<スクアーロの憂鬱>
『それでロマーリオが助けてくれたんだけどなー、もうじーさんたちは俺の言うことぜんぜん相手にしてくれないし、若いのもいうこと聞いたり聞かなかったりだし、だいたい完全に赤字だったうちの経営立て直したの俺なのにー!
それも「いっそ表の世界で真っ当に働いたほうがいいでしょう」とかくそムカツクあのジジイども、一回地獄の淵見て帰ってこーい!!
あ、それと今日から俺日本にいってくんだ、なんかリボーンがなー、今持ってる生徒がへなちょこだから俺が一回話してやれーとかで。スペルビにお土産買ってくるかなー、じゃなー』
「相変わらず仲良しねえ」
空気読んでくれないルッスーリアの言葉に、スクアーロは青筋を浮かべて留守電の内容を消去する。
横でけたけた笑っているベルフェゴールを睨むが、効いた様子はない。
「これって暗殺依頼?」
「ってとってもいいだろーけどなぁ・・・」
もちろん電話主のほうの。
ジジイじゃなくて。
「ま、懐かれているっていいことよ」
「そうかぁ゛・・・?」
「かわいいじゃない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
仕事先から帰ってきたらボスはいねーし書類は山積みだし、ついでに不愉快な留守電が入っている。
これで「そうだな」とか同意できたらどれだけ出来た人間だ俺は。
内心そうあたり散らしつつ、スクアーロは腕を組んでレヴィへ視線を向けた。
「で」
「・・・なんだ」
「ボスはどこいった」
「日本だ」
「・・・・・・Cosa!?」
思わず叫んでスクアーロは頭を抱えた。
ディーノとザンザス。
この二人が同日に日本に行く理由はなんだ。
いや待て、ディーノはリボーンの生徒に会いに行くらしい、つまり弟弟子だ。
・・・うん? 弟?
「・・・なあマーモン、今リボーンが家庭教師をしてるのって・・・」
「ああ、沢田つな。ボンゴレ十代目候補の日本人だね」
「・・・・・・・・・俺ぁちょっと有給とりてーんだが」
ディーノはつなに会いにいったのだ。
そしてザンザスはソレに気がついたのだ。
だから埋めにいったのだ。
うん、なんともわかりやすい。
「あら、ダメよ。ボスがいないんだからあなたが仕事してくれなきゃ」
「お前がすればいいだろうがあ゛あ゛!」
「いやよ、私はエステへいかなくちゃ☆」
「ししし、王子はそんなことしないもんねー」
「ボーナス出してくれるなら考えるよ」
「俺はボスの命令を聞く」
「・・・・・・」
使えねぇ。
内心呟いたスクアーロがとっとと戻って来いと電話をしようと携帯を取り上げた瞬間。
〜♪
「・・・??」
知らない番号からで、スクアーロはしばし躊躇したが、もしかするとつなの携帯電話あたりからザンザスがかけてきた可能性もあるので、念のため電話に出ることにした。
だいたいスクアーロの携帯ナンバーを知る人は少ない。
「なん・・・」
『スペルビー!!』
大音量で名前を呼ばれて、スクアーロは顔をしかめて速攻切った。
しかしまた鳴る。
無視。
無視。
・・・む・・・し・・・
『スペルビー? スペルビ、仕事終わったか? まお前の仕事なんてない方がいいけどさー、あはははは』
「・・・・・・バカ馬、なんでテメェが俺の・・・」
『つなすっげーかわいかった! ほんとふわっとちまっとしててほわほわしてて笑顔もかわいいし、ああでもザンザスになついちゃってるのがいけないよなー、なんっだよー、あのむっさいマフィア顔のどこがいいの!? 学生ん時もそうだったけどさ、なんでザンザスがモテんの!? スペルビのほうがかっこよくねーか?』
「・・・おい、お前、どこから電話かけてる・・・?」
その時のスクアーロの突っ込みは深く考えたものではなかった。
けれどもこのやかましい人物とは十年ほどの付き合いだったし、ザンザスとだってそんなかんじだ。
つまりスクアーロはなんとなく察したのだ。
察してしまったのだ。
『楽しそうな話だな、カス馬』
ほらやっぱり。
『あっれー、ザンザス? 俺追いかけてきてくれたんだ?』
『テメェが忘れ物をするからだカス。とっとと日本から出て行け』
『あ、ありがとな。なんだよー、いいじゃんかー、いつかスペルビと三人でつなに色々話ししてやりたいなー。ほら、ザンザスをめぐって女同士で死闘になったやつとか!』
『ああ、テメェとカス鮫を始末したらな。こんな風に』
『ちょっと待てよザンザス、ここ町な・・・
「・・・・・・」
「電話はもういいのかい」
無言で通話を終了させたスクアーロにマーモンがそう尋ねる。
ああ、と低い声で答えてスクアーロは自分の席に崩れるように座り込んだ。
「ししし、年?」
「・・・俺だけ年取ってる気がするぜえ゛ぇ・・・」
そろそろ奴らにも成長してもらいたい気がする。