みつば、というのは。
一つ足すと四葉、になるから。
いつか大切な何かを見つけて幸せになってほしいから、とママンは笑った。
つまり私は。
いつも何かが、欠けている。
<three-leaved-clover>
オトナなんてだいたいくだらない。
ステキなのはパパンとママンと、ママンの守護者ぐらいじゃない。
おどおどして人の顔色ばかり見て。たいした力もないのに威張って。
顔も頭も運もよくないくせに、なんでオトナってああなのかしら。
どうせ身分不相応な金や権力なんて手に入れたって、困るだけよ?
「あ、リボーンはもちろん別よ。アルコバレーノは大好きよ」
付け爪がまたダメになってる。最悪。
今度のは気に入っていたのに。ピンクのラメと小さなクリスタルをつけて。落ちないように生活するのも案外楽しかったのに。
「みつば、お前……一人で行くんじゃねぇってあれほど」
帽子を被りなおしたリボーンがそう言って、口をつぐんだ。
別に怒ってもいいのに。リボーンからならいいのに。
「ごめんなさいリボーン」
私は笑って、手についた血糊を振り払った。
べちゃといくらか飛び散るけれど、これは手を洗わないとどうしようもない。
「大人しく守られてりゃいいのによ……」
「だってムカついたんだもの」
綺麗なドレスが血糊でべったべただ。
これはもう着られそうにない。ああ、せっかくパパンが買ってくれたお気に入りだったのに。
「みつば。お前はな」
「「十代目の長女なのだから」……聞き飽きたわ」
血まみれで倒れている男をヒールの靴で軽く蹴ると仰向けにする。
遠慮なくスーツの懐に手を突っ込んだ。
「ないわね。こっちかしら」
もう一人も仰向けにする。
奥の方に差し込むと、指先が確かにソレに当たった。
「あったわ」
引っ張り出した紙は血に汚れていたけれど、書いてある文字は何とか解読できる。
「あら、あのクソファミリー、まだ懲りていなかったのね」
ムカついたので、足元の刺客を蹴飛ばした。
よりによって最強のヒットマンのリボーンを狙うなんて。
ついでに私を狙うなんて。舐めたまねをしてくれた。
「せっかくパーテイ会場を抜け出したのに」
「みつば」
「ねえリボーン、こいつら始末しておいてよ」
「みつば!」
どうせ髪も血に汚れている。
セットしてくれたルッスおばさんには悪いけど、もう構いやしない。
そう思って落ちてきた前髪をかき上げていると、リボーンに怒鳴られた。
「なんで……お前は! いい加減にしろ。お前がそんなことをしたって」
「したって? ママンが喜ばない? あのねリボーン」
どうして気がついてくれないのかしら。
私はね、ファミリーのためにこんなことしてるわけじゃ、ないの。
「やっぱり、私は十一代目になんかならないわ」
「みつば!」
「だって、私はファミリーのためになんか戦えないもの」
ねえ、リボーン、あなたはきっと気付いていると思うけど。
「ファミリーなんてどうでもいいわ。全部カッ消してあげたいぐらい」
「お前……っ!」
「だって、あなただってそうでしょう、リボーン」
ママンもパパンも、あなたも、アルコバレーノたちも。
みんな、囚われている。
こんなくだらないボンゴレなんか、私には要らないの。
みんなを捕まえているオリなんか、壊してしまいたい。
ほら、私がこんなこと考えてるって、あなたにはわかるでしょう、リボーン?
「ね? 私は十一代目になんかなれないわ」
「十代目の娘が、そんな事を言うな」
あら怖い。
冷えた目、その奥に憤怒の炎。絶対零度の炎の色、とても好き。
あなたは素晴らしい家庭教師だったわ、だってママンは立派なボスだもの。
でも、ね?
「リボーン、あなた、私の教育は間違えたわね」
私は欠けている。大事なものがひとつ、欠けている。
だからボスにはならないし、なれないし、なりたくない。
私にボスしか求めないオトナなんてぜんぶ、嫌い、大嫌い。
「約束した……つなに約束した。お前を、」
「ウソツキ」
寒い嘘。そして浅はかな嘘。
私は長くたくさんあなたといるわ、リボーン。
そしてたくさん、ママンから愛してもらってるわ。
だからわかるの。
「ママンは、私をボスにしたがってはないわ。家継も、葵も、ボスにしたいなんて思ってない」
「……っ」
「私をボスにしたいのは、あなたでしょ? リボーン」
確信を突いた言葉、今まで言わなかった言葉。
でももう言うわ。だって私はママンじゃないもの。
「私はママンじゃないわ。いいかげんにして」
まだ片手に下げていた銃を突きつけた。
もちろん、引き金を引いても当たらないでしょうけどね?
「ママンの代わりじゃないわ」
その言葉にリボーンの感情が揺らぐ。
ああ、リボーン、最強のアルコバレーノ、そんなのあなたらしくない。
私みたいな小娘の言葉に、そうも簡単に動揺しないで。
「お人形でいるのはヤメよ、リボーン。第一幕はここでオシマイ」
引き金に指はかけたまま。じゃないとあなたは私を見てくれないでしょう?
だってママンがあなたに銃を向けたことなんかないもの。
さあ、良く見て、リボーン。
あなたに銃を突きつけているのは、十代目じゃないってことを理解して。
私は、みつば。みつば=アドリアーナ。
一人の、ニンゲン。あなたの人形じゃないわ。
あなたが手に入れることのできなかった未来をなぞるための「道具」じゃない。
「……っ、やめ――」
「第二幕の開始を宣言するわ」
引き金に力をかける。そう、あと少しで弾が飛び出すように。
「大好きよリボーン!」
ほら、あなたの人形は糸をちぎったわ。
「愛しているわ」
そう、なにより。私自身より、ボンゴレより。
「どうする? 私の愛しい、アルコバレーノさん?」
さあ、新しいゲームをはじめましょう。
私の欠けてる、葉っぱさん。
***
ど す く ろ !
こんな人になるとは思いませんでした。
そしてみつばがまだ12,3じゃないかと。女って怖。
このあと家継に全てのお鉢が回ります。かわいそうな子。
そしてアルコ会議がなされる。残念な感じに。