<来襲>



どぉん、と言う音と共に綱吉の隣にいた雲雀が煙に包まれた。
自分で入れ替わらないって言ってたじゃないか。
唖然としていたつなの隣で、もくもくとした煙が消えていく。

この非常時なのに。
ミルフィオーレファミリーと戦わないといけなかったのに。
主力の雲雀が。
どうして。

「ヒバリさんっ・・・あああ」
ボン、と現れた雲雀はつなの知っている通りの服装だった。
肩にはおった学ラン。
膝上のミニスカート。
紺のハイソックスに、黒皮パンプス。
「あれ・・・」
ぱちぱちと目を瞬かせてた雲雀は、視線を左右に向ける。
そして真横にいたつなに視線を固定し、口を開いた。

「沢田つな。今度は何」
「・・・うああああ」
頭を抱え込んだつなは、事の次第をかいつまんで説明するハメになった。



無言で睨む雲雀に必死に耐えて、一同は視線をそらしていた。
「つまり、僕はマフィアのくだらない抗争に巻き込まれたんだ」
細めで睨んだ雲雀に、了平だけがそこそこ真っ当に対応する。
「そういうわけでもないぞ雲雀! 京子もハルもあのクロームも大変だ!」
「クローム?」
その名前に雲雀は柳眉を上げた。
「あの子がどうしたの」

クローム髑髏。
骸が大切にしている彼の半身。
何かと気にかけて、いつもしゃべっているから。

「・・・あの子も来てるの」
「ああ」
ふうん、と呟いて雲雀は立ち上がる。
「ひ、ヒバリさん!?」
「場所はどこ」
「あ、案内します!」
ガタっと慌てて立ち上がったつなは前のめりに倒れそうになって、慌てた了平に受け止められた。










『みなさん、ハッチから何者かがはいって』
ジャン・ニーニーの放送に全員が硬直する。
警告音もなしに、誰が、どうやって。
「あ・・・ちがう」
ぞわりとつなの首の後ろの毛が逆立った。
これは、ちがう。

くる。

「きょうや!」
大声がしてついでに廊下を疾走する音も聞こえる。
ばたばたばったという騒々しいそれの後に、ぷしゅと扉が開く音も聞こえた。
「恭弥!」
駆け込んできたのは長身で黒いジャケットを着て、黒い髪を後ろに束ねて流している青年だった。
それが誰かは全員がわかったけれど、皆は絶句するしかなかった。
真っ当な対応をしたのは、十年後メンバーのみだ。

「骸! 極限どうした!」
「恭弥!」
了平の言葉に耳も貸さず、六道骸は雲雀恭弥の前に走りこむ。
もともと見上げている格好だったのに、さらに背が伸びた相手を見上げる格好になった雲雀は、切れ長の目を大きく開いていた。
「恭弥、どうして、君まで・・・どうして」
「あ、あの、骸・・・?」
「・・・あっ、つな君。ええと・・・詳細は後で報告しますけど。どうして、恭弥まで・・・」
「あの」

何か言わなければとつなが口を開いたのとほぼ同時だった。


どこから飛んできたのか、雲雀のトンファーがそれは見事な一撃を骸の腹に叩き込まれた。
顔を殴らなかったのはせめてもの優しさなのだろうか。
「ぶはっ」
まったく構えていなかった骸は見事に後ろへ吹っ飛ぶ。
その隙に雲雀は逃げだしてしまい、結果ぽかーんとした一同が残された。
「む、骸、大丈夫・・・?」
思わずつなが声をかけたが、骸はマッタク平気そうな顔でひょこっと立ち上がる。
「では、ちょっと追いかけてきますね」
ポーズをつくり、爽やかに走り去っていく骸。
彼の後ろを姿を見ながら、ラル=ミルチがぽそと呟いたのが嫌すぎた。

「まあ、これで戦力的には問題がないな」

他に問題が満載になった。










まだどう行けばいいかわからない地下の中を、雲雀は夢中で走っていた。
どうして足を動かしているのかよくわからなかったけど、あの骸を見て思考が固まった。
いや、アレ本当に骸だろうか。

「恭弥!」

名前を呼ばれた。
そんな風に名前で呼ぶ人を雲雀は知らない。

「恭、弥。とまって、ください」
途切れた声に呼ばれて、雲雀は足を止めた。
「ああ、よかった。止まってくれて」
微笑んでいるのがわかったけれど、振り返らない。
「・・・恭弥」
「何で、名前」
「恭弥は、恭弥ですからね。愛しい人」

雲雀は思わず咳き込みそうになった。

「混乱しているのですね。大丈夫、君は僕が守ります」


優しい言葉。
記憶より少し低い声。

「君は僕が守ります、恭弥」

そんな言葉は望んでいない。
雲雀が骸に求めるのは、せいぜい見えないところで勝手に戦うことぐらいだ。
自分と戦う前に誰かに倒されたら許せない、それだけ。

それだけ。

「・・・恭弥」


ふわりと両腕が肩に回される。
振りほどこうとしたけれど、思っていたよりその腕が太くて、力も強くて。
「な・・・にさ」
「会いたかった」
「・・・なに、いきなり」
くすり、と耳元で骸が笑う声がする。
「こっちの世界で、僕は潜入任務をしていたんです。だから、君に会うのは久しぶりです」
それが自分と何の関係があるのか。
振りほどこうとした腕が、動かそうとする前にぎゅうと抱きしめてきた。

「それに、中学の頃の君は、こんな風に・・・」
髪の毛に顔をうずめて呟いたため、小さくなって消えた声はそれ以上雲雀に聞こえなかった。


 

 



***
これ以上かけなくなった。