※アニメ2話より


連絡が途絶えたままだった刹那が四年ぶりに帰ってきた。
その隣に、あの人に良く似た人を連れて。





<ただいまとおかえり>





四年ぶりに戻ってきたと思ったら、刹那はトレミーを降りたはずのスメラギと、新しいロックオンを連れてきた。
双子の弟らしいが、その姿はフェルトが知っているロックオンと区別がつかないほどそっくりだった。

欠けていた顔ぶれのうち二人が戻ってきても、フェルトの気分は高揚しきれていなかった。
スメラギが戻ってきてくれたのは嬉しかったが、彼女は自室にこもりきりで、制服に袖を通す事もしていない。
そして今まで連絡ひとつよこさなかった刹那は、「ロックオン」を連れてきた真意を明かさないままふらりと姿を消した。
消したといってもトレミーの中にいることは分かっているから、探せばすぐに見つかるだろう。
彼の行きそうな場所はフェルトにも予想がつく。

シフトの関係上、すぐに刹那のところに行く事はできなかった。
通常の仕事をしながらも常より上の空なフェルトに、ラッセは早々にシフトの交代を申し出た。
刹那の帰還、「ロックオン」の登場という、フェルトにとって衝撃を受ける出来事がまとめて起こったのを気遣ってくれたのかもしれない。
申し訳なく思いながらもラッセの心遣いに素直に感謝して、フェルトは操舵室を出た。

向かったのは、刹那にあてがわれた部屋でもトレーニング室でもなく、MSが収納されているコンテナ。
刹那は時間のあるときにエクシアの整備を眺めている事があった。
コンテナの中央にはダブルオーが安置され、整備用のハロが飛び跳ねながら調整を行っている。
機体がよく見える場所には刹那の姿は見当たらず、フェルトは階段を降りてコンテナの隅に向かう。
そこには太陽炉を取り除かれて、あとは廃棄を待つだけになったエクシアが置かれていた。
ハロ達の喧騒から遠くはなれた場所で、刹那は一人エクシアを見上げていた。

「刹那」
フェルトが声をかけると、振り向いた刹那は驚いたように僅かに目を大きくする。
「……よくわかったな」
「なんとなく」
四年前の戦いと、先の戦闘でぼろぼろになってしまったエクシアは、いくつかのまだ使用できるパーツを取ってしまえば鉄屑に成り果てる。
だからきっとそうなる前に、お別れを言いにきたんだろうと思ったから。
四年前にデュナメスもキュリオスもヴァーチェもプトレマイオス1号もいなくなって、最後に残ったエクシアもいなくなる。
最初に乗って共に戦った機体は刹那にとっても特別なのかもしれない。


あの頃は輝いて見えた装甲は、度重なる酷使で近くで見ると随分くすんでいた。
ざらついた表面を撫でて、フェルトは刹那に尋ねる。
「自分で整備してたの?」
「できる限りは。それでもところどころは無理だった」
本職でないし、十分なパーツもそろわなかったからそれは仕方がないだろう。
それでも大事にされていたのだとはわかる。

フェルトの隣に立って同じように装甲に触れる手はずっと大きくなった。
前はすぐ隣にあった顔は、もう見上げないといけなくなってしまった。
「背、のびたね」
「いつまでもあのままじゃ困るだろう」
微妙な顔で返されて、四年前は刹那は身長でコンプレックスを持っていたのだっけ、と思い返した。
食事の度に牛乳を欠かさず飲んでいたような記憶がある。
それでもなかなか伸びない刹那の身長を誰よりも心配していたのはロックオンだ。

思い出し笑いをしたフェルトの髪を緩く触って刹那が呟く。
「フェルトは大人っぽくなった」
「そう、かな」
優しい触り方がくすぐったくて、微かに身じろぐと、すんなりと手は離れた。
「髪型は……クリスティナか?」
「あんな風にしっかりできたらいいなって」
「そうか」
「刹那は四年間、なにしてたの?」
「世界を見ていた」
エクシアを見上げながら刹那は言った。
「俺達が変えた世界の先は、望んだ未来を迎えられるのか……見ておきたかった」
「……うん」
「けれど、このままじゃいけないと思った……だから俺はもう一度戦う。この世界を、もう一度変えるために」
強い瞳を見せる刹那に、フェルトは気付いた。
スメラギを連れ戻したのも、「ロックオン」を連れてきたのも、刹那なりの覚悟の現れなのだと。










休憩時間の終わりを告げるアラームが鳴る。
エクシアとの最後の別れをするように装甲をもう一度撫でて、フェルトは踵をかえした。
その腕を掴まれる。
驚いて刹那を見ると、酷く真剣な顔をしていた。
「……ひとつ、言わなければならないことがあった」
フlルトの腕を掴んだまま、刹那は微かに瞳を揺らす。
前よりずっと背が伸びて、声も落ち着いた低いものに変わっても、赤を映す瞳は変わらない。
ぎらぎらした瞳はどこか寂しさを讃えているけど、それは私もきっと同じだ。
数秒の沈黙のあと、刹那は唇をゆっくりと動かした。
一字一字、はっきりと。
「ただいま」
「……」
「言うのが遅くなった、すまない」
その言葉が言い終わる前にフェルトは刹那の胸に飛び込んだ。
「おかえりなさい!」
先程までの無表情とは打って変わってうろたえる刹那の胸に顔をおしつけて、フェルトは涙混じりの声で、半ば叫ぶように言った。
同じだけ溜まっていたものが、目からこぼれ落ちる。

――四年間、ずっと言いたくて言えなかった言葉を、ようやく言えた。










***
書いてて真面目に刹フェルでいいんじゃないかと思いました。
ただしこの人達が進展するかは別問題。