<それが答え 1>




シュミレーションを終えて、アレルヤは自室へ向かいながらふと進路を変える。
180度反転して、もう一度シュミレーションルームを覗き込むと、予想通り彼はまだそこにいた。
「ティエリア、やっぱりいたんだ」
「・・・」
何しに来た、と無言で問うような眼で睨んでから、ティエリアは機械の前で繰り返し先ほどのシュミレーションをチェックし続けている。


かちゃかちゃとキーボードを叩く彼の後ろに、いつのまにかアレルヤが立っていた。
ティエリアより高い身長をかがめて、後ろから画面を覗き込む。
「――うん、今日は何が引っかかってるんだい」
「切り替えしが遅い上に甘かった」
「だけど、そのおかげで僕は体勢を立て直す時間ができたともいえるし」
そんなに問題視することではないと思うな、とほのぼのとした空気で言われてティエリアはため息をついた。


はあ、とそれが大きく響く。
なにか気に障ることを言ったのだろうかと、アレルヤは内心狼狽した。
(ハレルヤ・・・またやってしまったみたいだよ)
近頃、ティエリアに何か言うたびにため息をつかれている気がする。
よっぽど呆れたならそういうだろうし、何も言わないし特に避けられている感じもしないので、自分がしたいようにくっついて回っている、のだけど。
「気に障ったかな・・・ごめんね?」


紫の髪からのぞく耳に口を寄せて呟く。
吐息がまともに耳にかかって、ゾクリと背筋を何かが這った。




「ティエリ――?」
硬直した相手を不思議に思い、アレルヤは顔を覗き込もうと体勢を変える。
「ティエリア」
どうしたの、という前に。

「――っ!?」
ぐい、と髪を掴まれて引っ張られる。
頭部の痛みに顔をしかめる間もなく、生暖かいものが唇に触れた。
「!」
驚きに眼を見張るアレルヤの前で、ティエリアは少し顔を離すと眼鏡ごしではない眼で挑発するように見上げると、赤い舌を出してぺろりと相手の唇を舐め上げる。
「・・・っ」
赤面したアレルヤの髪をようやく離し、ティエリアは突き飛ばすように彼を押しやって、眼鏡をかけた。
「ティ、エリア」
「うるさい」

ぴしゃりと言われて、アレルヤは真っ赤になった顔を隠していた手を、そろそろと下ろす。
驚愕の後に、じわりと別の感情が沸き起こった。
「あの、ティエリア」
「・・・」
無言でシステムをシャットダウンすることもせず、足早にティエリアはその場所を立ち去ってしまう。
追いかけるにも追いかけられないアレルヤは、仕方なしに彼が立ち上げっぱなしのシステムを終了させながら、呟く。

「・・・まさか・・・そんな都合のいい話・・・あるのかな」
だけど、確かにティエリアがしたのはそういう感情の下の行為だ。
彼のことだから、そんなにほいほいとしたわけではあるまいし、なにかの意趣返しの可能性も低い。
これでロックオンならまだ冗談かもしれないと思えるし、刹那ならきっとそういう意味じゃないんだろうと勝手に納得できるが・・・・・・ティエリアなので、どっちもなさそうだ。

「僕は、どうすればいいんだろうね・・・ハレルヤ」

見えなかった相手の心の一部が見えても、やはりどう動けばいいかはよくわからなかった。