<あほあほ戦闘3>




猿轡を噛まされ、両手両足を後ろで縛られてついでに柱に縛られていたつなは、右目だけをあけているのがしんどくなって、両目を閉じていた。
体は寒いけれど、温い液体がまだ顔を流れている。
(ヘマったなぁ……ぜってーリボーンに怒られるんだろうなぁ……ヤだなぁ……)
つらつら考えながら、姿勢を変える。
ずきりと頭が痛む、訓練と比べたらどうってことはないけれど。

心配はしていない。
リボーンがいる、ザンザスも今日は日本にいる。
あの二人でこんなやつらをぶちのめすには十分だ。
それに先程から銃声や叫び声が聞こえている、きっと来てくれた。


「おいっ、そいつを起こせ!」
焦った声が聞こえる、どたばたという足音も。
目を開こうとして、血の入り込んでいない方の目を開ける。
「……っ!」
状況を把握するより早く、無防備な腹を蹴られて涙が出た。
「おいっ! あの会社はなんなんだ! お前の父親はいったいっ!!」
(だから、父親じゃないってば! なんでオレがザンザスの娘に見えるんだよぉ!!)
内心そう突っ込みながら、つなは痛みを噛み殺す。
相手がかなり動揺している――つまりザンザスが乗り込んできてくれたのだ。

「くっそ! こうなったらお前を人質にしてやる!」
その声と同時に抱え込まれた。
頭になんか慣れた感触がする。
――拳銃突きつけられ慣れるのもどーかと思うが。

ここで反撃したかったが、つなの体はちーとも自由にはなってくれなかった。
(リボーン、まだかなぁ……ザンザスも、来てくれるのかなぁ……)
朦朧としてきた意識の中、つなは寒さがだんだん遠のくのを感じる。
あとに襲って来るのは強烈な眠気。
それが何を意味しているかを知って、さしもの彼女も内心青ざめた。
(やっべ、これマズいだろ! 何、出血死!? こんなとこでオレ、出血死!?)
声がでれば悲鳴を上げただろう、ついでにそろそろ泣き叫びたかった。
もともと堪え性な方ではない、痛みにだって酷く弱かった。

(ザンザス……ザンザス、早く来て、ザンザス……っ)

「ひっ! き、きたぁ!!」
つなに銃を突きつけていない誰かが叫ぶ。
「そんなバカな! ガスはビルに充満しているはずじゃ……!」

引きつった顔(たぶん。マスク越しだが)をした犯人の前に、凶暴な顔した男が現れた。
白のシャツに黒のジーンズ姿で、格好だけなら普通だ。
だが男の両手には銃があり、なによりその顔があまりに凶悪だった。

「カス共」
冷えた声で男は言う。
「その汚ねぇ手を離せ」

一歩彼が踏み出すだけで、犯人達は震えた。
銃を握っている手が細かく震える。
「わ、われらの目的は崇高なのだ」
「そうか」
叫んだ犯人に冷たく返し、男は銃口を真っ直ぐ向けた。
無造作な仕草に、彼がどれほどこれに慣れているかがわかる。
「う、う、撃ってみやがれ! お前の娘の命はないぞ!!」


場が凍った。
犯人達は凍りついた男を見て勝機アリと睨む。

背後の扉からようやく入って来た二人も凍った。
犯人共の後ろにいるつなは頭から出血していて相当弱っている、暴行を加えられた可能性もあるだろう。
ここに入るまではそこそこ真っ当だったザンザスが完全に冷えた声でドライアイスを足元から発生させてるのに、バカ犯人がさらに上乗せで禁句を言いやがった。
地雷地で寝転がるぐらい危険だ、死にたいのかそうか、じゃあ成仏してくれ。




「……娘……?」




低い声でザンザスがもらすその前に、彼と腐れ縁十年の二人は賢く動いた。
このトリオが学生時代に厳重注意を受けまくりながらも、引き離されなかった理由はただ一つだ。
バックにボンゴレやキャバッローネがあったからではない。


「つなっ!」
正面に飛んだディーノが迅速に鞭でもってつなのロープを断ち切った。
名前を呼ばれたつなは、立ち上がることすらできずに消耗していたが、真横から突っ込んできたスクアーロが彼女の体を片手で抱きかかえ飛び上がる。
飛び上がりつつ剣で天井を切り、開いた穴に地面に着地したスクアーロを台にしたディーノが飛び。
すぐに鞭がおろされ、スクアーロはそれをつたってつなと共に上階へと上がった。


ここまでおよそ十秒。
ザンザスは無事につなが上階へと動いたのを見てとると、銃口を犯人へ向けた。
















全身がだるくて、けれど意識は鮮明だったのでつなは目を開ける。
覗き込んできたのは麦の穂の色で、思わず目を細めた。
「……でぃーの、さん?」
「目ぇ覚ました! つなが目覚まし――ってっ!!」
ガンゴンドンチャン と大きな音が聞こえて、思わずつなは笑ってしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
「うう〜平気だ。つな、大丈夫か? 痛くないか?」
「大丈夫です。……うん、手も足もちゃんと動くし」
「そっか、よかった」

へにゃと笑ったディーノの顔はつなの前から速やかに消える。
彼を後方へ殴り倒したザンザスは、ずいっとつなの視界に入った。
「……」
無言で髪をなでられて、つなは幸せそうに笑う。
「んー、平気。ザンザス、助けに来てくれてありがと」
「……ああ」
「怪我はしてない? 大丈夫?」
「ああ」

うん、と頷いたつなはすうっとまた眠り込む。
殴られた顎を押さえて起き上がったディーノは彼女の顔を覗き込んで、えへへと笑った。
「良かったなー、つな。骨も折れてねーし、明日にはもう元気になるんだって」
「……知ってる」
「スペルビにも教えておかねーとなっ。そーいえばあのテロリストどうしたんだ?」
ああ、と肩をすくめてザンザスはベッド横の椅子に腰掛ける。
足を組んで、手元にあった書類をぽんとディーノに投げた。
「あっ、おわっとっと」
受け損ねて一旦落としてから、また拾い上げたディーノは数枚捲って首をかしげた。
「なんだこれ……?」

「あのテロ組織はとあるマフィアと関係があってな」
「へ……? じゃあ、あれって全部ワザと?」
「テロ組織の方は何も知らなかったようだが、俺とつなのデーターは全部そのカス共が提供したものだ。ご丁寧につなは俺の娘ってことにされてな」
ことを悟ったディーノは顔色を変える。
それって、と聞き返されてザンザスは頷いた。

「情報が……リークしてる? つなのデーターまで!? そんなっ、つなのことは……」
沢田つな。
一年前にザンザスと戦い彼を制した十代目候補。
しかしそれが「彼女」だと知っているのはごく一握りのはず、彼女はずっと「彼」で通されていた。
今までだって幾度も襲撃はあった、その多くを「男」のフリをすることで切り抜けていた。


しかし今回は「娘」と言われた。
彼女が「女」であることがあらかじめわかっていたということ。
制服だって学校の表記だってつなは「男」なのに。
それなのに。


「俺はカス鮫が戻ったらしばらく出る」
「……だから、リボーンがいねーの?」
ディーノの呟きは核心を突いていたらしい。
ザンザスは無言を返した、知っていてどうするとでも言いたげに。
「そか……うん、今回はそれでいいと思う……」

スクアーロもリボーンも、そのマフィアの殲滅に行ったのだろう。
そしてザンザスもこれから向かうのだろう。
「珍しいな、アホ馬」
「……俺は、つなぐらい平和主義者じゃねーっていうか……止めるべきなら九代目が止めてると思うし」
「ああ、アレなら『つなを傷つけるとは許せん! ヴァリアーの力見せてこい!』とホザいてたから好きにしてる」
「九代目ー!?」
いや冗談なんだろうけど、この人勝手に都合がいいとこだけ聞き取ってるよ!


「ボス」
ノックなしに開かれた扉から、銀髪がのぞく。
「場所を突き止めた。リボーンはもう出発したぜえ」
無言で立ち上がり部屋を出て行ったザンザスを呼び止めようとしたディーノは、辞めておいた。
あの男が容赦とかするはずないし。
たぶん一定の攻撃をするような命令はでてるのだろう。

……目を覚ましたつながそれを知ったら嘆くのだろうけど。





 

 



***
長かった!終わった!












 

 



殴りこんだアジトは阿鼻叫喚の図であった。
もはや戦う意思すらない雑魚にトドメをさすほど、ザンザスもヒマではない。

事前に伝えられられた部屋の扉をぶち破る。
そこにいたのは震え上がった矮小な存在だった。


こんなチンケなファミリーでボンゴレに喧嘩を売るとは。
身の程知らずの言葉を噛み締めろ。
「テメェがドンか」
「ひっ……ヴぁ、ヴぁ、ヴァリアー……」
黒尽くめのその姿に己のしたことを考え合わせれば、当然その名前が出るだろう。
さらにその主格となれば、なおさら思い当たる名前がある。

「ざ……ザンザス……お、お前はあんな十代目でいいのか! ひよっこの女で!」
「……一つ聞いておくが……アレが俺の娘だとどこから聞いた?」
場違いな質問に、男は目を丸くする。
それから拍子抜けしたようにさくりと答えた。
「ボンゴレの後継者なら九代目の息子のお前の子供だろう? まさか兄妹じゃあるまいし」

「……」



押し黙ったザンザスがその後、やり場のない怒りをどこに発散させたかは定かではない。
ただ後日、後始末に借り出されたディーノとリボーンが殺意を燃え上がらせていたのは事実である。









 

 


***
まあどうでもいいですが、ザンザスとつながなかよくしてたら
1.誘拐犯と子供
2.にてねぇ親子
3、従兄弟
せいぜいこんなもん、恋人にはみえないわ(酷