<あほあほボス就任>
日頃のへらへらとした顔ではなく、少しだけきりりとした面持ちに見えなくもない顔つきでやってきたディーノを、スクアーロは微妙な表情で迎える。
「どうだったぁ?」
耳に響くような声で聞かれたディーノはぱっと顔を輝かせると、銀髪の友人に抱きついた。
「ボスになったぜ、スペルビ!」
「う゛お゛ぉい゛!」
抱きつかれて椅子ごとひっくり返ったスクアーロは、上に乗っている友人(?)を押しのけてばしばし服の汚れを払う。
「キャッバネーロもとうとう終わりだなぁ!」
「ひどいなー、お前も一人前なんだなーとか言ってくれよ!」
立ち上がったスクアーロは、床に座り込んだままのディーノの手を握って引っ張り起こす。
一人で立ち上がらせるとコケかねないというのは長い付き合いで学んでいる。
「頑張ったなァ」
頭の上の方から落とされた言葉にディーノはへなりと笑ってもう一度正面から抱きついた。
「スペルビ大好きだー!」
「うっとしいつってんだ!」
そうは言っても引き剥がそうとはしない。
だから大好きーと笑顔で言って、ディーノはぎゅうぎゅうとスクアーロに抱きつく。
「しかし、そうなるとお前ももうこねぇな」
そういわれてはたと気がついた。
ここはマフィアの子息が通う場所。
マフィアになればもう来ない生徒がほとんどだ。
となればディーノももうこない、というかもう通えない。
ボス家業は忙しい。
「俺らも今年で卒業だし、どのみちこなくなるがよぉ……どうしたぁ?」
「スペルビ、就職先は決まったのか?」
「……う゛ぉ゛おい、就職先つったって……」
「スペルビに会えなくなるのは嫌なんだ」
「……」
こっちはお前の面倒見なくなるのは喜ばしい。
そうは言わず、スクアーロは無言を返した。
「スペルビ、キャッバネーロに来いよ!」
「……俺はボンゴレだ」
そう返すと、ディーノは目じりと眉を下げて泣きそうな顔になる。
これはわがままを言う前兆だ、わかっているけどどうしようもない。
「キャッバネーロでもいいじゃないか」
「ンナ弱小マフィアに用はねぇ」
「俺が強くするから!」
「じゃあ一人でしやがれ」
ディーノはがしっとスクアーロの腕を掴む。
「スペルビ、俺の右腕になれよ」
「俺はボンゴレに入るつっただろうがぁ……」
もともとスクアーロはそのつもりだった。
しかもそれを可能にしてくれる人物が隣にいる。
というかそろそろ寝たフリを止めて会話に加わってほしいぜ、ザンザス。
「ザンザス、スペルビくれ。大事にするからさ、あと言い値を払う」
「……サンドバックとパシリとしては有能だ。今日の昼おごれ」
「わーい、おごるおごる」
「俺は商品じゃねぇ!」
というか価値が昼飯分ってどれだけだ。
どれだけの価値なんだ自分は。
「俺はヴァリアーに入るんだよ」
「じゃあキャッバネーロにもヴァリアーつくるぜ」
「う゛お゛ぉ゛い! 違うだろうが!」
突っ込んだスクアーロは、はあはあと肩で息をしてから溜息をついた。
「おめーもボスになったんだからちったぁ落ち着いて考えろよ。リボーンだっているんだろ」
いなされたディーノはうつむいて唇を噛んだ。
「……でも、俺はスペルビ好きだし。会えなくなるのは嫌だ、俺の傍にいてほしい」
「熱烈な告白じゃねーか、いってやれカス鮫」
「人事だと思って適当に言うんじゃねぇ!!」
怒鳴ったスクアーロにザンザスは眉を上げる。
「そこまで必要とされたら行くべきだろうが」
「お前と同じにするんじゃねぇ! そもそも俺はこれ以上ダメ馬の面倒を見るのはゴメンだ!」
ぴしっと自分を指差して言われた言葉に、ディーノはひでーと叫んでスクアーロの背中に抱きついた。
「スペルビ、俺の事やんになったのか!?」
「ああもう、うっとうしい! 俺はヴァリアーに入る! そう決めてんだ! 邪魔するんじゃねぇ!」
どーせ俺は弱小キャッバネーロの新米ボスでまだ若くて頼りなくて使えなくて金もなくてスペルビに十分な給料もだせねーやと終いにはすねだしたディーノを振りほどこうと悪戦苦闘していたスクアーロに、それを見ていたザンザスがぼそっと呟く。
「ヴァリアーボスは俺だが……」
ディーノにぎゅうと締め付けられて苦しそうな顔になったスクアーロを楽しそうに見つつ、突っ込んだ。
「お前を採用するとは言ってない」
「「…………」」
じゃれていた二人はしばし沈黙に包まれ、ディーノが「それなら俺がもらうー!」と宣言し、スクアーロは「そんなの聞いてねぇえええ!!!」と絶叫した。
***
ディーノがスクアーロになつくって不思議な光景。