<視点と見解の相違>



なんだか暑苦しいなぁと思って目を開けると、なんだか左右に身動きが取れなくなっていた。
寝起きの頭をゆっくりと回転させる。
たしか普通に寝たはずだ、一人で。一人だった事は間違いない。
しかし今、俺ことロックオン……ではなかった、ニール=ディランディの左右には、男女が寝ている。
日本では川の字とでも言うのだったか。
四年前までしばしばこんな形で寝た記憶はあったが……あれ?


ぴとりとくっつくように、刹那とフェルトが俺を挟んで眠っていた。
くうくうと、すうすうと。
二十を越えた青年ともうすぐ二十になる少女が、三十路近い男を挟んで熟睡してるってどういう状況なんでしょうかねと徐々に回り出した頭で考える。
しかも刹那はあの頃とちっとも変わらない黒のタンクトップにストレッチのズボン。
いや刹那はいい、男だからこの際下着姿だろうが気にはしない。風邪を引かないかと心配はするが。

問題はあなたですフェルト嬢。
男二人の部屋で無防備に寝ない! タンクトップじゃなくてちゃんとした服を着てきなさい! あとハーフパンツじゃなくてせめて……いやそれ以前にちゃんと自分の部屋で寝てください。おにーさんは心配です。変な男に引っかからないか。ああでも刹那がいるしこれからは俺もいるからそうそう変な男にうちの可愛い娘はあげないけど。

……前提としてなんで俺と寝てるんだ? 


最終的に、根本的な問題に行き着いて俺は思考を止めた。
まあ、十中八九犯人はハロしかいないのだが。

あの頃からセキュリティをあっさりとただの紙のように破り去って子供達の侵入の手助けをしてくれていたAIは、ゆっくりと身を起こすと、ベッドの下でスリープモードになっているのを発見できた。

「……はぁ」
嫌な汗かいたわぁ、と俺は中途半端に身を起こした状態でそっと息を吐く。
刹那とフェルトは目を覚ます様子はなく、時間としてもおそらく中途半端な頃合だろう。
そっと腕を布団から引き抜いて、腕にかけたままだった時計を見れば、短針はまだ3を少し過ぎたところだった。

変に頭を回したところで眠気がすっかり覚めてしまい、しばらくは二度寝も無理そうだ。
しかし密着に近い状態では、ベッドを出ようとするとどちらか……あるいは両方を起こしてしまう。
ここは久しぶりに成長した二人の寝顔でも堪能しますか、とおそらくミス・スメラギあたりが聞いたら「変態」と言われそうな事を考えて、俺はゆっくりと上半身を完全に起こした。





成長期の四年は改めて大きいと思う。
身長も顔つきも、ずっと大人びていた。
だけどなによりも、その体の成長よりも、心が成長していた事が嬉しかった。

ただ命令を遂行するだけのために、ただ戦い破壊するためだけに生きていた彼らが。
守るために戦っていた。
少しでも多くを生かすために足掻いていた。
生きるために、生きていた。

その変化に少なからず自分達の「死」が影響を与えていたのだろうと自惚れではないけれど確信は持っていた。
子供達の心に傷をつけ、痛みをもたらした事は悔いても悔やみきれないけれど。
それが彼らの成長となり、糧となったのであれば。

「俺達が死んだ事も無駄じゃなかったのかもしれねぇなあ」
「何を馬鹿な事を言っている」
「……悪い、起こしたか」
寝起きの掠れた声は、輪をかけてドスが効いていた。
聞かれたかと苦笑してみせれば、これみよがしに舌打ちされる。
……感情が豊かになったのは嬉しいけれどそれはちょっとおにーさんツライです。

「――っ!?!?」
ぎりり、と。
シャツから剥きだしのままだった腕をつねられて飛び上がりそうになるのをなんとか堪えた。
声をあげそうになるのも同様に。

ひりひりする腕を摩りながら横を見れば、フェルトは小さくむずがったものの、目を覚ましはしないようだった。
ほっと息を吐いて、少し睨みを効かせて刹那を見下ろす。
刹那はどこか恨みがましい目つきで俺を見ていた。

「フェルトが起きるだろう」
「……つねったのは刹那でしょ」
「我慢が足りない」
皮膚をちょこっとつままれるのってすっごい痛いんだけど、と突っ込んだ。
「俺達は、」




お前達が死んでよかったなんて思った事は一度もない。
馬鹿な事を考えていないで寝ろ。









つねられた箇所を軽く撫でて、再び目を瞑ってしまった刹那に、俺はしばらく呆然としてから頬が緩むのをとめられなかった。



これではますます寝られそうにない。





 

 

 



***
ロックオンは自分達が刹那達のカゴ(外に出るのを阻害するもの)だったのではないかと考えていて。
刹那達は彼らを巣(どこにいっても最後には戻ってきて休める場所)だと考えている。

 

 

 

という話にしたかったんです。
玉砕orz