<ちいさな付き人>
明日のパーティに一緒に行こうか。
九代目にそう言われた時、まだ四歳だったつなは分からないままこくりと頷いた。
なんのパーティなのかつなは理解できていなかったし、九代目もそれを求めてはいなか
ったから教えることもなかった。
ただそのパーティが、つなにとっての社交界デビューであり、ボンゴレの屋敷で開かれ
たパーティ会場には、つなが今まで見たこともないくらいに眩しくてきらきらしたもの
でいっぱいだった。
ヒットマンの可能性を考慮して、パーティーは昼間でも室内で開かれた。
大きな広間にいくつもの丸いテーブルが置かれ、真っ白なクロスがかけられている。
ボンゴレお抱えのシェフが腕をふるった料理がテーブルごとに並べられ、招待された人
々がそこかしこで談笑する間を、飲み物を乗せたトレイを手にした給仕がすり抜けてい
った。
髪の色に似た柔らかい色のドレスを着せられ、同じ色のリボンで髪を飾られたつなは、
目新しいものに興味深深だ。
出されている料理も見たことのないものが食べきれないくらい沢山あって、ここから好
きなものを好きなだけ取って食べればいいんだよと九代目に教えてもらう。
最初に取り分けてもらった料理を食べてしまったつなは、新しい料理を取ろうと手を伸
ばす。
しかしつなにとって、大人用のテーブルは高すぎて手が届かない。
今日は立食式のパーティーだから、椅子に乗って料理を取ることもできないのだ。
九代目に取ってもらおうとしても、主賓である彼は招待客の挨拶に忙しく、つなばかり
に付いているわけにもいかない。
それが分かっているから料理を取ってほしくても言い出せずにつなは机のまわりをうろ
うろしていた。
会場中を歩き回っている給仕達も、目線よりかなり下にいるつなには気付けないようだ
。
「どの料理がほしいのかな?」
不意に声をかけられて、つなは驚いてぎゅっとテーブルクロスを掴んだ。
幸いに上の料理がずり落ちることはなかったが、皿がかちんと音をたてて、つなは慌て
てクロスを離す。
声をかけてきたのは細面の中年の男性だった。
ダークグレイのスーツをきっちりと着込んだ彼は、つなの隠れている机の上の料理をい
くらか皿に盛って差し出す。
「これでよかったかな?」
「……ありがとう」
もじもじと皿を受け取るつなの反応に気を悪くした様子もなく、男はにこやかな笑みを
絶やさない。
そこに、ひとしきり挨拶を終えたらしい九世が戻ってきた。
つなと共にいる男性の姿を見ておやおや、と苦笑を顔に浮かべる。
「もう紹介は終えてしまったかな?」
「今から紹介するところですよ、ボンゴレIX世」
笑みで答えて、男はつなから死角になっていた机の陰に向かって手を伸ばす。
目を瞬かせているつなの手から九世は料理の乗った皿を外して机の上に置いた。
机の陰から出てきたのは、つなと同じくらいの背の子供だった。
薄い青のドレスを着て、つなよりずっと長いグレーの髪にはふわふわとした白の飾りが
つけられている。
自分より大きな人しか周りにいなかったつなにとって、同年代の子供を見るのは初めて
だった。
おにんぎょうみたい、とつなは思う。
自分が持っているおにんぎょうに似ている……それよりも可愛い。
男に促されて、少女は緊張した声で言った。
「ほら、挨拶しなさい」
「……はやと、です」
「うん、可愛い子だね。話に聞いていたよりずっと愛らしい」
今日からよろしくねと微笑む九代目に、はやとは緊張した面持ちで俯く。
その視線がゆっくりとあげられて、つなと視線が合うとばっと白かった頬に赤味がさした。
その反応に、思わずつなまで赤くなる。
照れているつなとはやとに大人二人は微笑ましげな視線を向け、そしてそれぞれの背中
を優しく押した。
「つな、今日からはやとがつなの傍につくからね」
「今日からはやとといっしょにいるの?」
「そうだよ」
「ずっと?」
「そう。はやとは今日からボンゴレに入るからね」
ぱちぱちと瞬きするつなは、それでも今日からはやとが自分と一緒にずっといるのだとは分かった。
それを理解して、ぱぁっと表情を輝かせる。
「よろしくおねがいします、つなさま」
「うんっ、よろしくね、はやと……ちゃん?」
「はやとでいいです」
「はやと」
名前を呼んで、つなは満面の笑みを浮かべてはやとの手を握った。
その日出会ったつなの最初の「ともだち」は、十年以上経った今でもつなのすぐ隣にいる。
***
パラレルを始めるにあたりここからがいいのかな、ということで、つなとはやとの出会いから。
四歳から一緒に住んでます。
……護衛どころか営利目的じゃない誘拐未遂が増えそうです。
ちまっとしたのが×2。