<ロックオンの見解>
 



行き会ったフェルトに声をかけると、最初は少し引き気味だったけれど、節度を守って話せば普通に話をつなげてくれた。
一時期は仕事関係の話は完全シャットダウンで、顔を見ると逃げられていたから、これは大いなる進歩だ。

ライルとニールが別人だとフェルトがふんぎりをつけたのか、それともライルがアニューにかかりっきりで落ち着いたからなのかは分からない。
それでもやはりちょっかいをかけた手前、いつまでも避けられているのはいい気分ではないし、その一端を作った人間としてもちょっと申しわけなかったので、こうして普通に話してくれるのはそれなりに嬉しい。
嬉しいついでにライルもついつい話を延ばしがちになる。

丁度フェルトもライルも時間が空いていてそれなりに会話は弾んでいた。
共通の話題としてはやはりニールのものが多かったが、思い出話をするのはライルとて悪くはなかったし、トレミーで離れていた間の兄がどんな風に過ごしていたかを聞くのはなかなかに楽しかった。
同時に彼が犯罪者すれすれだったんじゃないかと思う事もかなりあったが。




廊下の端で立ったままの長話に花を咲かせる。
そこで、向こうから角を曲がって刹那がこちらに来るのを見つけた。
刹那もこちらに気付いたようで、一瞬足を止める。
無意識だろうが顰められた眉にライルは心の内で笑った。
フェルトは刹那に背を向けているので気づかない。

どうやらこの二人はお互いがお互いをそれなりに思っているようなのだが、双方が恐ろしく鈍いらしくて見事に擦れ違っている。
フェルトがライルと普通に接するようになった理由として、自分の思いの方向を自覚したというのも大いに貢献しているのかもしれない。
鈍すぎる恋の行方をスメラギ以下はそれはもう楽しんでいる節があるが、二人の思いを知ってからは、ライルもまたその一人だった。

……兄に似て、弟もまたこの手の悪戯も大好きだ。


にやり、とライルはフェルト越しに刹那に笑ってみせる。
それにますます表情を歪めたのを確認して、ライルはいきなり笑った彼にきょとんとしたフェルトの肩を掴んで引き寄せてみせた。

「きゃっ」
バランスを崩した彼女がライルの胸に寄りかかるより先に、べり、と引き剥がすようにフェルトの両肩を掴んで刹那が反対側に引き寄せた。
フェルトの桃色の髪が刹那の青の制服に触れる。
「せ、刹那?」
肩を掴まれたフェルトが、後ろに立つ刹那を驚いて振り仰ぐ。
刹那はそれに無表情で答えるが、ライルにしてみると無理矢理取り繕っているのがバレバレだ。

「データでわからないところがあるんだが、教えてもらえるか」
「う、うん」
ぽかんとしたまま頷いたフェルトの顔はいささか赤い。
どうしてこれでお互い気付かないのかがさっぱり分からないのだが。

「じゃあなフェルト」
「あ、ありがとう。色々教えてくれて」
「俺こそ楽しかったぜ。また教えてやるよ」
意地悪をして、手をひらひらと振ってみせる。
フェルトのそれとなく背を押して歩き出した刹那が、顔だけ振り向いてライルをじろりと睨みつけた。
声をあげて笑い出したいのを必死で堪えながら、ライルは刹那にだけ分かるよう、唇の動きだけで伝える。
『そんなに睨まなくてもとらねぇよ』
その言葉に刹那は一瞬目を見開いて、次いで射殺せそうな視線を向けてきたけれど、ライルにとっては笑いを助長するものでしかなかった。



二人の姿が完全に見えなくなってから、ライルはその場に蹲って散々笑った。
「若いっていいねぇ」
あんだけ初々しいのも今時珍しいけどな、と呟いて、ライルはアニューに会いに行くため歩き出した。
なんだか今は無性に抱きしめたい気分だ。



 

 



***
兄にくらべて弟のなんて健全な事!