<撮影の合間8>
「だあああっ! 服を投げ散らかすな! それは俺の上着だ! 勝手に着るな!」
朝っぱらから響いた居候の大声に、少女は眉をしかめて返す。
「私の方が似合うからいいじゃないか。それと、うるさい」
「ソーマ! てんめぇ、こっちがおとなしくしてれば付け上がりやがって!」
「助かるぞ家政夫」
「……」
唸って頭を抱え込んだハレルヤは、手に持っていたソーマの服を床に思い切りたたきつけた。
「やってられるか! 帰る! 俺ぁ帰る!」
「帰ってもいいがアレルヤとティエリアの邪魔をしないために来たんじゃないのか」
「何で俺の周りの奴らはこんなんばっかりなんだよ!」
苛立ち半分で怒鳴ったハレルヤに、彼のシャツを羽織ったソーマはきょとんとした顔で言ってくれた。
「類は友をよ「じゃかましい!」」
なんだ、と不満そうに口を尖らせてからソーマは帽子をかぶって玄関へとづく扉に手をかける。
「早くしろ、先に行くぞ」
「お前が人の服取ったからだろ。ちょっと待て、ここを片づけてから」
「ハレルヤ、急いてはことを仕損じる」
「使い方が違うわ!」
ソーマが乱暴に積み重ねた服の山に上半身をもぐらせていたハレルヤが投げつけてきたのを片手で受け取って、ソーマはそのコートを投げ返そうと片手を上げる。
「持ってけ、冷えるぞ」
「まだ秋口だ、問題ない」
お目当ての服を見つけたらしきハレルヤは、無言でさっさと彼の部屋と割り当てられたところへ入っていってしまう。
下はジーンズを着ているから、上だけならこの場で着替えればいいのに。
女のソーマよりよっぽどその辺は気にするタイプらしい。
「遅れるぞハレルヤ」
「だからお前のせいだよ!」
怒鳴り返してきたハレルヤにくすりと笑って、ソーマはコートを投げるのをやめて腕を通す。
そのまま姿見に全身を映して、少し帽子の角度を変える。
それからくるりと回ってポーズをつけてみた。
「……なにやってんだお前」
「アイドルはどこから見てもきちんとしてないとダメだろう」
「俺はお前がアイドルだという事実を疑う」
つかつかと近づいてきたハレルヤは、ぐいとソーマの帽子を引っ張る。
「なにをする」
「値札」
指でちぎりとろうとしてうまくいかず、ハレルヤは歯で値札を噛み切ると、ぽいとそれを自分の頭の上に乗せた。
「ほら、行くぞ」
「あっ、コラ、返せそれは私のだ!」
「俺の方が似合うからな」
「私の方が似合っているに決まってる!」
慌てて廊下を走って追いかけるけれど、ソーマがブーツに足を突っ込んだころにはもうハレルヤは階段を下りていってしまっていた。
待ち合わせ場所にいた彼は、近づいてくる足音にぱっと顔を上げると萎れたように項垂れた。
「おいおい、露骨すぎるぞテメェ」
「久しぶりだな」
「……ロックオン、来ない」
すねたように足元を蹴る刹那は、その顔を目深にかぶった帽子で隠している。
今日は彼の久しぶりのオフなのだ。
ダブルオーの撮影が終わってからめっきり会っていないソーマだったが、ハレルヤの方は弟が同じマンションに住んでいるから比較的顔を合わせることが多い。
「珍しいな、集合には遅れないのに」
「ったく、おめーら同じ部屋に住んでて何でバラバラにくるんだよ」
呆れたようにハレルヤが言うと、刹那はだって、と顔を曇らせた。
「ロックオン、朝一の仕事……生放送だから九時には戻るって言って、俺は早朝の打ち合わせがあったから……直行して……メールも……」
だんだん語尾が小さくなっていく刹那の頭をハレルヤは慌ててぐしゃぐしゃなでる。
乱暴なその仕草に、刹那は頭を押さえて歯向かうが、後ろに回ったソーマに肩を押さえられて逃げられなくなった。
「ぐしゃぐしゃにしてやらぁ」
「い、いやだ、はなせっ」
「離すか。遠慮なくやれ、ハレルヤ」
しれっとソーマが言うと、ハレルヤはその手を刹那の体の方へとむける。
「言われるまでもねーな♪」
「は、はなせって! わっ、く、くすぐった、ひゃっ」
脇下を狙われて、刹那は痙攣じみた声で笑う。
「まだギブはしねーよなぁ」
意地悪な顔で言って、ハレルヤは攻撃の手を休めない。
刹那が身をよじって笑い、目にうっすら涙が浮かぶほどにくすぐり続けていると、ハレルヤの肩にぽん、と音だけは軽く手が置かれた。
ぴき、とハレルヤが固まる。
「俺のせっちゃんでなにやってんのそこの不良少年♪」
「遅かったなロックオン」
その姿をみとめて、ソーマはぱっと手を離した。
「ろっ……く、おんっ」
ようやく解放された刹那がけほけほと咳き込みつつ、よろけながらも立ち上がってロックオンに歩み寄ると抱きつく。
「お、遅い」
「ごめんなー刹那」
ほら行くぞーと手を引っ張られて、こくりと頷いた刹那はロックオンについてく。
「私たち行くぞ」
ほら、とソーマがハレルヤの背を押すと、それまでフリーズしていたハレルヤの足がようやく動いた。
***
7話でアレルヤ×マリーが確定。
それでもブタイウラではハレソマをおします。