「ハレルヤ、シャンプー切れた」
「……へいへい」
「さんきゅ」
「っ!? ちょ、おま……せめてタオルをまけ!!」
「風呂に入ってる最中にタオル巻いたら濡れるだろう?」
「恥じらいを持て恥じらいをっ!!」

……などという青春の一幕的なやりとりは、最初の一ヵ月くらいしか続かなかった。


 



<撮影の合間13>

 




「なんつー色気のない……」
「うっせえ」
タオルを忘れたから持ってきてくれというソーマの命令に従ってタオルを持って行ったハレルヤがリビングに戻ると、ビールの缶を片手にロックオンが可哀想なものを見る目つきでこちらを見ていた。

年頃の男女が同じ家で暮らしていて、しかも風呂場にまで物を持っていく仲。
毎日そんなんでよく耐えられるな。

そう呟くロックオンに、ハレルヤはげんなりとした様子で説明する。
曰く、タオル一枚で風呂から出てくるは室内着はまったく頓着しないは、今日のようにタオルや石鹸を忘れて渡しに行く時も大して隠すわけでもないは……そんな毎日毎日理性を削り取られるようなものを目の前にしていつまでもどぎまぎしていから心臓がもたない。
というか、毎日そんな目にあってたらいい加減悟りの境地にもなる。

「……どんまい」
「おう」
純粋に憐憫の色を滲ませて言ったロックオンは、空になったらしいビール缶を振っておかわりを強請った。
その膝ではすでに刹那が横になってくうくうと寝息を立てている。

この様子だと今日は泊まりか、とハレルヤは半ば諦めの息を吐いた。
遊びにきて夕食と晩酌までして、刹那が寝てしまえば、ロックオンは刹那を起こしてまで帰るつもりはないだろう。

案の定、「泊めて」と猫撫で声でロックオンが言ってきた。
「最初から帰る気ねぇだろ」
「あっはっはー」
けらけらと笑うロックオンに溜息を吐いて、冷蔵庫から冷やしておいたビールをもう数缶取り出す。
机の上にあるのはもう全部栓が開いていた。

空の缶を床にどけ、新しいものを机の上に並べる。
キンキンに冷えている一本を手に取りながら呟いた。
「人のものには手は出さねーから安心して」
俺は刹那一筋だもーん、と高らかに宣言する男に、それはそれでよくねぇだろと心中で突っ込みながら、ハレルヤは持ってきたビールを開ける。
酔っ払いにはなにを言っても無駄だ。

ハレルヤが風呂に入る前に口酸っぱく言ったからか、今日はきちんと寝間着を着て出てきたソーマが、床に転がっている缶と、まだ飲んでいる男二人を見て酒臭い、と呟いた。
「どれだけ飲むつもりだ」
「あはは〜、おかまいなく」
「ハレルヤ、私は明日も仕事だから先に休む。六時に起こしてくれ」
「……へいよ」
「ロックオン、ハレルヤ、おやすみ」
「おやすみ〜」
「ああ、おやすみ」

ひらひらと手を振って自室に戻ったソーマを見送って数分。
ソーマが寝た頃を見計らっていたのだろう、ロックオンがにやけた笑みを顔に乗せて、ずいと上半身を近づけてきた。
「お前、まるっと主夫してんのなぁ」
「ほっとけ」
ロックオンに言われなくとも、食事の準備も風呂の支度もハレルヤがやっていて、ついでに朝のモーニングコール(?)もしているので自覚はしていた。

もともとは家賃のかわりに家事を引き受けるということで始めた同居だったし、ソーマの壊滅的な家事能力を知ってからは自発的にも動いている。
それは付き合いだしてからも同じで、世間的にはこれを「尻に敷かれる」だの「惚れた弱み」だのという。

「そういやお前ら、どうやって付き合いだしたんだ?」
気付いたらくっついててびっくりしたんだけど、と酒の入った酔っ払いが尋ねてくる。
「なんでそんな事聞くんだよ」
「だってー、みんなでいつくっつくか賭けてたんだもんよ」
「…………」
人の恋路で散々遊んでた挙句、賭けまでしてたのかこいつら。

今度全員しめて掛金でおごらせよう。
そう心に決めて、ハレルヤは口を開いた。
別に恥ずかしくもやましくもない。
「テレビ見てて……」

『俺お前のこと好きなんだけど』
『そうか、デートで着飾るのは面倒だからやらないぞ』
『どーせ準備するのは俺だし、いろんな意味で今更な気がするからやらんでいい』
『ふむ。それならいい』

「……という感じで」
「うっわぁほんと色気ねぇなお前ら」
ざっくばらんな経緯を説明したハレルヤに、ロックオンは机に突っ伏して呆れた声を出した。
「もうちょい色気とかムードとかねぇの?」
「今更すぎだろ」
ヘタに凝ったところで上手く伝わるような互いの性格ではないと自覚していた。
実際、告白を受け入れられてからも日常はあまり変わらないし、それでいいと思っている。
変わられたところで、今更すぎてこちらが困る。

ビールを飲みながら言ったハレルヤに、ロックオンはつまみのさきいかを齧りながらぽつりと零した。
「……それ、もう恋人通り越して夫婦の域じゃねーか」


とっとと婚約でも結婚でもしちまえ、と投げ槍に言われた。


 

 

 


***
ハレソマのなれそめ。
4行で終わったので付け足しました。