<最非重要会議>

 



「皆様いかがお過ごしでしょうか。梅雨でただでさえじめじめしているのに更に湿気を高くしているナッポーを埋めたい今日この頃です」
「…………」
「十代目、本音が出ています」
据わった目で言い切ったつなに、はやとが微妙な表情で突っ込む。
形だけは突っ込んだが、内心では同意しているので言葉に力はない。
というかここにいる全員がつなと同じ事を思っているに違いないなかった。

集まっているのは、つな、はやと、山本、ザンザス……と、部屋の片隅にちっこくなって床に「の」を書いている骸。
つなの自室にこの人数が入るのは狭いので和室を使っているが、畳にきのこが生えているように見えるのは幻覚だろうか。
幻覚だったとしたら、手がこんでいるあたりが更にウザさを増幅する。

どうしてわざわざ和室を使ってまでこれだけの人数が集まっているのか。
それは偏に骸のせいである。
「ほんとウザったいよね」
「つな君酷いです!」
「畳を醸すのは菌だけで十分だ。オリゼーにすら劣る」
「……きっついなぁ、つな」
「たしかにそろそろ骸のこの落ち込みようもウザくなってきてはいますが」
「いっそ焼却処分すればいいんじゃねーか」
絶対零度の声音で断言したつなに、山本が苦笑し、はやととザンザスは冷めた目で骸を見やる。

実際一週間近くもこのいじけパイナップルを見ていれば、どんなに心の広い人物でも限界がくると思う。
ましてや自身はそこまで寛容ではないとつなは考えているので、これまで我慢してきただけでも讃えられて然るべきだ。

奈々が淹れてくれたお茶を啜って一息いれて、つなは全員を見回した。
「というわけで俺は考えました。皆で骸のいいところを考えて、雲雀さんに教えてあげればいいんじゃないかって」
今日の議題はそれだった。
こうして日々落ち込んでいる原因は、日々恭弥にアタックしては玉砕しているからだ。
だったらいっそ二人にくっついてもらえばいいのではないか。
断じて骸のためではない、この鬱々とした梅雨をせめて標準的な鬱陶しさで終えたいというつな達の生活環境向上のためだ。
だから感動して机ににじり寄ってきた骸は完全無視。

「じゃあ意見ある人ー」
「顔」
「顔」
「顔」
「顔だよねぇ」
「…………他にはないんですか、他には」
「総合能力は高いと思うんだけどなぁ」
「容姿端麗、頭脳明晰、運動神経も悪くない……が」
「その髪型と性格と変態スキルで見事に潰れてるな」
「皆さんは僕を励ましたいのか貶めたいのかどっちなんですか!?」
「雲雀さんは顔はあまり気にしなさそうなんだよなー」
「無視ですか!」
「煩い黙ってろヘタ」
「ヘッ……」
「雲雀さんてやっぱり強さ重視?」
「自分より強くないと認めない、みたいな感じですかね」
はやとの言葉につなは唸る。
確かに恭弥は強い者を好むから、それは考えられるセンだ。
だが、それにはひとつ超えられない壁が。
「……できるの?」
「無理そうだなー」
「無理ですね」
「無理だな」
三人ともが否定し、つなもそうだよねぇと頬杖をつく。

だが、そう考えれば骸だってそこそこいいところまでいっているはずなのだ。
容姿はあのヘタをのぞけば申し分ないし、恭弥と互角に渡りあうくらいには強い。
だったらどうしてあそこまで邪険に扱われるのか。

案がつきた一同に、骸が拳を握って言った。
「かくなるうえは僕のサンバで虜に……!」
「それはだめだろ」
それはさすがにない。
見た事はないが、想像するだけで脳が拒否したがる。
「……それがそっぽ向かれる最大の理由なんじゃないのか?」
ぽつりと漏らしたザンザスに、ああなるほどと納得した。
この性格がやっぱり全てを無にするのか。

「骸、いっそ記憶喪失になってみたら? そしたらその性格少しは改善されるんじゃない?」
「……ザンザス、あなたの恋人って何気に酷くないですか」
いい案だと思ったつなだったが、なんだか骸に泣きそうな顔を向けられた。
骸に話しかけられたザンザスも微妙な顔をしている。

やはり恭弥に骸を好きになってもらおうという事が間違っていたのか。
だけどどうにかしないと、夏になってもじめじめから抜け出せなくなりかねない。
日本の夏はただでさえじめっとしているのに、これいじょう湿度をあげられたらたまったものじゃない。

「……こまめに好きなものを送って懐柔するとかどーだ?」
山本のあまりにまともな意見に、おお、と全員が感嘆の声をあげる。
しかし当の骸は、なぜか恨みがましい目を向けてきた。
「なら皆さん、ヒバードに餌付けとかしないでくださいよ……ヒバードのおやつが一番恭弥に接近するチャンスなんですから」
「「それは無理」」
「即答ですか! 応援してくれるんじゃぁないんですか!?」
「だってヒバードかわいいもん」
「いたらあげちまうよなぁ」
「……どうしたら分かってくれるんですか恭弥……僕はこんなに好きなのにっ」
「ヒバードに何か教える、とか」
「……「骸スキー」とか」
「「多分アウト」」
「…………じゃあ「アイラブユー 恭弥」って歌をつくって」
「なんか発想が変態だよな」
「すーきなのにー こんなにすーきなーのにぃ〜♪」
「ヤメロ」
歌いだした骸を殴って沈めて、つなは重い溜息を吐いた。



当分、この鬱陶しさとの縁は切れなさそうだ。





 

 

 


***
骸をどこかに捨ててくるという案が出なかった分優しいんじゃないかと思った。