※アニメ4話より


<つまっているものは沢山の栄養と>

 


スメラギの復帰とアレルヤの帰還、ライルの加入のお祝いをしようと言い出したのは誰だったか。
ラッセだったかミレイナだったか、ともあれ歓迎会をすることになった。
こんな状態だから簡単なものしかできないが、それでもやらないよりはいいに違いない。
ライルにそれを告げた時、彼は少し面食らったような顔をして、CBって暇なのか、と呟かれた。
なにかの節目にこんな事をするようになったのはあんたの兄貴のせいだ、と刹那は口に出さずに答えた。


歓迎会の準備は着々と進んだ。
ミレイナが部屋を飾りつけ、ラッセが買出しにいったものをフェルトと刹那で調理する。
ハロにレシピを表示してもらってはいるが、刹那達にはそれよりも頭の中にある記憶を頼りに料理を作っていった。
四年前まで何度も何度も近くで見てきた手順を真剣に思い出しながら。

野菜は均等な大きさに。
固いものから順番に炒めるように。
焦がさないよう慎重に鍋は混ぜること。
隠し味は、おいしくなるよう念じて。

手伝っている間に何度も言われた事を思い出しつつ、野菜を切り、炒め、煮込む。
2人で並んで入る調理場はずいぶんと狭く感じた。
「刹那、ジャガイモ取って」
「ああ」
ふかして皮を剥いておいたジャガイモをザルごとフェルトに渡す。
一通りの準備を終えてしまい、後は目の前の鍋の中身を煮込むだけだ。

全ての材料を投入して、フェルトも息をつく。
どことなく満足気な表情に、刹那も出来栄えを予想してほっとした。
「おいしくできてるといいね」
「できてるだろう」
「まだ味見もしてないのに?」
くすくすと笑ってフェルトは冷蔵庫から水を取り出す。
飲むかという仕草に頷けば、コップに注がれたものを渡された。

くつくつと小さく音を立て始める鍋を二人で何気なしに見ている。
最初に作った料理もシチューだったか、と刹那は思い出す。
慣れない手つきで作ったシチューは、思い返せば美味しいと言えないものだった。
それを美味しいと食べきったあの男は。
「私ね、あの後もずっと料理の練習したの」
ぽつりと言い出すフェルトは、同じ事を考えていたのか。
「最初の時なんて、ジャガイモの皮を剥いたら半分の大きさになっちゃうし。沢山練習して、もっとおいしいもの沢山作って、食べてもらおうと思ったの」
作ってもらった分、作ってあげたかった。
「フェルト」
「だから、こうして刹那とまた料理できて嬉しい。食べてもらえるのが嬉しい。……男の人は料理するの好きじゃないんだっけ」
「料理くらい、いつでも一緒にやるし、食べる」
「うん」
そろそろ皆来る時間かな、とフェルトは鍋の中身の様子を覗き込んだ。




















机の上に並べられた料理に感嘆の声があがる。
「フェルトったら随分と腕あげたのねー」
「刹那さんも作ったんですかー? 意外ですー」
「確かに意外だ」
ライルが料理をまじまじと見ながら呟く。

各々が席について、イアンが乾杯の音頭を取る。
味気ない携帯食料ではなく湯気の立つ料理を食べるのは久しぶりだ。
「なんか、戻ってきたって感じがするわぁ……」
酒のグラスを傾けて、スメラギが満足気な溜息を吐く。
「ミス・スメラギ。年寄りくさい」
「なによう、そう思うんだから仕方ないじゃない」
「確かにそんな気分になりますよね」
このシチューとかはしょっちゅう食べてたから余計にそう思うのかもしれないですけど。
やんわり仲裁に入ったアレルヤに、そうよねぇとスメラギが猫なで声で相槌をうち、ティエリアが眉尻を吊り上げた。


「……」
「どうした」
隣で始まった喧騒を無視して、刹那は一口目を食べたまま固まったライルに問いかける。
「まずかったか」
「……うまい、けど。家のと同じ味がする」
ぽつりと言われた一言に、刹那はこのレシピを刹那達に教えた本人が言っていた事を思い出しす。

『このシチューは俺の家秘伝のレシピなんだぜ』

シチューの味は家庭によって違うのかと問うた刹那に、微妙に違うぜとぐるぐると鍋の中身をかき回しながら上機嫌で答えた男はライルの兄で、つまるところこのシチューはディランディ家の「家庭の味」とやらなのだ。
「……ニールから教わったからな」
「兄さんから?」
「よく作ってた。だから皆、この味はよく知ってる」
「……俺の家の味は、いつからCBの味になったんだ」
「文句があるならあんたの兄貴に言え」
「……」
微妙にしょっぱい顔をして二口目をすくうのを見て、刹那も自分で作ったシチューを口に運んだ。

それはやっぱり昔作ってもらっていたものとは違う味で、これが「人に作ってもらうものの方がうまい」ということなのかなとぼんやりと思った。






 

 

 


***
死んでようがなんだろうが兄貴は出します(待
「アイリッシュシチュー」と微妙にリンク。