<11:霧の暴走>
笑い声が響く。
それは彼のように低いものではなく、高い少女のもの。
「Lo nego」
上着を脱ぎ捨てて、妖艶に微笑む。
「Il mio nome e' Chrome」
くすりと少女は笑う。
その特徴的な武器を手に。
「我が名は、Chrome 髑髏」
「六道骸じゃ……ない!?」
驚きの声をあげたつなに、少女は振り向く。
「騙されないでください! そいつは六道骸が憑依してるんです!」
声を荒げたはやとに、クロームは少し目を伏せる。
「信じてもらえないのね」
「……ううん、信じるよ……六道骸じゃ、ないよ」
つなの言葉にクロームは安心したように緊張を少し解いた。
「かばってくれるんだ……」
かつかつ、と近づく。
それから少しだけ背を伸ばして。
「ありがと、ボス」
ちゅ、と頬に口付ける。
「……え」
きょとんとした顔のつなとは対照的に、くっついてきていた犬が大きな声をあげる。
「な、なにしてんだぴょん!」
「あいさつ」
「お前らももっと反応しろっての!」
「あ、いや……」
いきなり振られても、はやとも山本もなんとも言えなかった。
確かに男子生徒の服装はしているものの、今日の服だって男物だが。
でもつなは……ああもう何度目だこの説明、めんどくさい。
「で、結局仲間にはいれるのか?」
了平のもっともな質問に、はやとは首を横に振る。
「こんな胡散臭い奴……」
「ボス、私霧の守護者として失格かしら」
ボスがだめっていうなら……と肩を落とすクロームに、つなはリボーンの言葉を聞いて顔を上げる。
「じゃあ、頼むよ」
「ありがと」
ほっとした顔でクロームは三又を握り締める。
そして円陣を断わって背中を向けた。
「それでは霧の対戦、マーモンVSクローム髑髏 勝負開始!」
チェルベッロの言葉と同時に、つなは背筋がぞくりとなった。
……あれ?
開始の合図とほぼ同じくして、少女から渦巻く霧が発生し、フィールドを包む。
早くないか? というツッコミが天から聞こえた、つなもしたい。
「ちょっと、待ってこれって――」
「……ファンタズマ、いくよ」
異変を察したのか、マーモンは頭の上のカエルに声をかけた。
それと同時に彼の足元に鎖が落ちる。
そして。
「!?」
リボーンとコロネロのおしゃぶりが輝く。
それの意味することをつなは知っている。
アルコバレーノ、最強の赤ん坊――彼が?
「クフフフフ」
霧の中から声が響く。
「クフフ、ようやく僕の出番ですね。さすが僕です、切り札ですね☆」
「「……………………は?」」
一同全員の突っ込みだった。
敵も味方もついでにチェルベッロにまで突っ込まれている。
そして彼が姿を現す。
三又を片手に、オッドアイで。
その右目には六の文字。
「六道……骸」
誰ともなしにあげた声に、マーモンがふむと考え込む。
「確か一月前だ、復讐者の牢」
「恭弥君はどこですか!?」
人のシリアスなセリフをぶった切って、南国植物は叫んだ。
ぶんぶんと頭を回して左右を確認している。
「恭弥君! 来てないんですか!? ちょっと沢田つな君! どういうことですか!」
「ど、どういうことって……」
「恭弥君は昨日帰ってきたはずでしょう! だから観戦に来てると思ったのに! 僕の戦う姿を見に来てくれたと思ったのに!」
いないじゃないですかあ! と声を張り上げる骸に、全員が唖然としていた。
いや、何を言い出すんだお前。
そんなに雲雀恭弥がここにいるのが大事か。
だったらとっとと会ってこい、生死の保障はしないから。
「ぐすん……そうですね、こんな格下との戦闘なんて見る必要もないですね」
気を取り直したというか、諦めたらしい骸は三又をくるりと片手でまわす。
「ちょっと、聞き捨てならないな」
マーモンがわずかに闘気を出す、しかし骸は興味がなさそうに、とんと軽く三又で地面をたたいてから無造作に前髪をかき上げた。
「恭弥君が見てくれないならこんな物は茶番ですね」
すっと前に腕を伸ばす。
そしてひとつ。
パチン
指を鳴らす。
同時に、マーモンの上にいたファンタズマの影がはじけた。
「なっ……!?」
「最初からすべて、幻覚です、まやかしです。あなたの相棒はとうに眠ってもらっています。僕がここに来た瞬間からね」
つまらなそうな解説をしながら、骸は床に座り込んだマーモンに一歩ずつ近づく。
「アルコバレーノとかもたいしたことありませんね。死んでください」
「……ちっ」
ばふん、とマーモンが爆発する。
それが幻術かわからなかった一同はぽかんとしたが、骸は彼が残した指輪をすくい上げた。
「これで、いいですか」
くだらない、といいたげな彼の手には、完成された霧のリングがあった。
「……リングを所有しましたので、勝者をクローム髑髏とします」
チェルベッロの勝利宣言には間があった。
それはそうだろう。
こんな一方的かつアンフェアかつ。
だいたい、闘ったのクロームじゃないしな!
勝利宣言を聞いて、骸はそれまでずっと試合を見ていたザンザスへ視線を向けた。
「まったく、君はマフィアの闇そのものですね、ザンザス」
「……」
答えない男に、薄い笑みを浮かべたまま続ける。
「君の考えている恐ろしい企てには、僕すら畏怖の念を感じますよ」
ぴくり、とザンザスは眉を動かす。
それを見返した骸は、ふっと目元を緩めた。
「なに、その話に首を突っ込むつもりはありませんよ。僕はいい人間ではありませんから」
ああ、でも、と一度向けた背中なのに、振り返った。
「君より弱くて小さい後継者候補を、あまりもてあそばない方がいい」
「む、くろ?」
意図が察せなくて眉をひそめたつなに、骸は登場時の変なテンションで返した。
「ところで今晩僕がすんっごーく活躍していたと恭弥君に伝えておいてください!」
「え……は、はあ」
「あと、恭弥君の誕生日と血液型と好きな物とスリーサイズなどを教えていただけると霧の守護者として忠誠を誓う甲斐がありますね。きっと胸はそんなにないんですよねー、でもそれを気にしてはじらっているところなんかがきっと最高に」
「……むくろ、はなぢ」
ずざざざ、と引いたつなに突っ込まれて、おっといけないと骸は鼻血を拭く。
「僕としたことが。で、わかる部分はありますか? あ、下着の柄なんかも教えてくれるとうれし」
「誰が教えるかこの変態!!」
素でアッパーを喰らわせたつなは、そのままのモーションからケリを叩き込む。
コンボは見事にキまったが、骸としてはたいしたことがなかったようだ。
彼は残念そうに肩をすくめる。
「それじゃあ退散します。これ、クロームの体ですから扱いには気をつけてあげてくださいね?」
「あ、しまっ……」
ふわり、と骸……否、クロームが倒れる。
それを慌てて抱きとめて、つなは「彼女」であることを確かめて。
それから、深く溜息をついた。
ちなみにもうヴァリアーさんたちはいなかった。
ええとなんていうか、ごめんなさい。
***
シリアスをぶち壊す男骸。
かけあしですがここはギャグとして流してください。