<8.5:裏話2>
「なに、してんだぁ」
開けた先にいたのは、しばらくぶりの友人だった。
呆れて突っ込むと、へなと変な顔をされる。
「スペルビーッ!」
「うぉおおおい!!」
真正面から抱きつかれ、思いっきり床に尻をうちつける。
いたたたたと顔をしかめていると、涙で顔がぐしゃぐしゃになったディーノに上半身を前後左右に揺さぶられた。
こっちの顔も液体まみれにしたいのか。
「スペルビスペルビ!!」
「あああっ、うっるせー! 何してんだ人の部屋に押しかけて……」
「だってザンザスが、あって、くれねーんだもん……」
しゅんとしたディーノに、スクアーロは肩をすくめた。
そりゃそうだ。
今日の一戦だって見にこなかった。
映像は見ていただろうがとてもその場にはいられなかっただろう。
何せ今日の対戦者ははやと。
ザンザスにとっては――つなの友人である彼女との付き合いも長い。
その少女が傷ついて、それでつなが傷ついて――そんなのを彼は望まないだろう。
見ないことは逃避だろうと出がけに言ったが、見れば駆け寄るから無理だと言われれば引き下がるしかない。
あのボスもそんな人間的な面があったとは。
「あいつはあきらめろ、難しい年頃なんだろーよ」
「なあなあスペルビ」
「ん?」
ねこっけの頭をぐりぐり人の胸にこすりつ――……鼻水を拭くなよ。
綺麗になった顔をあげたディーノは、悲しげな顔で呟いた。
「スペルビ、武と戦うのか」
「ああ」
「……武、いい奴なんだぜ。野球が好きで、いっつも元気で、つなも」
「――んなことは関係ねぇ。お前だってこれが何のためか知ってるだろうが」
「……スペルビ」
「ああ?」
ぎゅう、とスクアーロのシャツを握り締めて、うつむいたディーノは尋ねた。
「……まけ、るんだよな」
「そうなるな」
一勝三敗。つなたちに後はない。
ここでスクアーロが勝てば勝負はついてしまう――そういうわけにはいかないのだ。
もちろん本気でやるつもりではいる。
だが――……最悪、棄権も考える。
実力が競れば、スクアーロは双方が命の危機になる前に棄権を申し出るつもりだ。
もちろん自分が負ければ――それはそれ。
「ヤダ」
「はあ?」
「俺、スペルビが怪我すんのいやだっ」
「……お前な」
呆れ果ててスクアーロは自分の髪をかき乱す。
なんだこいつ。
だってキャバッローネのボスだろう。
それが――なんて
「あのな、ディーノ。剣士は戦うためにある。戦いの果てに死んでもそれは」
「俺はヤだ!! スペルビが死ぬのも武が死ぬのも――……ザンザスが泣くのもヤだ……」
とりあえずあのボスが泣いているとは思いがたかったが、とりあえずスクアーロはぐしゃぐしゃうるさい友人の頭を軽く小突くことにした。
***
ディノスクじゃないんです。
ないんですったらないんです。