<撮影の合間9>
最終回が終わって、いつになるか未定だけど続編やる予定だからその時はよろしくーという監督の締めの言葉で打ち上げが終わった。
もちろんそれぞれ個人の付き合いなどがあるので全員と二度と会わないということはないが、撮影をしている時よりも顔を合わせる機会は格段に減る。
賑やかな現場は色々あったけれど、もう当分集まることはないと思うと感慨深いものがあった。
あくまでも集まることがないと分かっているからの感慨だ。
当分静かに暮らせるなぁとロックオンは思っていた。
……思っていたのだが。
撮影も終わったし今日は一日オフでゆっくり寝れると思っていたのに、携帯のコール音でたたき起こされた。
画面に表示されたAから始まる文字に安心して通話ボタンを押したのが運のつきで、なんてことはない、アレルヤの携帯を借りたティエリアからの電話だった。
曰く、今から行くから。
しかしアレルヤの(そしてティエリエも泊まっている)部屋はロックオンと刹那のマンションと同じところで、階段を使ったところで三分もかからずに到着できる。
ちょっと待て、と言うより前に通話は切れ、慌ててロックオンがベッドから起きて服を着替えている途中で玄関からチャイムの音が聞こえた。
ここで居留守を決め込んでも意味がないと諦めて玄関を開ければティエリアとアレルヤ、そしてハレルヤとなぜかスメラギまでいて、ロックオンはげんなりと肩を落とした。
「なんで朝からこの面子……昨日とちっとも変わりばえしてないじゃんよ……」
「ご、ごめんね朝早くから」
「髭くらい剃ったらどうですみっともない」
「あらやだ上半身裸だなんて、女性に見せないでよ」
「……どうして朝っぱらからここに集まるんですかね」
「ここが一番気兼ねなく騒げるからじゃねぇの」
「…………」
なんかもうどこから突っ込めばいいか分かんねーよ。
いっそ居留守を使うべきだったのかもしれないと思いつつ、溜息ひとつで全てを諦めて、ロックオンは全員を部屋に上がらせると、上着を着て髭を剃ってまだベッドで寝こけている刹那を起こした。
まだ寝ぼけている刹那に申し訳なく思いながら着替えさせてリビングにいくと、全員が思い思いのところに座っていた。
なぜかすでにお茶が出ている。
セルフサービス……いやいやここは個人宅だ。
しかしもうそこに突っ込むほど気力は残っていない。
「で、なにしにきたんですかね」
「昨日打ち上げの……何次会だったっけ、その後に、もう遅いからってアレルヤ達のとこに泊めてもらったんだけどねー」
スメラギの一言の中だけで三つくらい突っ込みたかったが、はぁそうですかと軽く流した。
スメラギは饒舌に続ける。
「その時に、次に何の仕事するのかって話になって、結構みんな仕事もらってるみたいで、刹那とロックオンはどうなのかなーって話になったんだよ」
アレルヤが補完してくれた。
なるほど、次の仕事か……と一応の納得はつけて、ロックオンはまだ封の切っていないものも多々ある、部屋の一角に思いを馳せた。
00が好評を博したおかげで、それぞれ次の仕事が舞い込んできている。
粒のいい新人が多く出たこともあるだろうし、新しい一面を発見された人もいる。
それらをほかっておくほど芸能界は暇ではないということだろうが。
私はこれくらいね、とスメラギが今後の出演予定の書かれたメモを広げて見せると、刹那がひとつの題名を指して言った。
「……これ、俺もきていた」
「あ、それなら僕ももらったよ」
「それなら俺は準主役で話がきていたはずだ。アレルヤも出るのか、じゃあ、俺も受ける」
「…………」
刹那に続いてアレルヤとティエリアが呟いた言葉にスメラギが絶句した。
その視線がロックオンにスライドされ、ひくついた笑みで問われる。
「まさかロックオンにまで話がいってるなんてことないわよねぇ」
「……目を通した中にはなかった、ですけど」
まだ目を通せてないのがけっこう溜まってるもので、もしかしたらきてるかもしれないですねぇ。
乾いた笑みで答えると、スメラギの目の険が強くなった。
「……どんだけ仕事きてんのよ。首絞めてやりたいわ、あんた」
「違うって! 俺は続編でも出番が100%ないだろうから、仕事いくらでも受けるとか思われてるんだよ!」
必死に弁解を試みる。
さすがに全部受けるつもりはない、受けたら確実に死ねる。
「でも次の収録は少なくとも三年後でしょう? 僕らもそれまでは結構暇だよね」
「アレルヤ、少しは自分の予定を冷静に見た方がいい」
きょとんとしたアレルヤに、ティエリアが呆れた顔で言う。
「確かに収録は二年後かもしれないが、それまで他に仕事がいくつあると思っているんだ。今までのように00ひとつ、というわけにはいかないだろう」
「……ほれ」
今まで無言でいたハレルヤが、抱えていたバックを逆さにした。
どさーっと床にできる台本と企画書の山。
おそらくこれ全部、アレルヤにきたオファーだろう。
「お前、俺に替え玉を頼まないとこなせない感じでオファーきてるからな?」
「え、えぇ!?」
全然気付かなかったよ、と目を白黒させるアレルヤに、それみたことかとハレルヤが溜息をつく。
「きたやつ綺麗にしまうからだよ。全部一度に見たことなかったから多く感じてなかっただけだ」
ついでに、と別の袋から数冊の台本を取り出して、ハレルヤはにんまりと笑う。
「俺にもドラマの話がきたので、お前が自分でがんばるしかない」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」
「つーか俺もスメラギさんが出るやつきてんだ、アレルヤと双子で」
「……ねぇロックオン、あんた今すぐそこからオファーきてないか調べなさい?」
般若のような笑顔で言われて、ロックオンは俊敏な動作で自室に戻った。