<それが答え 2>
あれからティエリアはあからさまにアレルヤを避け始めた。
シミュレーション時も最低限の会話しかしないし、もともとあまり合わなかった視線は完全に合わせてもらえなくなった。
明らかに二人きりになるのを避けている。
四人合同のシミュレーションが終わってアレルヤがコックピットを出る時にはすでにティエリアは部屋を出るところだった。
シュン、と容赦なく閉じられる扉に溜息を吐きながらアレルヤが下に降りると、苦笑いを浮かべるロックオンと、この上なく不機嫌そうな刹那が待っていた。
「よう、お疲れさん」
「お疲れ様です」
「どうしたよ最近。喧嘩か?」
「喧嘩・・・・・・の方が良かったんですけど」
ロックオンの問いにアレルヤは眉尻を下げる。
やはり察しがいいロックオンには気付かれていたらしい。
大分ティエリアと打ち解けたなと最近言われたばかりだったので、余計に目に留まったのだろう。
「まさか押し倒したとかじゃないだろうな」
からかい混じりで言ったロックオンは、返事のないどころか表情をなくしたアレルヤに、まじか、と笑いが引っ込む。
「・・・・・・本気で?」
「いえ、押し倒したわけでは・・・」
「じゃあ押し倒された?」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・そうか」
ご愁傷様、とばかりに肩を叩かれる。
沈んだままの表情なアレルヤに、ロックオンははぁ、と溜息を吐いて明後日の方向を見る。
「次は30分後にミーティングだったよなぁ」
「そうですね」
「俺と刹那10分くらい遅れるんで、よろしく」
「え」
「ロックオン、それは」
「ほーれ、刹那行くぞー」
ぐいぐいと刹那の肩を押してロックオンは部屋を出て行ってしまう。
出る際に頑張れよ、と言わんばかりにウインクをして去っていく彼は、どうやら強制的に二人きりになる場面を作ってくれたようだ。
話をするにも二人きりにならないと無理な内容であったし、それはありがたい事ではあるのだが。
「会話になるかなぁ・・・・・・」
言いたい事は決まっているけれど、言わしてもらえるかは別問題だ。
「憂鬱だよハレルヤ・・・」
一人ごちても仕方がないと、アレルヤは作戦室に向かった。
基本的に時間に遅れる事を許せない性格なので、10分前には到着するのが常だが、ここ数日はある人物と二人きりになるのが嫌で時間ぎりぎりに部屋に行くようにしていた。
今日も時間ぎりぎりに作戦室に足を踏み入れると、いたのはアレルヤだけで、ティエリアは眼鏡越しに目を細めた。
ピピッ、とセットされた電子音が響く。
時間になったというのに、ロックオンと刹那は現れない。
「・・・あの二人は」
「遅れてくるみたいだ」
にこりと、普段と変わらない笑みを向けてくるアレルヤに苛立ちが募る。
数日経っても向こうから何か言ってくることはない。
ティエリアが避けているには違いないが、その気になれば部屋を訪れる事もできるし、通信回線は開いたままで、会話が不可能ではない。
こちらが起こした行動を向こうがどう取ったのか知りたいようで知りたくなくて、できるだけ接触は避けていたのだが、連絡を取ってこないどころか普段通りの様子なアレルヤに、感情が波立つ。
「ティエリア」
「・・・・・・・呼んでくる」
「ティエリア、待って」
背後からかけられる声を振り払うようにティエリアはドアの端末に手を伸ばした。
だん、と顔の横から手が伸びて、ドアを開くのを邪魔するかのようにドアにつかれる。
「どうして逃げるの」
「・・・・・・・・」
「ティエリア」
一段低い声で呼ばれて、ぞくりと背筋に這うものがある。
後ろに立っている男の顔を見たくなくて、ティエリアは振り向けない。
「好きだよ」
「っ」
「好きだ」
耳元で囁かれた声に、かっと頭に沸いてきたのは、怒り。
ばしりと顔の横にある腕を振り払って、ぎっと背後の男を睨み付けた。
片側しか見えない瞳は戸惑いの色が浮かんでいて、反射的にティエリアは叫んでいた。
「何を今更っ!」
シュン、とドアが開いた。
部屋の外に立っていたロックオンと刹那が、ドアのすぐ前にいた二人に驚いたように一歩退く。
それを押しのけてティエリアは駆け出した。
こんな気分でミーティングなどやれるわけがなかった。
それ以上に。
これ以上あいつの顔など見ていたくなかった。