どうしてこんなところで食事をしなければならないのか、ティエリアにはさっぱり分からなかった。
地上は嫌いだがミッションがあれば降りてこざるをえない。
一日ばかりの休暇では地球に戻るのも、またこの無人島から出てどこかにでかけるのもただの時間の無駄にしかならないのでこの何もない島で四人顔をつき合わせている。
それでもまだ人間が少なく音も最小限なこの島は、地上でも堪えられる土地だった。





<銀のナイフと調理カップ>




朝食と兼ねた昼食を摂ったら部屋に戻ろうと思っていたティエリアは、アレルヤが何かしらごそごそ動いているのを見咎めて思わず何をしているのかと聞いていた。

「食後のコーヒーを入れようと思ってね、ティエリアも飲むかい?」
空のカップを四つ、片手に二つずつ持ったアレルヤはにこりと微笑む。
ああ、と空返事をすると、なら用意するねとタンクから飲料水を薬缶に移して、簡易コンロで火にかけた。
どうやらコーヒーそのものにありつけるのはしばらく後らしいと察したティエリアは、それまで時間つぶしのために持ち込んでいた本に目を通すことにした。

布を張っただけの簡単なルーフの下にできた日陰に椅子を持ち込んで、ティエリアは分厚い装丁を開く。
アレルヤとティエリアの反対側では食事の席で言っていた通りにロックオンが刹那の髪を切っていた。



火にかけられた薬缶から白い蒸気が出始めて、しゅんしゅんと高い音が鳴る。
その音に釣られるように視線を上げると、アレルヤがコーヒーの粉末をカップに落としているところだった。
「ティエリア?」
「貸せ、俺がやる」
「君が淹れてくれるのかい?」
無言で差し出された手に表情を緩めて、アレルヤはじゃあお願いするよと粉末の入った瓶を渡した。

それを受け取って、ティエリアはすでに粉末を入れられてしまった三つのカップと、まだ白い底を晒したままのカップを見落ろし、アレルヤに問うた。
「アレルヤ」
「ん?」
「計量カップはあるか」
「あるけど……」
何に使うの、と視線で問いかけてくるアレルヤから計量カップを受け取って、ティエリアは頭の中から数行分の文章を思い起こす。
その中にある数値通りの粉末を計量カップに入れて、順序立てて湯を注いだ。

目分量などというものが手馴れないティエリアに分かるはずもなく、とりあえず示された手順通りに作っていけば口にできないものができるわけではないと理解していたので、頭の中にあるレシピになぞらえてコーヒーを作っていく。

真剣なティエリアの表情に口元を緩めると、アレルヤはリンゴを手にとって、するすると器用に皮を剥いていった。
剥かれた赤い部分は細い一本の筋となって少しずつ伸びていく。

「ロックオン、刹那、リンゴ食べるかい」
「ああ」
向こうにいる二人へと向けられたアレルヤの問いかけに、一人分の声が返ってくる。
返事をしたロックオンと、当然のように刹那の分も用意しながら、アレルヤはもう一人、自分の後ろにいるティエリアにも声をかけた。

「ティエリアも食べるよね?」
振り向いて聞いたアレルヤに無言のまま、ティエリアは手にしたミルクを計量カップに注ぐ。
その全てを くるくるとスプーンでかき混ぜて、そこについた数滴を舐め取って形の良い眉をひそめた。

「アレルヤ」
「なんだい?」
「やはり君が淹れてくれ」
計量カップに入れたままのコーヒーを置いたまま身を起こしたティエリアに、アレルヤは首をかしげた。
「どうしたの?」
「不味い」
不機嫌そうに呟いたティエリアに苦笑して、アレルヤは八等分したリンゴを皿に並べてナイフを置く。

入れ替わるように机の前に移動したティエリアは、切ったばかりのまだみずみずしい色をした一切れを摘んで咀嚼した。
常より強い日差しの下でうっすらと汗をかいていたせいで咽は乾いていて、酸味と甘味を含んだ水分はあっさりと咽を通った。

砂浜の向こうではロックオンと刹那が髪を切っていて、その会話までは聞き取れない。
すぐ近くではアレルヤがコーヒーを淹れていて、香ばしい臭いが鼻腔を擽る。

――こういうのも悪くないのかもしれないなと、柄にもなく思った。

 





***
1期の第2EDより。
 

 

(オマケ)

「あー! ティエリアリンゴどうしたリンゴ!!」
「あれ、もしかして全部食べちゃった?」
「早く来ないあなた達が悪いのでしょう」
「…………」
「ティエリアー、おまえなぁ……」
「ま、まぁまぁ。まだリンゴ残ってますから」
「なら今度は俺が剥こうか。ウサギリンゴ作ってやるよ」
「相変わらずそういう馬鹿げた事に長けていますねあなたは」
「褒められたのか貶されたのかわかんねーんだけど」
「褒めたつもりはありません」
「でーすよねー……」
「あはは……」