<幸せだから>



「え? ……うん、……うん、そう」
声を曇らせていくつなに、電話の向こうからはやとが必死に謝る。
『すみません十代目……本当に、すみません』
必死な声に、ぶんぶんと首を横に振る。
「ううん……なんで謝るの? 体調悪いならしょうがないよ」
わざと明るい声を出したつなの表情は浮かない。
『必ず、来週行きましょう』
「うん、分かった。来週ね」
何度も頷いて同じ言葉を繰り返す。
「大丈夫だって、オレは暇だもん。うん、じゃあ月曜日にね」

携帯の電源を切ったつなが深く溜息を吐き、聞かない振りをしていたザンザスの横に腰掛けた。
はぁ〜、と深く溜息を吐いているのを見ると、明日一緒に遊びにいくという約束が流れたのが不満なようだ。
誰より大事にしている親友が体調不良なのに、そこで不満を見せるのも珍しい。
「見舞いに行くか?」
尋ねてみると、唇を尖らせた。
「行ったらはやとが困るよ」
「は?」

膝を抱えてつなは顎を上に乗せる。
「……明日、午後から雨だよね」
「台風が近いからな。買い物には支障ねぇだろ」
「だから日曜に予定してた練習試合、流れたんじゃないかな」
「は?」
「野球の、試合。それで明日の練習もなくなったんじゃないかな」
ことん、とザンザスにもたれかかって、ずるいな、とつなは涙声で呟く。
「オレ、一昨日から約束、してたのに」
約束とは遊びに行くことだろう。
「なのに……山本とのが、優先なんだ……」
「山本? ……ああ」
山本武、雨の守護者。
はやとと付き合っているという話は聞いていたが。

「そいつも連れていきゃいいじゃねぇか」
元々ザンザスとディーノが(護衛がてら)同行する予定だったのだ。一人増えたって問題はない。
「ダメだよ。だって今、何時さ」
「十時だな」
「……電話の向こうに、山本の気配あったもん。明日たぶん、立てないよ」
ぶすくれた声に、ザンザスは思わず視線をつなへ向ける。
本来なら適当な皮肉を言ってすますところだったが、彼女相手にだけはそれはできない。
「それは……」
「自分がシたくなったらお構いなしだもん、山本。平日は他の人のとこいるくせに」

まとまった時間ははやとといて、オレが一緒にいられない。
呟いたつなは、もう一度体操座りで丸まった。
「山本がはやとのこと、好きなのは知ってるし……はやとが山本のこと、好きなのも知ってる。でも……はやとは、ほんとに、幸せなのかな……」
オレはわかんないよ、と呟いたつなの柔らかい髪にザンザスはそっと触れる。
「そいつらの関係は、そいつらにしかわからねぇよ」
「そう、だけど」
オレはいいんだ、とくぐもった声でつなは言う。
「オレはいいんだ。はやとの二番目でも、三番目でも。オレがはやとを思う強さも、はやとがオレを思う強さも変わらないって知ってる。でも……でも」

でも、と彼女は呟く。
今頃、親友がどうしているかどう思っているかを思って傷ついた声を出す。

「はやとは、きっと傷ついた。オレとの約束を反故にしたことに傷ついたし、そうさせた山本に傷ついたし、そうした自分に傷ついた……ねえ、ザンザス、男の人は、やっぱりそういうこと、したいの?」
「……」
「ザンザスも、やっぱり……好きな人とは、そういうこと、したい? それって、その人の時間を奪うぐらい、大事? 傷つけてもいいぐらい、したい?」
重ねられる質問のどれにも答えられなくて、ザンザスは細く息をつく。
嘘は言えない。だが真実をどうすれば伝えられるのか。
「オレは、どうすればいいのかなぁ」

肩を震わせながら彼女が問うた言葉に、なんと返せばいいか分からなかった。
代わりにその小さな背中を抱きしめて、膝の上に引き上げる。
「……つな」
「な、なに?」
後ろから抱擁しながら耳元に声をかける。
「明日、俺と行くか。二人で」
「え……でも。そ、それって……」
「はやとにたくさん土産を買ってやれ」
「で、でも、ふ……二人じゃ、でかけない、って。リボーンもだめだ、って……」
だんだん尻すぼみになっていくつなの後頭部に軽く口付けて、ザンザスは目を閉じる。
引き寄せた身体は温かい。
「ないしょだ。お前とデートなんて、久しぶりだからな」
「で……デート……」
薄く目を開けると、耳まで真っ赤にしたつなが居る。
額を髪に摺り寄せると、びくりと肩が震える。

「ざ……ざん、ざす、ど、したの?」
「笑ってろ」
「え?」
「お前は、笑っていろ。はやとはそれに救われる」
腰に回されたザンザスの手に、つなの手が重なる。
細い指にきゅうと力がこめられる。

それが彼女の決意だと分かったので、ザンザスはもう一度軽く髪の毛に口付けた。
これが今の自分が触れられる限界だけど。


彼女の言っていたことは、男として否定できる言葉ではないのだけど。
それでもこれも幸せなのだと、伝わればいいと思った。


 



***
つなが中学時代なので付き合ってすらいません。
色々面倒になりそうなのでデートとかも禁止です。グループはおk。

ザンつなの軌跡は
〜中学→今回レベルの接触がMAX
〜高校→お付き合い開始だけどチューどまり
となっております。

超健全。