<13:溶けて 解けて 説けて>
ピキピキという音と共に、生まれた氷が男の体を覆っていく。
その手を、足を、胴体を。
「ザンザス……」
上半身を凍結させることなく、ハアハアと荒い息を繰り返しながら、つなは膝をつく。
気力も体力も、すでに限界まで削られていた。
「おい!」
観覧席のコロネロが叫ぶが、リボーンは冷静に分析する。
「つなの奴……気力の限界みたいだな」
よくやったというべきだ。
ザンザスは全力をだし、つなはそれを抑えた。
よくやった――本当に。
「ザンザス!」
叫んだつなは、震える足で立ち上がる。
数歩歩いて、よろけて崩れ落ちる。
「十代目!」
「つな!!」
背後からの守護者の声など耳に届かず。
また歯をくいしばって立ち上がる。
「……つな、お前の勝ちだ」
半身残して氷付けになったザンザスが目を背けて呟く。
その言葉につなの瞳が揺れた。
数歩また、歩く。
落ちているボンゴレリングを拾って、自分の物と合わせた。
かちりと一つになった指輪を、自分の指にはめる。
そしてぶかぶかの指輪をつけた拳を握った。
「ざんっ……ザンザスの……ザンザスのばかああああああっ!!!!」
少女の絶叫が校庭に響く。
叫ぶのと同時に、半身氷浸けのザンザスの首に抱きついた。
「何でこんなことしたんだよ!」
「つな……」
「何で勝手にこんなこと、オレ、オレ、ザンザスに嫌われた、のか、と、思って、だって、信じられなくて、だって……うあああああああぁんっ!!」
声をあげて号泣する少女は、離すまいと強くザンザスにしがみつく。
その様子を見ていたチェルベッロは、困惑したかのように視線を交わした。
「オレ、ザンザスと戦いたくなかったよぉ……」
「……悪かった」
「みんなも戦わせたくなかったよ」
「……そうだな」
しゃくりあげながらつなは繰り返す。
辛かった
怖かった
悲しかった
戦いたくなかった
戦わせたくなかった
傷つけたくなかった
傷つけられたくなかった
傷つけてほしくなかった
「オレ、マフィアなんて嫌いだよ、ザンザス……」
ぎゅう、としがみついた男の耳元でつなは涙声で呟いた。
「人を殺すのも苦しめるのも大嫌い」
「だろう、な」
かすれた声に、でもねと続けた。
「オレ、仲間のこと大好きだよ」
「…………」
「仲間を守るためなら、ファミリーのためなら、マフィアになれる」
小さく嗚咽が混じる。
ザンザスの首に回された腕は華奢で、傷だらけだった。
その腕に力をこめて、少女は言った。
「――ザンザスのためなら、ボスになれる」
「……っ!」
零された言葉は重すぎた。
それは――あまりに、純粋で強くてまっすぐで。
「それがザンザスの望みなら、ファミリーのためなら、オレはボスになる」
「……つな」
ゆっくりと少女は腕を離す。
それからへにゃりと、いつものダメつなの笑顔で笑った。
「だから、オレのそばにいてください。ダメつなのオレの、隣にいてください」
「……あたり、まえだろう」
歯をくいしばって、天を仰いだ。
――神様、雨を降らせてください。