さぶると、ううんんむーと声をあげてつなは目を開けた。
「もうちょっとねせて」
「寝るな、朝だ、起きろ」
「いやだねむい」
唸って布団の中に引っ込んでしまう。
苛立って、結局ザンザスはその隣の人物を起こす羽目になった。
「……起きろ」
低い声にこちらはきちんと反応する。
ぎゅっと眉を寄せてから、細目を開けた。
「なん、だ」
「朝だ」
「……ああ」
呟いてベッドから降りる。
しかしそのまま立ってぼおっとしている。
常ならぬその様子に、昨晩何があったかなんとなく嗅ぎ取った。
「夜更かしか」
「まあ……」
「山本がもうきてるぞ」
「はあっ!?」
思わず裏返った声をあげて、はやとはばたばたと階段を下りていく。
パジャマのままはどうなんだろうかとザンザスは突っ込みたかったが止めておいた。
代わりにいまだ眠りこけているつなの隣にもぐりこむと、ぎしぎしとベッドがきしんだがこのベッドが丈夫なのはわかっていた。
なにせこの実家のベッドはつなが中学の頃からずっと使っているもので、ザンザスと二人でその上に乗る行為……の詳細を伏せるが、そういう経験はないこともない。
もぐりこんできたザンザスに、布団の中にもぐっていたつながすりよってくる。
はやとだと思ったのかそうではないのか。
とりあえず抱き寄せると、んん、と満足そうに喉を鳴らす。
「お前な、新婚旅行中だってのに実家に寄る奴がいるか」
しかもベッドがなぜかザンザスと別。
厳密に言うと最初は同じ部屋だったのに「あ、俺、はやとと話したいからちょっといってくるね」といって出て行ったきり朝になるまで戻らなかった。
まあ、実家であれそれする気なんてなかったのだが、ハネムーンで一晩新妻から離れているのはちょっとやるせない。
まさかこれ今晩も続いたりしないだろうな。
「つな、今晩はホテルとっちまうぞ……」
抱き寄せて耳にそう呟くと、くすぐったかったのかんんと呟いて胸に頭を擦り付けてくる。
「ざぁんざーすー」
甘い声で名前を呼ばれて、ザンザスは無言でがしがしとつなの頭を撫でた。
***
恥ずかしいハネムーン。
ちなみにちっとも甘いハネムーンではなく事件ばっかりだったに違いない。
(オマケ)
「や、山本、もう来たのかっ」
「よー、はやと」
「あらはやとちゃんおはよう」
微笑んだ奈々に頭を下げてから、はやとは山本のところへ駆け寄る。
「早いな……」
「はやと、忘れてるかもしれねーからいっとくけどさ」
はやとの左手を取って山本はその薬指の指輪にキスをする。
「俺たちも新婚なんだぜー?」
「っ! あ、朝っぱらからなにするんだお前は!」
飛び退ったはやとを頬杖を付いた山本は見上げる。
ただ無言で見つめられて、はやとの頬に朱が上った。
「な、なんだよ……」
「いや、パジャマ姿もやっぱソソるなーって」
「ば、バカか!」
言われて初めて自分がパジャマ姿だったことに気がついて、はやとは慌てて二階へ通じる階段を駆け上がる。
しかしすぐに気まずそうな顔で降りてきた。
「あ、あの、お母様」
「なあにー?」
「十代目とザンザスの朝食はしばらく用意しなくてもいいと思います」
「あらあら、また寝坊なのね。本当にあの子はかわらないんだからー」
それじゃあ二人の分だけ先に用意しちゃいましょうねえーと奈々は笑ってご飯をよそった。